第3話 足止め

勇者が通ったとされる街[キータン]を目指してた冒険者。


[ニーシガ]と[キータン]の中間辺りにある[モウキタ]という大きい街のとある喫茶店に来ていた。


「ここに来たにはやっぱりこれですね…」


テーブルの上にはフルーツタルト、この店に来ると必ず注文するお気に入りだ。


「次はいつ食べられるか分からないし…」


そう言ってこの日は贅沢に2つも頼んだ。


フルーツタルトで舌鼓した後は、必要な道具を店を巡って買い揃え、上機嫌で北の街道へ抜ける北部通用門へ向かう。


彼にとって未開の地である中央大陸北部、そして北の大陸へ向かう準備は気持ちも持ち物も万端だった。


・・・


「悪いがここを通すわけには行かないな。申し訳ないね嬢ちゃん、冒険者ランクB以上になったらまた来てくれ」


[モウキタ]北部通用門にて早速彼は足止めをくらった。


と言うのも、彼は通用門に来て早々見張りの衛兵に呼び止められ、冒険者ランクを尋ねられたのだ。


現在Cランクだということを伝えると先程の言葉通りBランク以上でなければ通り抜け出来ないと突っぱねられたのだ。


衛兵達も申し訳無さそうな表情で自分以外にもここを通りたいと来た人達に引き返してもらっていた。


何やら訳ありの様子なので、自分を突っぱねた衛兵に話を聞いてみることにした。


「すいません、理由をうかがってもよろしいですか?」


「ああ、ちゃんと説明しなくて悪かったな。街道の[キータン]近くで魔物が目撃されたんだとよ。街を襲撃する感じでは無いみたいなんだが、危ないから何処かへ去ってもらうか、腕のある冒険者に討伐してもらうか…。とりあえずいなくなるまでは通すなって言われててな。」


彼はなるほど、それでBランク以上の冒険者のみ通行可能なのかと納得はした。


だが、これでは北部へ足を運べない。


「何人かBランク以上の冒険者の方は通られたんですか?」


「あー、何人か通って行ったんだが…、ここを通った全員、引き返して来たよ。『俺じゃ歯が立たねえ。無理だぁ』みたいなことボヤきながらボロボロの格好でな」


先に通って行った上位ランクの冒険者達が、魔物を討伐してくれれば通行規制も解除されると思ったのだが…。


魔物がなかなか手強いのだろう、討伐へ向かった冒険者達はみんな傷だらけで戻って来たらしい。


「え?魔物の脅威度はBランクですよね?だからBランク以上の冒険者の方々をお通ししてるって認識なんですが…」


「ああ、そうだ。嬢ちゃんの言う通り、魔物の脅威度はBランク。だが誰も魔物を討伐出来てない。[キータン]側からも冒険者が討伐しに何人か出向いたらしいが、討伐に成功したって報せは聞いていねぇな」


脅威度とは世界が定めた魔物の危険度を表す言葉である。基準としては、魔物の脅威度のランク=同等の冒険者ランク10人分といったところだ。もちろん、あくまでも基準なので戦い方を工夫したり、実力があれば1人でも討伐は可能である。


だが現状成果は無し。


「ちなみにAランクの冒険者は通らなかったんですか?」


「魔物が現れる前は何人か通ったんだろうが、魔物が現れてから付けてた記録だとほとんどBランクの冒険者だな。……しかしあれだな、魔王がいた頃はBランクの冒険者だって凄腕の実力者が沢山いて同等ランクの魔物なんて1人で討伐出来る奴が腐るほどいたって言うのに。今じゃパーティを組んでる奴等でさえ討伐出来ず傷だらけで引き返して来るってのも…、これも世界が平和になったってことなのかねぇ…」


衛兵のため息混じりの嘆きに彼はあー…とちょっと納得した。


「冒険者の質自体が魔王がいた頃より下がってる…っと?」


「嬢ちゃんも冒険者だから機嫌を損ねたらすまんな?でも、まぁそういうことだ。しかし、魔王がいなくなってまだ2年…平和ボケにもほどがある気もするが…」


「それは確かに…」


思わず彼も納得してしまう。


「まぁなんだ、少し愚痴っちまったがそういうことだ。脅威度Bランクの魔物が出て危ねぇからここから先は通行禁止だ。魔物がいなくなるか、冒険者ランクを上げてからまた来てくれ」


衛兵は改めて彼へそう告げた。


「ふむ…、流石に愚痴を聞いたよしみで通すわけにはいきませんか。まぁ、衛兵さんはちゃんと仕事してるわけですし」


「勘弁してくれ。愚痴ったのはスマンな。それにここで嬢ちゃんを通したら俺が衛兵の仕事を首にされちまう」


愚痴を聞いた代わりに通してもらうとも思ったが、流石に駄目らしい。


となると、少々面倒だが冒険者ランクをCからBへ上げるしかなさそうだ。


「それじゃあ正当な方法で通ることにします。この街の冒険者ギルドの昇格試験はいつ開かれてますか?」


「ほう、素直にランクをBに上げてくるって訳だな。この街の冒険者ギルドはいつでも昇格試験を受けられるようになってるから受付のねぇちゃんに申請すれば受けられるはずだぜ」


「ありがとうございます。では、ランクを上げてまた来ます」


「おう、頑張りな!」


エールを送ってくれた衛兵に一礼するなり彼は通用門を後にし、[モウキタ]の街の中央に位置する冒険者ギルドへ向かうのだった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る