1 - 初めての再会2

 

 「お仕事は何されてるんですか?」

 

 唐突な話題だった。

 わかりやすい常套句だ。

 俺は彼女に仕事を辞めてしまった事を告げると少し苦笑いでばつの悪そうな顔をした。

 

 「そういうこともありますよねー。社会人生始まったばかりですから腐らずにお互い頑張りましょうね!」

 

 気さくな女性だった。

 たまにはこんな時間も悪くないと思えた。

 俺ももっと感情を表に出すような人間だったなら、可愛い彼女もいたかもしれない。

 

 「彼女さんとかいるんですかー?」

 

 心の中を見透かされたかのようで、またもドキッとした。

 グイグイと肘で腕を小突かれる。

 当然だけど、彼女どころか友達もいない。

 学生の時から群れるのが嫌いだったし、幼少期にそれなりに仲良くなった人たちは上京と共に付き合いは軽薄になった。

 

 「ふーん。若いのに案外素朴な人なんですね」

 

 なんだか先ほどから割と失礼な事を言われてるような気がする。

 そういう彼女にも彼氏はいないようだった。

 

 「オカルトとかスピリチュアルが好きな女って嫌じゃないですか? 胡散臭いし、宗教的な話多いし、ツボ買わせようとしてきそうだし」

 

 途中まで結構理解できた。しかし最後だけ完全に偏見だったが、そういわれればそんなような気もする。

 

 「やっぱりそう思いますよねー。何せ私自身オカルト好きの女性とかお断りなんで!」

 

 自分でいうんかーい! と自分で突っ込んでいる。愉快な人である。

 

 「そういえば割と歩いてますけど、まだつかないんです?」

 

 ふと、今の帰路を見渡した。

 彼女の話が存外集中できていたのか、自分の家を通り過ぎていたようだ。

 すでに宿場町の近くまで来てしまっていた。

 

 「えー、そんなことってあります?」

 

 やたらとニヤニヤしながら煽ってくる彼女。

 辺りはすっかり暗くなり、街灯も等間隔にしかないこの村では月明りだけが頼りだ。

 遠目に宿場町が見えているから、間違いない、通り過ぎてしまったのだろう。

 非常に共感できるだけに何も言い返せない。

 彼女に一言告げ、踵を返そうとしたその時。

 

 「んー、でも、あれ?」

 

 彼女は不穏な一言を、ぽつり、と独り言のように言った。

 

 「来る途中、家なんてありましたっけ?」


 確かに来る途中、話に夢中になりすぎていたのもあり、辺りはすっかり日が沈んでいるにも関わらずまったく気づけなかった。

 後は数年ぶりの帰宅ということもあり、自宅の場所を見間違えてしまったのだろうか。

 この辺りは台風などがあると倒木などでかなり影響を受ける。

 そのため、道の雰囲気などが大きく変わることもあるのだ。数年不在だとそういうことも起こり得る。


 「でも、人が住んでそうな家なかった気がしますけど」


 それは、そうだ。そんな気がした。

 当然だが、道中家がないわけではない。

 廃家同然の家屋が点在しており、それら以外見当たらなかったと彼女は言いたいのだろう。

 そして、それは確かにその通りだった。


 「……もしかして?」


 すっとぼけた顔をしていた彼女は当然目が煌めき始めたと思うと、手帳を即座に取り出した。


 「いきなりダブルヒットじゃないですか! 家が無くなる! 両親行方不明!」


 家が無くなったり、両親が行方不明なのになんでこの人は喜んでいるのか。

 無神経すぎて、やはり取材屋はこういうモラルの欠如した人間にしかできないのだろうか。


 「ごめんなさい! 半分は冗談ですよ!冗談! だってお父様からご連絡があったんですよね??」


 そう、そうなのだ。

 それはその通りで1週間ほど前に父親から連絡は受けている。

 だから俺が家の場所を間違えている可能性は一応ないことはない。


 「久々のご連絡だったんですよね。引っ越しをしていた場合はお伝えしそうなものですが。ここはお父様に連絡してみましょう!」


 彼女の提案で電話をしてみることとなった。

 スマホをポケットから取り出し、電源ボタンを押し込んだ。

 しかし、電源はつかない。


 「あららー、このタイミングで充電切れですか。貴方も結構運悪い方ですねぇー」


 存外そんなことはない。

 彼女に出会えていたからだ。

 もし彼女がいなければ今頃、この場所で家を見つけられず立ち往生していたことだろう。


 「嬉しいこと言ってくれるじゃないですかぁー! じゃあお姉さんが失業して傷心中の可愛い俺ちゃんを可愛がってあげますねー!」


 彼女の背丈は俺よりも幾分か小さくあまり高くはないのだが、背伸びをして頭をわしゃわしゃと撫で繰り回してきた。


 「一緒にもう一度今来た道を見て、どうしても見当たらなかったら一緒に宿に行きましょう。私、二人部屋予約してますから!」


 どうせ会社持ちだし、経費になるし、と声高々に言い放つ彼女。

 張った声に辺りにいる動物たちはきっと顔面蒼白、戦々恐々といったところだろう。

 まぁ同じ宿に泊まるかは置いといて、今日は宿に泊まるほかないだろう。

 結局その後、一緒に道中を行ったり来たりしても、我が家を見つけることはできなかった。

 なんというか、すっぽりと自分の家があったはずのところだけが木々が生い茂っている。

 そんな感じだ。

 そうこうして今日はとりあえず携帯の充電を目的に宿に向かった。

 そもそも宿なら電話くらい貸してもらえるかもしれない。

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