第18話 招かれざる客


 野営の準備を早々に終わらせ食事を摂り、一愛達は休息の為にそれぞれのテントで寝入っていた。

 寝る前に椿姫が一愛の話を聞きたがり、話を聞かないと寝ないと子供のような事を言うので仕方なしに一愛が元いじめられっ子であることを話している。そのせいで少しセンチな気分になりながらも安眠していたのに、途中で色蓮がテントに潜りこんできてお菓子祭りを開催したのには呆れた。


 色蓮なりの励ましだったのかもしれないが時と場合を考えろと。というかパーティーでの初探索初野宿で浮かれていただけだろう。一愛を無理矢理起こした瞬間の笑顔は真面目に苛ついたものである。

 こいつ胸より尻がでかいロックな体してるからって調子に乗るなよ、と悪態を付かなかったのは一愛の理性だ。


 ともあれ気を取り直して安眠を貪ること数時間、それは起きた。


「――ッ!」


 一愛のテント内にけたたましい爆音が鳴り、即座に飛び起きて服を装備に換装する。パーティーメンバー以外の侵入者を検知して警報を鳴らし、簡易結界を張る人工魔道具のテントがこんなにも早く活躍するとは思わなかった。

 突如爆音が鳴って慌てているであろう侵入者の声が聞こえる。一愛は逃げられるよりかはマシだと考えテントから飛び出すとスキルを放った。


「【ヘヴィーブロー】!」

「――っぐ⁉」


 メキ、と確実に鳩尾を抉った音が聞こえる。手応えを感じて距離を取ると薄闇にぼやける三人の影の内一つが膝をついた。


「野郎!」

 

 残りの二つが気を立たせたように武器を構えた。一愛もグレートクラブを無言で構える。

 そも他人のテントに侵入しようとしてくる時点で敵対である。ここで逃がすわけにはいかない。


「ま、待て一愛! 俺だ、俺だ!」

「……竜之介?」


 その不快な声に聞き覚えのあった一愛は眉をしかめて聞き返した。

 不審者――竜之介はその問いに安堵したように頷くと、懐からポーションを手に取り一気に飲み干す。どうやら一愛がスキルを決めた相手が竜之介だったようだ。

 ポーションを飲んでダメージを回復させた竜之介が「ふぅ」と一息吐いて立ち上がった。


「ひでーじゃねーか一愛。いきなり殴りかかるなんて。これって殺人未遂じゃね?」

「知らねーよ。人が寝てるテントに勝手に入ってくる方が悪い。それになにもう終わった気になってんだ?」

「は、はぁ……?」


 竜之介がなぜここにと色々疑問はあるがそれはそれである。相手が幼馴染でなくなったただのクラスメイトであろうと一愛の寝込みに悪さをしようとした事実が消えるわけではない。

 それにこのまま無事に返すほど、一愛はともかくリーダーは甘くないだろう。


「――【ラピッドショット】【影縫い】」


 薄闇から絶技が放たれる。

 一息に三射された色蓮の矢が、竜之介達三人の影に突き刺さる。慌てて矢を回避しようとした取り巻き二人が影に引っ張られて無様につんのめっては転んだ。


「な、何が起きてやがる!」

「何が起きてるはこちらのセリフっスよ。突然爆音が流れたから何かと思えば。先輩、こいつら先輩の知り合いですか」

「いやただのクラスメイトだ」


 暗に知り合いではないと言いたかったのに、色蓮が「はぁ」と溜息を吐いた。


「それを知り合いって言うんスよ。一愛先輩の寝込みを襲うとかホモっスか? それとも何か訳アリで? というかどこかで見た顔っスねー」

 

 色蓮が軍用のヘッドライト(2万lm)を直接竜之介達に浴びせその顔を確認した。

 敵は竜之介、安田、他には知らない男が一人である。色蓮は特に竜之介の顔をジッと見て「ああ」と納得がいったように声を上げた。


「ウチが一愛先輩を勧誘した時、何か揉めてた男じゃないっスか。あ、もしかしてこいつが先輩を虐めてた人ですか? うわなんか背景が読めてきたかも。めっちゃカッコ悪い人っスねー」

