第5話 油断が招いた甥の異変。

春也くんが外に意識を向けるようになってくれた。

家の中より散歩に出たがる話なんかは、藍ちゃんから聞いていたので驚かないが、聞いていた徒歩15分圏内の外にも行くようになって、藍ちゃんに連絡を取ると[良かった。蒼ちゃんと笑梨ちゃんのおかげかな]と返事が来た。


[私たちは何もしてないよ。全部春也くんよ]と返して数日が過ぎた新年早々、私達は自らの迂闊さ、認識の甘さを痛感した。


笑梨は春也くんが心配だからと年末年始の外出を減らしていた。

友人達との約束も断った。

だが理由は話せない。

笑梨自身は一応新年学校で話せばなんとかなると思っていた。


大体の友達はそれで良かったが、一人、昔からの友達、冬原光莉ちゃんは新年にウチまで来た。


チャイムが鳴り玄関に出ていくと、「やほー、あけおめー」と言って手を挙げる光莉ちゃん。

それを見て困った顔の笑梨と、その後ろで不思議そうな春也くん。


「元気?年末年始どうしたのさ?」と聞く光莉ちゃんに、笑梨は春也くんに見えない角度で、[詳しくは後で言うから今は話を合わせて]と慌ててメッセージを送りながら、「うん。いとこの春也が着てたし、迷子になるから放って置けないんだよ」と説明をする。


春也くんはそんな笑梨の後ろで、「俺の事なら平気だぞ?」と言っているし、光莉ちゃんは「誰?お兄さん?」と言っている。


笑梨は必死に話を作りながら、「春也は私のいとこで、私の叔父さんにあたる春也のお父さんが、単身赴任先で大怪我して入院したから、叔母さんが単身赴任先に行っちゃって、お母さんが久しぶりに来てなさいって言ってくれたの。で、来てみたら春也ってば方向音痴になってて、心配だから目が離せないんだよね」と説明をしてスマホの画面を強調すると光莉ちゃんは「あ、そうなんだ。納得」と言った。


「笑梨?俺なら平気だぞ?」

「よく言うよ!来てすぐにコンビニ行く時に、職質受けてたんだよ?」


ここで春也くんの空気が変わり、慌てる私よりも先に笑梨が「それにおやつ」と言うと「ふふ」と笑った春也くんは、「やっぱりそれか。今度は何がいい?」と聞いて笑梨は「バームクーヘン」と答えた。


これで終わってくれれば良かったが、春也くんは光莉ちゃんに申し訳ないから上がって貰えば?と言ってしまう。


光莉ちゃんも何もわかっていないので、「ありがとうございます」と言って上がってきて笑梨を誘ってゲームをはじめる。


「お兄さんもどうですか?」と誘われて、春也くんも「いいの?」なんて言って参加をした時は、藍ちゃんに言われていたいい刺激になるかと油断をした。


光莉ちゃんは「年末に皆でやるために買ったんだー」と言ってボードゲームのテレビゲームを出してくる。


「へぇ、懐かしいや。俺が子供の頃はボードゲームだったのに、今はテレビゲームなんだね」


楽しそうにゲームをした春也くんを見て油断をした。

それは笑梨も一緒だった。


何も知らない光莉ちゃんは「え?また?お兄さん先に進み過ぎですよ!」と盛り上がり、「あはは、運かな?」と笑いコマを先に進める春也くんは、学生を終わらせて社会人になるマスに止まった時にそれは起きた。


私と笑梨が気付いた時にはもうアウトだった。


過呼吸になって呻き声をあげて倒れる春也くん。


それは藍ちゃんから聞いていた状態。

私が慌てて「笑梨!光莉ちゃんと外に行きなさい!」と言うと笑梨も「うん!光莉!ごめん!外で説明するから行こう!」と言う。

何も知らない光莉ちゃんは春也くんの異常事態に混乱していたが、笑梨に言われるままに荷物をまとめると外に出た。


私はうずくまる春也くんに布団をかけて、「どうしたの?嫌な夢を見たの?」と声をかけると、私を見て藍ちゃんだと思ったのだろう「母さん?あれ?うん…寝る」と言って春也くんは眠ると30分で目を覚ました。


30分の間に光莉ちゃんの痕跡は片付けて残っていない。

春也くんはリビングで眠っていた事に驚いた感じで、「あれ?蒼子おばさん?」と声をかけてきたので、普段通りを意識して「おはよう。急に寝ちゃったのよ?夜寝てる?」と質問をする。


「寝てますよ。でもなんだろう?お正月で気が緩んだかな?笑梨は?」

「買い物、春也くんを起こそうとしたから止めたわ」


「あぁ、何か食べたかったのかな」と言った春也くんは、「蒼子おばさん、笑梨は何処ですかね?何食べたいんだろう?買ってあげないと」と言ったので、連絡をすると笑梨は15分で帰ってきて「あ!起きた!」と言う。


春也くんは上着を羽織って鞄を手に取りながら、「何が食べたかったんだ?買ってあげるよ」と言うと、笑梨は「マドレーヌ!ありがとう春也!大好き!」と言って飛び付いてコンビニまで出かけて行く。


帰ってくる頃には春也くんは元通りになっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る