第2話 勇者パーティを探す理由

西部に位置する街[ニーシガ]から少し離れた北へ向かう道。


北へ進む冒険者の姿があった。役職は魔法使い。

ぼっちな気長旅


「この街道から北側の[キータン]に行って、そこから北の大陸へ船が出てる港町の[ホクヘー]に向かったんだよね、勇者様達」


『勇者パーティ冒険ルート完全攻略ガイド』なんて情報誌を確認しながら冒険者は[キータン]へ向けて歩いていた。


「[ニーシガ]まで来るまでのルート戻るのもありなんだろうけど…、多分もう捜索されちゃってるだろうし、だったら北へ向かったルート辿った方が良いだろうな。どうせ捜索のメインは北の大陸に着いてからだろうし…」


今いる中央大陸は捜索はほぼ行き届いている。そこをまた探すのも誰かがしているだろう。そう思い冒険者は北へ向かうことに決めた。


「その辺に転がってないかなぁ勇者御一行、絶対見つけてやる。見つけて文句言ってやらなきゃ」


流石に道端の小石みたいに勇者パーティが転がっていれば既に誰かに見つけられてると思うが…。


「後で取りに来るって言って一角大熊(ホーングリズリー)の角、私の家に預けて旅立ったのに一向に取りに来ないんだから」


さて、この魔法使いの冒険者について少しお話しよう。


彼は過去に勇者御一行と面識がある。そして、その際勇者からある物を預かっていた。


そもそも彼は元は亡き魔王の手下によって使役され凶暴化した一角大熊という額に大きな鋭利状の角を1本生やしたクマ型の魔物が襲撃した村にいた村人の1人である。


襲撃された時、村にたまたま滞在してた勇者パーティによって一角大熊は討伐され、村は救われたのだが、その際一角大熊から採取した角を後に武器を加工するのに良い素材だから、引取りに来るまで預かってて欲しいと彼は勇者に頼まれていたのだ。


結局勇者パーティは角を引取りには来ず、気が付けば魔王を討伐して世界を救っていた訳だ。


話は戻って、北の街へ続く道


「あの時、村を救ってくれたのは本当に感謝でしか無いんだけど…、ずっと勇者様達が回収しに来ると思って大事に保存してたのに…こんなことになるなんて…」


彼は歩きながら魔法使いになる前のことを思い出していた。


預かっていた角であんなことになるとは、その時は彼も思っていなかっただろう。

たかが角一本預かってるだけで良かったはずなのに…。


結論から言うと、彼が勇者から預かった角が日を追うごとに肥大化していったのだ。


これはどういうことなのか…。


一本大熊の生態について、彼が魔法使いという役職になってから調べて分かった事だが、一本大熊の角は空気中に飛散してる魔力を吸ってそこから大熊の身体に魔力を行き渡らせ大熊自身の生命力の源にするんだそうだ。


本来なら大熊から取れた角は、その魔力の吸収する機能が失われる。


だが、彼が勇者から預かってたその角は、その機能が止まることなく、ずっと魔力を吸収し続けていのだ。


これは彼が魔法使いになり、魔力の鑑定を行った事によって分かった事だが、本来なら吸収した魔力を身体へ送る訳だがその身体が無い。


せっかく角という器の内部へ吸収した魔力もこのままでは外へ漏れ出てしまう。


ではどうするか…、ならば吸収した魔力の一部を糧として角自体が成長すればいい。


魔力を納める器が大きくなれば中に溜めれる魔力ももちろん増える。


勇者から預かった角はそれを繰り返し成長と魔力吸収をし続けた。


結果比肥大化し始めたのではないのだろうかと彼は考察した。


だが、成長し過ぎである。


何も知らない昔の彼は、このままじゃ角に家が押し潰されると角用にと牧場にある畜舎並みの倉庫を作り、そこに保管してたが、結局倉庫から飛び出す程のサイズにまで角が大きくなった。


彼の両親も角の成長を見て、このままではヤバいと彼に、「我が子よ、魔法使いになってどんなものでも収納出来る『異次元収納の魔法』を習得するんだ。このままじゃ倉庫同様我が家、いや、村まで角に押し潰される。勇者様からの預かり物とはいえ、村の為にもどうか頼む、魔法使いになってくれ…それか魔法使いをこの村に連れてきてくれ」とどうにかするよう急がせた。


ちなみに『異次元収納の魔法』については、そういう収納する魔法があると、この村より大きい町に行商しに行った近所の村人から教えてもらったそうだ。


他に方法は無いか当時の彼なりに情報収集をしたが、知り合いに魔法使いと伝のある者はおらず、加工しようとも考えたが勇者様からの預かり物を加工するのはいかがなものかと言われ…彼は魔法使いという役職にならざる負えなくなったのだった。


そう、これが彼が魔法使いになった理由なのである。


「……絶対この角、勇者様達に返してやる…」


そう1つ呟きながらも彼は北へと進むのであった。


ちなみに角は未だに彼の『異次元収納の魔法』の異次元の中で成長を続けている。


返す頃にはどのくらいの大きさになるのか見物でもある。


余談だが、魔法使いの役職になる際一緒に修行してた友人からは「『異次元収納の魔法』なんて高度な魔法を覚えるよりも『対象を小さくする魔法』を覚えたほうが早いんじゃない?」と言われて衝撃を受けたのもいい思い出である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る