私ってさ
イヤホンから流れた曲に目を伏せる。心地いい。思い出す、この曲に出会ったときの部屋の暗さも心も匂いも。そして気に入らない私を。
前なら今頃電気も付けず、ベッドに横たわってスマホをみていた。今は違う。小さな変化でも私が違う証明な気がした。
翌日、いつも通り散歩をした。曲を聞いて歩いた。だが、他に目的があった。入口を開けて中に入り、予約通りの時間であるのを確かめた。遅刻してたら迷惑だし……確認してもどうにもなら無いけど。
席に着くとうざったい髪を切ってもらった。ロングのまんまではあるけれど前髪は目にかからないくらいで。鏡に顔が写る。やっぱり変わったみたいだ、いい意味で。
店を出てイヤホンをつけて歩いた。昼の街中は夜より賑やかで車の音も多い気がする。なのにちゃんと夜と同じで何も変わらない。良かった、私のことなんて気にしてない。それを確かめ、家に帰った。親友に明日学校に行くことを伝えた。
翌日、保健室の先生に教室に行ってみる。と伝えた。驚かれたが何かあったらいつでもおいで! がんばってね!! と背中を押された。教室には当たり前だが、人がいて名前もあまり覚えてないクラスメイトばっかだ。他のクラスメイトは私の事をみてこそこそと話している。少し嫌だが、席に着き出席の時にも返事はした。
その後の休み時間、私のことをこそこそと話す数が減りはしたがまだあると思っていると、隣のクラスから親友がやってきた。声でわかった。
「ちょっと!! こっちいるならいってよ~!」
「あ、ごめん」
そういえば言ってなかった……でも来てくれて良かったと思う。人気者の親友が来たので多少目線が集まってしまったこと以外は嬉しい。
「え、てか髪切ったよね? かわいい~!」
「うん切ったよ。ありがと」
そんな会話を休み時間にしてなんとか授業を終えて放課後になり、帰ろうとした時、
「あの……良かったら私達と今度みんなで遊ばない?」
後ろから声をかけられて見てみると親友の周りによくいる子達だった。まさにグループその物で私の苦手な制度だったのに声をかけられてびっくりした。
前は馴染めなかった私が遊びに誘われる事なんて無かった。暗いし、地味だし、関わりづらい。親友と仲の良い子達ではあるが親友の助けなしとは言わなくとも私が教室に来たという結果の1つだと思った。驚きながら「え、いいの……?」という私に「もちろん!!」と勢いよく返してくれて嬉しくなった。
私、親友に頼りっきりじゃなくなったんだとその時気付いた。私は今日確実に変われた。きっとこれからも変わっていくだろう。たった1つの曲から始まった数週間程度の出来事だけど私の小さな一歩に意味はあった。小さくていい。少しずつ前に歩いてみようと思う。だけど前ばっかじゃなくて時に足元に気を付けるのも大事だと思う。転んでしまっては意味がない。慎重な私は慎重なまま踏み出していく。
そして、数年たった今、私はボカロPとして曲を作っている。有名なわけでもないが聴いてくれている人がいる。この曲が息をしているということだ。生きて、誰かの中で息を吸って歌っている。私が貰ったこの一歩を誰かに届けたい。それが今の私の曲だ。
ある日、不登校の僕はいつものように横たわってはスマホを見ていた。
いつものようにスマホで曲を漁っていた。
いつものように聞いていただけだ。
そしたら突然その曲は現れた。
何事もなく、元からそうだったみたいに。
その曲に導かれるように手が動き、その曲を再生した。今日もまた寝転がっているだけのつもりでいたんだ。
このたった1つの曲を聞くまでは
イヤホンをつけて、曲聴きながら進むだけ今日の夜 鋭角今 @kon_
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