年明けの春也。
第4話 長い髪の女。
初めて来た訳ではないけど、紅一おじさんが亡くなってから来なかった事もあって、道に迷ったら笑梨から「ダメじゃん。これは朝晩の散歩だね」と言われてしまった。
「おやつ目当てだろ?」
「にひひ。いいじゃん」
俺は朝晩散歩がてらコンビニまで行って笑梨におやつを買う。
肉まんの日もあればチョコの日もある。
だがレジ横のチキンだけはねだられない。
理由を聞いたら「お母さんがあれはオヤツじゃなくて、おかずだからダメよって言うんだよ」と教えてくれた。
成程、蒼子おばさんらしい。
母さんもおんなじ事を言う……。
あたまがいたい。
なんか急に頭が痛くなった。
笑梨が「顔色悪いよ?休もうよ」と言ってくれて、公園に行くと猫が居た。
猫は何時間でも見ていられる。
多分この前も撮った猫だ。
レンズを望遠に変えて邪魔しないようにしながら撮ると、いい写真が撮れたらか頭の痛みも消えたので、笑梨に「チョコを買ってあげるからコンビニまで行って、コンビニから帰らせてよ」と言うと、「えぇ?」と聞き返しながらも、「チョコよりお饅頭」と言うので了承したら「ありがとう春也!大好き!」と飛びつかれた。
誘拐とか大丈夫だろうか?
年末年始も越えてお正月が終わる頃には、なんとか駅まで歩けるようになった俺は散歩コースが変わる。
目下の目標は笑梨が学校に行くようになった日中に、1人で買い物くらいできるようになる事だった。
「どっちにする?」
「えぇ?子供じゃないのに」
行動範囲を広げると言ったら笑梨に迫られた。
「見守りアプリ入れるのと、遠出しないのはどっち?」
どうやら笑梨はコンビニに辿り着けなかった事を未だに気にしていて、何処にいるか見られるアプリを入れたいと言う。
俺が気持ち悪さを感じてしまった時、蒼子おばさんが「ほら、春也くんが嫌がってるわよ。甘えないの」と言う。
俺は思わず「え?甘えてる?」と聞き返してしまう。
なんだ、笑梨の奴は甘ったれていたのか。
俺が笑梨を見ると「別にそんなんじゃないもん」と返していて、俺はその姿が可愛らしく見えたので、「いいけど、これ入れると笑梨の場所もわかっちゃうと思うけど?いいの?」と聞くと、笑梨は「いいもん。変な所行かないし!」と言って胸を張った。
俺はおもむろに散歩中に買ってあげたもの達を思い出しながら、「バーガー屋、クレープ屋、牛丼屋…」と呟くように言うと、笑梨は「うっ…牛丼は行かないよ!」と言って慌てる。
俺が「バレるぞ」と突っ込んで笑梨が困った顔をした時、蒼子おばさんが「春也くん。見張ってくれる?」と聞いてくる。
俺は笑梨の顔が面白くて「了解です」と返して、アプリを入れると笑梨と位置共有を済ませた。
笑梨は本当に甘えていただけで、アプリを入れたら外出にも何も言わなかった。
俺は毎日行動範囲を広げていく。
駅を越えて反対側まで行くと商店街もあって寺社や大きな公園が出てくる。
一日で全部を回る気はない。
何日もかけて回っていき、大きな建物のある大きな公園で噴水の写真を撮ったり花の写真を撮っていたら、いきなり話しかけられた。
また職務質問かな?
面倒くさいんだよなアレ…。
俺が振り返るとそこには長い髪の女が立っていた。
長い髪の女は「お兄さん、寒くないの?なんで雪の日に写真…。趣味?プロ?」と聞いてきたので、俺は空を見ながら「ああ、雪が降ってるから寒いですね」と返す。
「ならなんで薄着?」
「薄いかな?」
「風邪引くよ?」
「いつもこんなもんですけど、ありがとうございます。気をつけますね」
言われてみると少し肌寒い。
帰りに洋服を買って帰るのも良いかもしれない。
「何を撮ってたの?」
「花です。後は噴水も撮りました。今日は空は撮ってないし、猫も撮ってません」
「ふーん。見せてよ」と言った長い髪の女は、俺の横にきてカメラを覗き込むと「へぇ、綺麗な花と噴水だ。猫はないの?」と聞いてくる。
俺が「PCに移動してもカードには残してあるから見ます?」と言って茶トラの猫を見せると、長い髪の女は「猫だぁ。可愛いね」と言って、「今度写真頂戴よ」と言ってきた。
「…そうですね。色補正とか仕上げをした奴を用意しておきます」
「ふふ。ありがとう。後さ、私の写真撮ってよ」
俺は少し考えた後で「何でです?」と聞くと、長い髪の女は「んー…、猫と噴水と花がすごく良くてそのカメラの中に私も加わりたくなったの」と言ってはなかむ。
俺は少しだけ頭が痛んだが、了解しながら「少し注文つけてもいいですか?」と聞くと、長い髪の女は「えぇ…。何だろう?寒いから服は脱がないよ?エッチなのも嫌だよ」と言って笑った。
エッチな写真なんて撮らない。
俺は位置とポーズを指定して、「笑ってください」と言うと長い髪の女は、歯を見せてニコリと笑った。
前屈みでコチラを見て笑う長い髪の女はすごく可愛く見えた。
撮った写真を見せると、女は満足そうに「ありがとう。その写真、出来たらずっと消さないで大事にしてね。猫の写真、忘れないでね」と言って去って行った。
俺は会話の意味がよくわからなくて、急に疲れてしまったのでベンチで休む。少しして冷えてきた気がしたので、帰りながら駅ビルに入っているカジュアルな洋品店で服を買うと、駅前で「あれ?」と声をかけられた。
目の前には女子高生。
見覚えはないが、笑梨と同じ赤い制服。
「笑梨の友達?」
「あ、忘れてる。お正月に玄関で会っただけだから仕方ないか」
女子高生は俺に会った事があったらしい。
俺は「そうだっけ?ごめんね」と謝ると、「いいよ春也さん」と言われる。
名前を知られてる…。
本当に顔見知りだったか…。
笑梨の友達が「何してたんですか?」と聞いてきたので、俺は噴水のあった公園の方を指さして、「ん?散歩。今日は駅向こうに行っていたんだ」と言う。
「ああ、そうなんですね。で?洋服なんてどうしたんです?」
「んー…寒そうって言われて、そんな気がしてきたから買ったんだよ」
俺が上着が入った袋を見せると、笑梨の友達は「てっきり写真を撮るのに薄着が動きやすいとかなのかと思いましたよ」と言って笑う。
何で笑梨の友達が写真を撮る事を知っているのかわからずに、「あれ?写真?」と聞き返すと、笑梨の友達は「あ、ああ、笑梨に聞いたんですよ。今日は何を撮ったんですか?見せてくださいよ」と言ってくる。
俺は言われるままに写真を見せていくと、笑梨の友達が「っ!?」と言って驚いた顔をした。
「どうしたの?」
「え?だってエンジョイ公園に行ってるし、しかも噴水って時報になってるから、それ時間的に昼頃ですよね?何時間居たんです?今夕方ですよ?寒いですって!」
驚く笑梨の友達に「うん。だから服を買ったんだよ」と言ってもう一度服を見せると、笑梨の友達は「もう、コンビニ行きますよ!なんか温かいの飲んでください!」と言って、俺の手を引いてコンビニまで連れて行くと、ホットミルクティーを奢ってくれた。
俺は感謝して飲んでから帰ったら、お昼ご飯を食べてなかったらしくて、それを笑梨に驚かれた。
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