「な、なんだと⁉」

「うわ怒った! 先輩とは似ても似つかないダサいプライドっ。ここにいるってことは少なくともレベル2っスよね? それなのにその程度の感性ですかぁ? だっさー」


 ……めっちゃ楽しそうに煽るじゃん。


 いつもの後輩口調に煽り言葉が加えられただけで一気にメスガキ感が出てる。というか多分狙ってやってる。新たな自分を開拓しようとしてやがる。

 一愛にそちらの性癖は無いのでこれ以上色蓮の才能が開花しないよう口を挟むことにした。


「竜之介。お前ライン越えたな」

「――な、い、一愛⁉」


 グレートクラブを横なぎに構えた一愛に、真っ赤だった竜之介の顔が一気に青ざめた。


「お、おい、お、お前、まさかそいつでどうする気なんだよ⁉」

「大丈夫だ。殺しは俺も嫌だからしない」


 その言葉、竜之介達があからさまにホッと息を漏らし、


「だから両手両足を潰して協会を呼ぶ。なに、その程度なら上級ポーションでもあれば元通りになるさ」

「……っ」


 またすぐに顔を青ざめさせた。


「お、お前、自分が何言ってるか分かってんのか⁉ ひ、人にしていい事じゃねーよ! ただ珍しいテントがあるから中を確かめようとしただけだろ⁉」

「嘘を吐くんじゃねーよ。お前あの暗闇でよく俺だと分かったな? それだけで証拠は十分なんだよ。それに安全地帯は互いに不干渉が絶対だ。テントの中を探るなんて殺されたって文句は言えない」

「ぐっ」

「クソ、クソ! おい竜! 全部お前のせいだぞ! 寝込みを襲えば簡単に無力化できるって、この女も俺のものだって言ってたじゃねーか! どうしてくれんだよ!」

「おい竜之介! テメーが美味しい話があるって言うから乗ってやったんだぞ! 責任取ってテメー一人が殺されろよ!」


 責任の擦り付け合いという醜い争いに、自然と一愛の口から舌打ちが出た。

 色蓮に至っては「うわウチ目当てもいるじゃないっスか」とゴブリンにすら立たせなかった鳥肌をさすっている。


「良いんスか。こういう輩はすぐに同じことしますよ。相手が一愛先輩じゃなくてもです。ウチなら両手両足と喉を焼いてダンジョンに放置くらいしますけど」

「問題ない。協会は意外と善性な組織だ。ダンジョンの中で他人のテントに侵入しようとしたこいつらを野放しにするほど楽観的じゃないよ。しかもどうやら本当にレベルが上がってるみたいだし」


 一愛はジロ、と安田を睨む。何かしらのスキルを放とうとした挙動を感じ即座にグレートクラブを振るって片腕を潰した。


「――グァアアア⁉」

「な? レベルが上がった犯罪者を野放しにするとは思えない。日常生活でも見張りくらい立てるさ」

「……先輩がそういうならウチはもう関与しませんよ」


 色蓮は溜息をついて遠巻きに流れを見守ろうとしてくれた。ありがたい。


 ……というか椿姫はどうした。まさか寝てるのか。侵入しようとしたテントが椿姫のじゃなくて本当に良かった……。


 一愛はそう考えて猶更竜之介達に怒りを募らせる。グレートクラブを杖のように逆手に持ち、竜之介の脚に降ろして潰した。


「ぐっ⁉」

「痛いのは嫌だろ。すぐに終わらせる」


 そう言って一愛は一思いに一気に潰そうとして、


「――お、俺達に手を出したら【闇夜の灯火】が黙ってねーぞ!」


 その言葉に止まった。

 止まらざるを得なかった。


「……お前、ギルドに所属してるのか」

「へ、へへ。そうだ! この間スカウトされたんだよ! ギルドのお陰で俺達は全員レベル2だ! この短期間でレベル2になった俺達をギルドは将来有望だって認めてんだよ!」

「それで?」

「それでじゃねぇ! 俺達に手を出したらギルド総出でお前を潰しにかかるぞ、いいのかよ!」

「……先輩、十中八九嘘っスよ。曲がりなりにも警察と連携してるギルドが犯罪に手を染めた構成員を守るとは思えません。協会の面談前には必ず決着を付ける筈っスよ。聞く耳を持つ必要はありません」

「……そうだな」


 色蓮が正しい。それは分かる。

 だが水を差されたことでどこか冷静になった自分がいることも一愛は分かっていた。

 ……もし、もしこの行為がギルド公認であれば一愛とギルドの対立は免れない。一般人の台頭を防ぐという意味で秘密裡に一愛を消そうとしている、ということも考えられる。多少自惚れが過ぎるがギルドに所属しないなら消すというのは結構合理的だとも思えるからだ。

