1 - 初めての再会3
確かに来る途中、話に夢中になりすぎていたのもあり、辺りはすっかり日が沈んでいるにも関わらずまったく気づけなかった。
後は数年ぶりの帰宅ということもあり、自宅の場所を見間違えてしまったのだろうか。
この辺りは台風などがあると倒木などでかなり影響を受ける。
そのため、道の雰囲気などが大きく変わることもあるのだ。数年不在だとそういうことも起こり得る。
「でも、人が住んでそうな家なかった気がしますけど」
それは、そうだ。そんな気がした。
当然だが、道中家がないわけではない。
廃家同然の家屋が点在しており、それら以外見当たらなかったと彼女は言いたいのだろう。
そして、それは確かにその通りだった。
「……もしかして?」
すっとぼけた顔をしていた彼女は当然目が煌めき始めたと思うと、手帳を即座に取り出した。
「いきなりダブルヒットじゃないですか! 家が無くなる! 両親行方不明!」
家が無くなったり、両親が行方不明なのになんでこの人は喜んでいるのか。
無神経すぎて、やはり取材屋はこういうモラルの欠如した人間にしかできないのだろうか。
「ごめんなさい! 半分は冗談ですよ!冗談! だってお父様からご連絡があったんですよね??」
そう、そうなのだ。
それはその通りで1週間ほど前に父親から連絡は受けている。
だから俺が家の場所を間違えている可能性は一応ないことはない。
「久々のご連絡だったんですよね。引っ越しをしていた場合はお伝えしそうなものですが。ここはお父様に連絡してみましょう!」
彼女の提案で電話をしてみることとなった。
スマホをポケットから取り出し、電源ボタンを押し込んだ。
しかし、電源はつかない。
「あららー、このタイミングで充電切れですか。貴方も結構運悪い方ですねぇー」
存外そんなことはない。
彼女に出会えていたからだ。
もし彼女がいなければ今頃、この場所で家を見つけられず立ち往生していたことだろう。
「嬉しいこと言ってくれるじゃないですかぁー! じゃあお姉さんが失業して傷心中の可愛い俺ちゃんを可愛がってあげますねー!」
彼女の背丈は俺よりも幾分か小さくあまり高くはないのだが、背伸びをして頭をわしゃわしゃと撫で繰り回してきた。
「一緒にもう一度今来た道を見て、どうしても見当たらなかったら一緒に宿に行きましょう。私、二人部屋予約してますから!」
どうせ会社持ちだし、経費になるし、と声高々に言い放つ彼女。
張った声に辺りにいる動物たちはきっと顔面蒼白、戦々恐々といったところだろう。
まぁ同じ宿に泊まるかは置いといて、今日は宿に泊まるほかないだろう。
結局その後、一緒に道中を行ったり来たりしても、我が家を見つけることはできなかった。
なんというか、すっぽりと自分の家があったはずのところだけが木々が生い茂っている。
そんな感じだ。
そうこうして今日はとりあえず携帯の充電を目的に宿に向かった。
そもそも宿なら電話くらい貸してもらえるかもしれない。
宿に付くと、強制です!と半ば強引に部屋に押し込められてしまった。
「宿代は経費で出るので結構ですから!」
一度でいいからやってみたかったぁー、と心の声が漏れ出ていた。
俺は彼女に感謝を示しつつ、自身の携帯を充電しようとした。
「私のでよければどうぞ。同じ機種で良かったです」
彼女からケーブルを借りると、充電を開始した。
しばらく電源が付くまではお預けだ。
「お家、早く帰れるといいですね」
不意に彼女の顔が横から飛び出す。
ついでに心臓も飛び出そうになる。
勘弁してくださいほんとに。
「とりあえず、充電してる間、お風呂でも入りましょうか?」
確かに、来る途中獣道ではないとはいえ舗装がされていなかったため、疲労や汗が大変なことになっていた。
彼女の提案は至極真っ当である。
俺はお風呂に入ることを肯定すると、何やら考えていることがあるようで小さく小声で、
「……ヘンタイさんっ」
と呟いた。
そしてその言葉の意味が理解できるのは数分後の話である。
・
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入るときはまったくもって気づかなかったのだが、どうやらこの宿は天然露天風呂。見事な絶景。最適な温度。豊富な効能。
そして何より【 混 浴 】である。
おいおいまじかよ。間違いない、この女、確信犯である。
ヘンタイはお前の方だ、このヘンタイ!!
混浴ヴァージンを今日捧げることになるとか誰が想像できそうなものか。
またもや彼女に公然と脱衣所へと押し込められ、唖然としている俺を横目にひょいひょいと服を脱いでいく彼女。
社会人1年目のコミュ障の俺には刺激が強すぎる!!やめて!!
「ふふふ……この露天風呂にはですね。隠された秘密があるらしく……混浴風呂にはなぜか男女ならず霊界的な存在も来てしまうそうなんですよー! こんなの試すしかないじゃないですかーっ!!」
にじりにじりと全裸で露天風呂へと歩み寄っていく姿は非常に奇怪な光景であった。
さっきまで情緒に搔き乱されていた俺の心を返してほしいくらいにエロスが霧散してしまった。
さらば俺の情緒。
そんなことを考えていると気が付けば彼女はいなくなっていた。
俺の方はどうしようかという感じではあるが、正直お風呂に入りたい欲ももちろんあるので、入ろうと思うのだが宿のお風呂のご作法とかマナーがまったくわからない。
そこで俺は気が付いた。
他にお風呂に入っているお客がいないのだ。
確かに好き好んで混浴の露天風呂を提供している宿など予約する若者なんぞは今のご時世だいぶ屈折した性質の持ち主だ。
しかし少なくとも男であればそれ目的か、もしくはご老体であれば気にしない人も少なくない。
そもそも老後の旅行というものがあるのだから、少ない客でも0ということは考えにくい。
冷静に考えると、建物内の廊下だって誰ともすれ違っていなかったか。
この宿、何か変じゃないか?
そう思うと少し不安な気持ちになってきてしまった。
そしてこの状況を彼女にも相談してみよう。
俺は意を決して衣類を脱いだ。
決してヤマシイ気持ちがある訳ではない。断じてない。
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