第9話 栃木と東京。
朝、家出同然に家を飛び出した。
父と母の話ぶりが許せなかった。
金で解決させようと、金で黙らせようとしてきている事が許せなかった。
家族カード、クレジットカードを渡された時、頭の中が真っ白になった。
学校なんて休んでやる。家を出てやると思って外に出たが行き先はない。
本当に困ってしまった私は駅を目指す。
どうせなら宇都宮にでも行って、餃子の一つでも食べて笑梨に自慢メールでもしてやろうと思った。
秋田笑梨。
中学からの友達。
高校では1番の友達。
だからこそ年末に会えなかった事が悲しかったし、年始に会えなかった理由を知った時には何かしてあげたいと思った。
私は変わらずにバカ話をしようと思って、宇都宮で餃子の像とツーショット写真を撮って送ってやると思ったら、駅に笑梨のいとこの、この冬に笑梨を束縛する結果になった人が小走りで券売機に向かっていた。
年始に見た時と、先週見た時は常に寝起き、常に酒に酔っているようなフワフワフラフラした感じだったのに、今朝はシャキッとしていて笑梨の話と何かが違う。
これはまた笑梨の負担が増える奴だと思った私は、追いかけて声をかけると東京に行くと言う。
着いていくと言って電車に乗り込んで家族が心配すると言われた私は、親に言うフリをして、笑梨に[今、駅で春也さんに会ったよ。なんかこの前と違う。急いでいてどこに行くのか聞いたら、東京って言うから私も着いていく]と送ると、すぐに[えぇ!?ゴメン!助かるよ!]と返事が来た。
私は知っていても知らないフリをして、春也さんに何があったかを聞くと、心を病んでいて通院しなければならない事を思い出していたと言う。
今までと何が違うのかを聞いたら簡単で、先週風邪を引いた春也さんは、寝られたからか元気になったら頭がスッキリしていると教えてくれた。
同じ冬なのに少しだけ暖かく感じる東京。
しっかりと受け答えをしている春也さんを待つ間に、笑梨と話を済ませておく。
病院が終わると春也さんはお昼をご馳走してくれた。
私は可愛い店構えに惹かれて選ぶと、それはお洒落なお店で、私からしたら夢のような話で、恐れ多くて慌てる私と違って、スマートに注文をする春也さんは栃木の人ではないんだなと思ってしまったし、格好良く見えた。
もうこの段階で私は少しでも春也さんに近付きたくて、帰りにカメラが欲しいとお願いをして、駅に隣接したビルの電気屋さんに連れてきてもらった。
確かに高いカメラ達。
本来ならとても買えないが、今の私には朝のカードがある。
お母さんに電話をして朝の事を謝って、カメラが欲しいと伝えて、なんとかお許しを得て買ったカメラは、春也さんと選んだ特別なカメラで大事にしようと思った。
帰りの車内で、春也さんに何があったのかを話してもらった。
仕事内容は驚いてしまったが、私には馴染み深い物だった。
春也さんは心身を壊すまで働き詰めだった。
質問はダメだと言われていたのに、我慢できずに「それって春也さんの仕事なんですか?他の人は?」と聞いてしまったが、春也さんは困った顔で「なんでだろう。わからないんだ」と言った。また調子が悪くなる事を考えた私は、慌てて抱きついて「ごめんなさい!」と謝ると、春也さんは笑顔で「ううん。嫌な話をしてごめんね」と言ってくれた。
その後は心の話はやめて、笑梨の話なんかをしていたらすぐに駅に着いていた。
楽しい時間をもっと過ごしたくて、本当は家まで送りたかったのに、笑梨が駅まで迎えに来ていて仕方なく駅で解散をした。
帰った私は筋を通して両親に頭を下げて買ったカメラを見せた後は、部屋に篭って少しだけ使ってみたがよくわからなかった。
カメラなんてものはスイッチを入れてシャッターでなんとかなると思っていたが、ボタンやダイヤルが多すぎる。
正直18万使っておしまいは格好がつかない。
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