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気づけば彼女の目は暗闇の中でもはっきりと輝いているように見えた。
墓地の中へ入っていくと、その火の玉はどうやら人間の魂のようだ。近づくと自然とそれらは人型の青白いだけの人間と同じような存在となった。
近寄っていくと、何かを話しているようだった。
(もう死にたい──、帰りたい──、もう返して──)
この懇願のようなうめき声は露天風呂で聞こえた声の正体だった。
「す、すごー! この町の住人の方々でしょうか!?」
つまり、この町で死んでしまった怨念、死者の魂ということなのだろうか。
あまりにも不気味な光景だった。
墓地に浮遊する青白い火の玉に、うめき声を上げる生気を感じない人影達。
彼らの正体は紛うことなき死者の魂なのだろう。
「あのー! すみませーん!」
罰当たりな声色で彼女が次々と人影に声をかけていく。
さすがオカルト誌の取材。幽霊など何のそのである。
人影たちは声をかけてきた彼女に視線を移すもモゴモゴと懇願のようなうめき声を続けるだけだ。
会話になっていない。
しかし、何度か声をかけていくとまともな反応を返す幽霊もいる。完全な会話はできなくても少し意思疎通がとれるようだ。
ふと一際目立つ白い小動物が彼女の目の前を横切る。
犬?
「いいえ、違います。この子は狐ですよ」
彼女はそういうと狐の後を追う。
白いわけではなく、淡く光を放っていた。つまり狐も幽霊なのだろう。
小さいのでまだ大人ではない。
小狐は一目散に幽霊の群衆を縫うように駆け抜けていく。駆け抜けた先で小さな幽霊へとジャンプした。幽霊の肩に飛び乗ると頬をぺろりと舐めた。
するとその少女の幽霊は微笑んだ。
「ワーッ!! 仔狐を飼ってる幽霊さん発見ッッ!!!」
(ぁ……、あの……、なん……、です……、か……?)
彼女のものすごい剣幕で幽霊少女は気圧されたようで辿々しい喋り方だった。
しかし、ようやく幽霊の中でまともに反応を示してくれるやつがいた。
すごい剣幕で詰め寄る彼女。幽霊というなの珍獣だと思っているのだろうか。まったく怖がっている様子はない。
まったくもって、うら若き乙女が幽霊に対して何一つ怖がりもしないのは可愛げに欠ける。
宗教観念によっては霊界との不可侵で祟り殺されたりなどされそうなものだ。
周りの反応など気にもとめず、メモ帳とペンを取り出すとすっかり取材モードだ。
「こんばんわッ!!! 話ができそうで嬉しいです!!!」
(ぁ……、えと……、こん、ば…、わ……)
消え入りそうな声で応えてくれたのは我々より幾分ばかり年下の少女。よく見ると中学生くらいの子だということがわかった。ようやく出会えた意思疎通の取れそうな幽霊がこんな小さい子なのは不毛だ。
ワクワクした様子を隠せていない彼女のほうが今は中学生くらいに見えないこともない。
「えーっと! えーっとね!」
興奮しすぎて、何を聞くのか忘れてしまったようだ。その様子に肩の仔狐は
彼女は深呼吸を何度かしている。
幽霊の子は俺にも気づいたようで、俺に目線を移すと少し驚いた表情で、しかしやがて気にしないように彼女に目線を戻した。
「ごめんなさい。取り乱しました。大事なことをお聞きしたいんです」
と彼女は先程の様子とは打って変わってかなり冷静な声色で幽霊の子に話しかけた。
「ここの人たちは全員知り合いですか?」
(……ぃぇ……、知ら……、ない……、です……)
「自分がどうしてここにいるかはわかる?」
(……、みん……、な……、あい……、つ……、に……)
幽霊の少女は辿々しくも、しかしはっきりと伝えようとしてくれていた。
「あいつ? 誰かのせいなの? みんな??」
(……、そう……、みん……、な……、ジン……、ジャの……、あい……、つに……)
「……っ!」
ジンジャ?
神社のあいつ?
神社にいる誰かが、ここにいる人たちを全員殺めたというのか?
だとしたらとんでもない大量殺人だ。
どうやら俺はとんでもない怪事件に関わってしまっているのかもしれない。
俺の両親も殺されてしまったということなのか?
俺はたまたま上京していたから今回の難を逃れられたということか?
幽霊の子を発言から、俺は更に辺りを見渡した。
親父は? 母親は? もしかしたらいるかもしれない。そう思うといてもたってもいられなかった。
「……やっぱりそうなんですね」
彼女自身も何か腑に落ちたようだ。
彼女は俺を一度見やると神妙な顔つきでもう少し調べたら宿で情報を整理しようということになった。
俺はというと彼女の言葉に頷くと即座に辺りを駆け回り、両親を探した。
しかし、幸か不幸か、両親の姿はなかった。
少なくともここに俺の両親はいないようだった。ひとまず安堵だ。
だが完全に安心はできない。
なぜならこの場ではない他の場所にいるかもしれないからだ。
結局両親に関しては何も分からずじまいで宿に戻ることになった。
彼女は彼の世話をする(仮) 莢馬 @Sayama316
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