第6話 友達に話す。
帰ってこない春也を心配してスマホを見ると、駅向こうを歩いていた。
「お母さん、春也は駅向こうだ」と言うと、「気にしてくれてありがとう絵梨」と返事が返ってくる。
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
「何が?外に出ること?」
「外でこの前みたいになると大変だよ?」
「藍ちゃんの話だと1人ならならないし、スマホの位置情報もわかるし、何かあれば電話もできるわよ」
藍子おばさんの言う通りと言われると何も言えなくなる。
確かにあのお正月も藍子おばさんの言う通りになった。
春也は特定の事をするとおかしくなる。
それを聞いた日は本当に驚いたし心配した。
でもその事に触れなければまだ普通だ。
あの日も私は驚く光莉を連れて外に出ると、コンビニのイートインスペースで「絶対誰にも言わないで」と言って春也の話をした。
訳があってウチに春までいる人。
一応外ではおかしくならないとは言われているけど、何があるかわからないから、環境の変化が怖いから目を離したくなくて、年末年始は断っていたと説明をすると、光莉は「そう言う事なら任せてよ。それとなく見かけたら笑梨に連絡するよ」と言ってくれる。
「でもあんなに酷くなるなんて何があったんだろうね?」
「お母さんからは少しだけ聞いた。春也は頑張りすぎたんだって…」
「そっか…。あと気をつける事は?」
「鞄には触らない事と、中身も深く追求しない事、写真が趣味みたいになってるから、撮ったものを見ても悪く言わないで」
私の説明に光莉が神妙な顔で「うん。けっこうあるね」と言う。
「うん。後は人は撮らないから写してとか言わない事なんだ」
そう、春也は人物のスナップ写真を撮らない。
…撮れない。
恐らく撮る話が出たら、先程の比にならないくらい卒倒して倒れてしまう。
「なんか…、こっちにいる間になんとかしてあげたいね」
「うん。だから毎日散歩をしてる。私も一緒に付き合ってるよ」
光莉に感謝をしていると、お母さんからメッセージで春也が起きて無事な事、私を探していると言うので帰る事にする。この日の春也はコンビニまで行ってマドレーヌをご馳走してくれて、そのまま猫の写真を撮って帰る。
お母さんは部屋が離れてるから気付かないが、春也は夜遅くまでブツブツと何かを言いながらパソコン操作をしている。この日も遅かった。
眠れない身体。
寝たいのに眠れないなんて可哀想だ。
私は「春也があんまり動かない。もう迎えに行こうかなぁ」とボヤきながらスマホを見ていると、春也のGPSが動き始める。
「あ、動いた。お母さん、春也動いたよ」と言ったところで、光莉からメッセージが届く。
[今、駅でお兄さんに会ったよ。ずっとエンジョイ公園に居たって、寒く感じたから上着を買ったって言ってたよ。実際に冷えていたからホットミルクティーを奢っておいたから]
私は光莉に感謝をしながらお母さんに届いたメッセージの話をする。なんとなくだが春也が寒さを感じてくれて服を買った事が嬉しかった。
だが直後のメッセージで背筋が凍った。
[お兄さん、人が撮れないんだよね?公園で人を撮ってたよ。見せてくれたけどなんか覚えてない感じ。大丈夫かな?]
私達は話題に触れる事なくやり過ごす話になった。
この日帰ってきた春也は見た目も何もいつも通りで、夜中も別に人の写真を見ても卒倒した様子はなかった。
だが春也は薄着で市民公園に何時間も居たからだろう、熱を出して3日寝込んでいた。
風邪薬のおかげで眠ってくれていて、かえって良かったのかもしれない。
お母さんは藍子おばさんに謝っていたが、藍子おばさんの事だから逆に謝ってくれたはずだ。
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