目が覚めた春也。

第7話 数年ぶりの風邪の後。

風邪なんて引いたのは大学以来だった。

寝込む際に、笑梨からは「雪降ってるのに薄着だし、もう若くないんだよ!」と怒られた。


熱が下がってから「正月に玄関で会ったらしい子にミルクティーをご馳走になった」と言うと、「光莉?学校で会ったらお礼言っておくよ」と返されて、光莉さんの名前を知った。


熱は3日で下がって、蒼子おばさんから「もう平気ね」と言われたので散歩に行こうとしたら、笑梨から「まだ早いよ!ぶり返すよ?」と言われてしまう。


俺は「うん」と返事をしながらも、「自分でも不思議なんだけど風邪引いた方のが調子がいいんだよね」と告げると、笑梨が驚いた顔で「はぁ?じゃあずっと調子悪かったの?」と聞いてきた。


「そうなのかな?なんか頭もスッキリしてるんだ」

「それ、寝不足だよ。夜中にカチャカチャ聞こえてたから私にはわかるよ」


「え?音出てた?」

「そうじゃないよ。この3日は音が出てないから静かでよく眠れたよ」


ジト目の笑梨に「あー…ごめん。早寝して朝やるよ。撮った写真を見たりしてるんだ」と謝ると、蒼子おばさんが「それがいいわね。朝なら寝坊助の笑梨も早起きするわね」と言って笑う。



「まあ散歩はもう少ししたら朝の奴も付き合うよ」

「笑梨?」


「学校、三年生は自由登校だもん。お休み入ったら朝も付き合ってあげるよ」

「何処のモーニング?」


「えぇ?そんなつもりじゃ…、ファミレス…」

「いいよ。了解」


モーニングの話をしたら、笑梨は嬉しそうにスマホで「どこに行こうかなぁ」と言っている。

その姿を見て現金だと思っていると、俺はふと気になってスマホを見たら1月も終わりが近づいていて慌てた。


慌てた俺に気付いた蒼子おばさんが「春也くん?」と聞いてくる。


「あ、今更だけど結構な予定を忘れてたみたいで…。寝不足って怖いですね。とりあえず父さんってどうなりましたかね?」


「え?春也って藍子おばさんに聞いてないの?」

「ふふ。藍ちゃんが怒ってたわよ。栃木暮らしが楽しいからって、父親の手術も気にしないの?だって」


俺は慌ててメッセージアプリで[え…と、ごめん。父さんどうなった?]と聞くと、すぐに[旧暦で生きてるの?無事よ。歩行練習してる]と返ってきた。


「あ…。無事でした」

「ふふ。安心した?」


「はい。良かったです」と返事をした俺は、翌朝大切な事を思い出したので出かける事にした。


玄関で「出かけてきます。夕方には帰ります」と言うと、散歩に行くと思っていたのか、蒼子おばさんの「え?春也くん?」という声が聞こえてきたが、時間的にギリギリなので待ったなしで駅まで行って切符を買っていると、「あれ?春也さん?」と声をかけられた。


相手はこの前のミルクティーの子。

名前は確か光莉だったかな?


「えっと、笑梨の友達の…」

「どうしたんです?切符なんて買って」


「ああ、行かなきゃいけないのに忘れてたんだよね」

「何処に行くんです?」


時刻表を見ると少しなら余裕はあるが、それでも心許なくて「ごめんね。急いでて、東京に行かなきゃいけないんだ」と言って改札の方へ向かうと、光莉さんは「私も行きます!」と言って切符を買って着いてきてしまった。


「えぇ?学校は?笑梨は学校だよ?」

「自主休校です。まあ出席日数も足りてますんでお気になさらずに」

「そんないきなり…。ご家族が心配するよ?」

「…そんなこと……そうですね。連絡だけはします」


光莉さんはスマホで多分親御さんに連絡をすると、「これで良し。で、春也さんは何処に行くんですか?」と聞いてきた。


「内緒にしたいけど…向こうで離れるのは迷子とか困るよね…。笑梨は心配するから黙っていてくれる?」

「はい。心配?ですか?」


不思議そうに俺の顔を見てくる光莉さんに「うん。病院にね。定期検診を忘れてたんだ」と言うと、物凄い顔で「はぁ?」と言い、「何処か悪いんですか?」と聞いてくる。


俺は少し悩んでしまうが、こうなると仕方ない。「うん。少しだけメンタルを病んで休職中なんだ」と説明をしたら、光莉さんは驚いた顔で「そんな。元気そうなのに…。大丈夫なんですか?」と聞いてきた。


心配してくれる顔に「まあ大丈夫だと思いたくても、自分ではよくわかんないから病院だね」と答えると、光莉さんは「わかりました。何かあったら言ってください。私は力持ちですから、春也さんを抱っこしますね!」と言ってくれた。


「ありがとう。今の俺は軽くなったはずだから持ちやすいかもね」

「軽い?」


「うん。食事が前ほど摂れなくてさ、本当なら笑梨より食べるんだよ」

「えぇ?笑梨っていつも食べてますよ。それよりですか?」


光莉さんは笑いながら「あ、返事来てる。返信させてください」と言ってスマホを触るが、結構長くて内容が気になった俺は「親御さん?怒ってる?」と聞くと、「いえ、母は問題なしです。父はうっさいんで知りません。私が打つの遅いんですよ」と言って笑った。

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