第2話 3年ぶりの再会。
話が出たのは先週のこと。
お母さんから3ヶ月くらい春也をウチで預かるという話が出た。
別に使っていないお父さんの為の部屋もあるから狭くなることはない。
来ることがわかって、大掃除にお父さんの部屋が追加されたくらいで問題なんてない。
お父さんは家を建ててくれた時に、「あと一部屋追加して春也も住まわせようぜ」と言って、お母さんから「春也くんは責任感の強い子だから、喜ぶより追い込まれてこっちで勤め先を探したり、私たちの老後まで心配しちゃうからやめてあげなさい」と笑いながら注意されていた。
「でもなー、春也となー、食べ放題に行ってボロ負けしたいなー。下っ腹出てきてだらしない身体になった時に、引き締まった若い身体に嫉妬したいなー」
お父さんはそんなことを言って最後まで自室になるはずの部屋に何も置かなかった。
置いてもすぐに片付けるモノばかりだった。
いつでも春也が住めるようにしていたんだと思う。
春也をウチで預かるにあたって、少しのルールがある事を知った。
それは仕方ない。
会わない間に起きていた事を聞いた時には驚いた。
きっとお父さんが生きていたら、泣いて抱きしめて「厳しいのは豊さん達に任せる!俺はお前を徹底的に甘やかす!」と言っただろうし、もしかしたらウチに無理矢理連れて来て、「ずっと居てくれ!食べ放題行くぞ!風呂屋に行くぞ!笑梨は何年経っても俺より食べない!風呂も中学になる前から入ってくれない!」と言ったかもしれない。いや、言っただろう。
私は駅まで春也を迎えに行く。
3年ぶりの春也。
見た感じ変化はない。
少し痩せたくらいだろうか。
私は食べて欲しい気持ちで食べ物屋の話ばかりをしたら、「笑梨は食い物しか紹介できないのか?」と言われた。
何年経ってもそういう所は変わらない。
家に着いて少し話をしていると、春也の着替えなんかが届く。
「あ、足りない物を買い足したいんだよね。行こうよ」と言って、私が声をかけると春也は「助かる」と言って立ち上がり鞄を持つ。
鞄。
ルールにある。
話題に出すのはいいが手放させるのはNG。
「そういえばその鞄って何入ってるの?お泊まりセットは届いた荷物だよね?」
お母さんに緊張が走るが気にしない。
触れない方もどうかと思う。
春也は「ん?ああ。スマホの充電器とモバイルバッテリーとカメラとノートパソコンがメインかな」と教えてくれた。
「聞いてるだけで重そう。腰悪くならないの?」
「慣れた。逆に持たないと落ち着かない」
私は玄関に向かいながら「仕方ない。買った荷物は私が持ってあげるよ」と言うと、春也は「マジか、助かる。笑梨も大人になったんだな」と言って後を着いてきた。
春也との買い出し。
下着や歯ブラシにお泊まりセットなんかを買うと、帰りに少しだけ散歩がしたいと言われる。
「いいけど。折角だから道覚えなよ?後は変に歩いて覚えられなくなって迷わない?」
「頑張る」
私はお母さんに「春也、散歩を所望」と送ると、「雪が降ってるから程々にね」と返ってきた。
春也は散歩しながら気になった景色を見るとカメラを出して写真を撮る。
スマホのカメラで済ませる私とは大違い。
「ねえ、それってレンズが取り替えられるやつ?」
「そうだよ。花を撮りたいからレンズを変えたいんだ」
春也はレンズを変えて写真を撮ったのを見せてくれる。
私のスマホで撮るやつとの違いはよくわからないが色は綺麗だった。
「少し散歩したいから明日以降も頼めるか?」
「うん。早く道を覚えてもらいたいからいいよー」
家に戻りながら春也が気になったものがあると足を止めて写真を撮らせる。
そしてまた歩き出す。
なんか友達の家でやった犬の散歩を思い出す。
犬と違うのは春也は大人で、荷物を持たせて散歩に付き合わせたからと言ってコンビニスイーツを買ってくれた。
私は一目散にスイーツコーナーに向かって「え!?いいの!?この大きいプリンでも!?」と言いながらマグカップみたいに大きな容器に入ったプリンを指さすと、春也は「いいよ。食べなよ」と言ってくれた。
「わぁ!春也ありがとう!大好き!」と言って飛びつくと、春也は少し照れた顔で「安い大好きだなぁ」と笑っていた。
プリンを持ってホクホクの私を見てお母さんは呆れながら「まったく、何ねだってるのよ」と言ってきた時には、「お母さんの分は辞退しておいたよー」と言うとお母さんはそれでも遠慮した事に理解を示してくれて春也に「ごめんね」と謝る。
春也は「いえいえ。笑梨は笑顔で美味しいものを食べてくれるから、気持ちよく買えます」と言ってくれた。
夕飯は唐揚げとご飯とお味噌汁。
普通は久しぶりなので外食とかご馳走だと思うのだがこれもルールで仕方ない。
しかも春也のご飯は少ない。
私の半分は言い過ぎだが、私と春也のご飯はきっと外なら逆に配膳されてしまう。
しかもそれを時間をかけて頑張って食べる春也。
昔はもっとたくさん食べていた姿を思い出して、私が心配してしまうとお母さんが目で注意してきた。
私の視線に気付いた春也が「笑梨は食べるのが早いなぁ」と言って笑いかけてくるので、「育ち盛りだからね!」と返す。
「え?まだ育つの?」
「何それ!?酷くない?」
春也は「あはは」と笑うと「笑梨は笑って消化しちゃうから、足りないんだと思っていたよ」と言った。
夕食後、お風呂から出た春也は撮った写真も見たいからと部屋に戻っていく。
その後ろ姿に「おやすみー」と声をかけると「まだ寝ないよ」と笑われた。
「じゃあお腹空いたら降りてきなよ。コンビニ行こうよ!」
「笑梨が食べたいだけじゃないの?」
「私はきっと大丈夫だよー、お腹空かないよー」と見送ると、春也はお母さんに「それでは」と言ってリビングを後にした。
階段を登る足音が聞こえなくなると、お母さんが「外で春也くんはどうだった?」と聞いてきたので、私は「犬みたいだったよ。足を止めて写真を撮ったらそれでまたフラフラと歩き出すの」と言って歩いた順路を説明をする。
「雪が降っていたから寒かったでしょ?」
「まあねー。私は慣れっこだけどね」
私の言葉にお母さんが、「春也くんよ。寒いのもわからないようなら、お布団増やしてあげなきゃ」と言い、その言葉にハッとなって私は「あ、そうだね」と言った。
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