第10話 おいてけぼり。
光莉は家の話をあんまりしない。
自営業をしている事なんかは聞いたけど、私のお父さんが亡くなっているからか、家族の話は会話に出てこない。
帰りは一緒に帰るが、朝は待ち合わせをしない。
光莉はよく学校を休む。
サボりなのに「待ち合わせしていて、いけないと悪いしさ」なんて言う。
今日も始業のチャイムが鳴っても光莉の気配はない。
担任の先生も慣れた感じでホームルームを進めてしまう。
黒板の日付を見て、後数日で自由登校になると思ってしまう。
本当なら高校三年生の冬なのだから、学校の皆との時間を惜しむべきなのに、春也と出かける事ばかり考えてしまう。
春也…。
先日風邪を引いてしまった時には驚いたが、治った時の春也は昔の春也に近かった。
心が壊れるまで働いてしまったいとこ。
お母さん経由で藍子おばさんから聞いた話は無茶苦茶だった。
いつ寝るのか、いつ食べるのか、いつ休むのか私にはわからなかった。
春也がこっちに来て、コンビニを散歩先にした時に、レジ横のチキンの話になった。
レジ横のチキンを見て苦しそうに顔をしかめる春也。
本人は忘れているのだろう、最後はコンビニの惣菜パンとレジ横チキン、後はお茶が春也の食事だった。
倒れるのは当然だ。
そこに精神的負担も重なれば倒れる。
社会に興味のない私でも、名前を聞いた事があるくらいの無責任な会社様は、全責任を春也に押し付けて、上から目線で偉そうに休業補償だけ渡して無かったことにした。
だがあなた達のやった15ヶ月で春也は壊れた。
元気になった春也は仕事に戻るのだろうか?
そんな事をしないでずっとウチに住んでくれたらきっと楽しい。
お母さんも笑顔だし…、私も楽しい。
退屈な現国の授業中、スマホが胸ポケットでブルっと震える。
春也の事だといけないので、こっそりと見ると相手は光莉。
[学校行かなーい]辺りかと思ってゆっくりとスマホを見ると、[今、駅で春也さんに会ったよ。なんかこの前と違う。急いでいて、どこに行くのか聞いたら、東京って言うから私も着いていく]と書かれていて、すぐに[えぇ!?ゴメン!助かるよ!]と返しておいた。
私は休み時間に慌てて家に電話をすると、普段通りに電話に出るお母さんは「どうしたの?」と聞いてくる。
「お母さん!春也東京に行くって!たまたま駅で光莉が見つけてくれたから付き添ってくれたって!」
「えぇ…。なんで?わかったらまた教えて」
もうその後は授業どころではなかった。
次に光莉からメッセージがきたのは、春也が病院を目指していて、病院の先生から驚かれていた事とかだった。それをお母さんに伝えると、お母さんも話が早くて、藍子おばさんに聞いたところで、春也自身から電話が来てキチンと話ができていた。
なんかおいていかれた感じが嫌すぎた時、お昼過ぎの五時間目に光莉から[春也さんがお昼を奢ってくれたよ!]と言って豪華なランチの写真が届く。
や ら れ た
羨ましい!
妬ましい!
お母さんお弁当は美味しいけど、美味しそうなハンバーグは憎らしい。
春也、食べ物の恨みは怖いんだぞ。
私は位置共有アプリで春也を見ると秋葉原駅にいた。秋葉原は私でも知ってる電気屋さんがある街だ。何か買うのかな?
電車に乗ったのだろう。動き始める頃に午後最後の授業が始まる。これなら駅で合流出来る。
私は片付けるものを片付けると、さっさと学校を出て駅に向かう。
改札でアプリ片手に待つと、春也と光莉がやってきた。
春也の顔は昔の春也になっていて、私は嬉しい気持ちになる。
私が「春也!」と声をかけると、驚いた顔の春也が「あれ?笑梨だ。ただいま」と言って微笑んでくれる。
その横の光莉に「ありがとうね光莉」と言うと、光莉は「ううん。私はたまたま駅に居ただけだからよかったよ」と言ってくれた。手には大きな袋を持っていて電気屋さんの名前が書いてあった。秋葉原は光莉の為だったのかと納得をした。
光莉は駅の出口は一緒でも、帰る方角は別なので駅前ロータリーで別れる。
私は横を歩く春也に「お昼ご飯何食べたの?」と聞くと、「白身魚フライ」と返ってくる。
「ハンバーグ、とっても美味しそうだった」と言うと、「光莉さんの?見たの?」と聞いてきた後で、「今度どこか連れて行くよ」と言ってくれたので、「ありがとう春也!大好き!」と飛び付くと、春也は赤くなって「こら、年頃なんだからダメだよ?」と言った後で「光莉さんもやってくるし」と言った。
光莉が春也に飛び付くの?
なんとなくモヤモヤした私は、「とりあえず心配したからなんか買って」と言ってドーナツを買ってもらった。
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