 それに一愛が今ここで手を下さずとも後でギルドに確認を取ればいい。そこからは大人の仕事だ。ギルド公認の行為でないのならキッチリと落とし前を付けてくれるだろう。

 そこまで考えて一愛は盛大に舌打ちした。


 ……何のかんのと無茶苦茶な理由を付けたが、結局は竜之介に対して情が残っていたということなのだろう。


「……中級ポーションを2個残して、装備を置いて今すぐ消えろ」

「は?」「一愛先輩!」


 色蓮の失望したような叫びに一愛は何度目とも知れない舌打ちをした。


「聞こえなかったか。それともポーションが三つ必要な体にされたいか」

「い、一愛っ、」

「早くしろっつってんだ!」


 ガンッ! とグレートクラブを力任せに振り下ろし石畳を粉々に砕く。

 丁度竜之介の鼻先を掠めるようにしたそれは、四つん這いだった竜之介が衝撃で身を投げ出すほどの威力を持っていた。竜之介の跨ぐらから黄色い液体が溢れだすのを横目で眺める。

 汚くて臭いそれに顔を顰める一愛をよそに、竜之介達は装備を慌てて脱ぐと一目散にこの場から消え去っていった。


「……」

「なんで逃がしたんスか」


 色蓮が問い詰めるように口を開いた。


「ああいう輩は何度でも同じことをするって言いましたよね。確かに先輩が手を下さなくても一月後にはバレて人生お終いの奴らです。でもここで痛い目に合わせないといつか誰かが泣く羽目になりますよ。先輩はそれを未然に阻止できる立場にいたんじゃないっスか?」

「俺は誰かを裁くとかそんな事ができる人間じゃない」

「今はそんな話をしてるんじゃ!」

「……大丈夫だ」


 一愛はゆっくりと腰を落ち着けて深く息を吸う。


「次は殺す」

「……」

「一度目は見逃した。二度目はない。それで今は許してくれ」


 情けない男だと思われようとこればっかりは仕方なかった。

 散々一愛を虐め抜いた男でも、それでも幼馴染だった奴を一度の過ちで再起不能にすることはできない。上級ポーションで治るとはいえあれほどの高級品をただの中学生が三人分用意するのは現実的ではないのだ。ギルドに頼ったとしても大分高い利子を取られるだろう。

 だから今は“次”が起こった時の為に覚悟を。

 殺す覚悟を決めることしか、一愛にはできない。


「はぁ……」


 色蓮が大きな溜息をついて苦笑を浮かべる。


「仕方ないっスね。まぁ一愛先輩の問題とはいえ、本当に不満だったらウチがヤれば良かった話ですし。ここは可愛い後輩を代表して見守ってあげましょうか」

「……可愛い後輩?」

「可愛いでしょ! 百歩譲ってウチはともかく姫は可愛いでしょ! そこで疑問形が出てくる方がウチとしては信じられないっスよ!」

「いやお前も十分可愛いけど」

「うぇ⁉ い、いきなり素で褒めないで下さいよ!」


 色蓮は素っ頓狂な声を上げると、赤くなった顔を誤魔化すように竜之介達が脱げ散らかした装備を拾い上げる。「どれも端金!」と文句を言う姿はやや無理をしているようだった。


 ……どうでもいいけど、肌が白いと赤くなった所がかなり目立つな。面白い。


「先輩、ウチはまた寝直しますけど。後2時間くらいで姫も起きるでしょうし、少しでも休んだ方がいいっスよ」

「俺はいいよ、起きてる。こんなことがあったしな。椿姫がレベル3になるまでは俺が見張り役くらい買って出るよ。といっても今日が最後だろうけど」

「そうっスか。ウチが言えた義理じゃありませんけどあんまり気にしない方がいいっスよ。屑は何をしようと屑なんスから」


 それだけ言って色蓮は欠伸をしながらテントに戻っていった。

 ……屑は屑か。

 なぁ竜之介。お前、昔から屑だったか?

 口にも出していないその問いには、誰も答えを返してくれなかった。


 それでも、一愛は――。




「【居合一閃】ッ!」


 椿姫の刀が目にも止まらぬ早さで鞘から抜き放たれ、ゴブリンの首を一刀の元に切り捨てる。

 目にも止まらぬ早さ、というのは比喩ではない。達人の居合抜きを見たことがあるだろうか。あれと同じ、いやそれ以上の速度で刀が抜かれているのだ。一愛の動体視力を以てしても追いつけない。

 気付いた時には刀を振り抜いた態勢で静止している椿姫に、一愛は一対一なら勝てないんじゃないかと軽く戦慄にも似た思いを抱いていた。

 ともあれこれで本日50匹目の討伐である。昨日と合わせて通算100匹は倒した。

 通常ならここで――


「ゴギャアァァァアアアッッ!」


 と、案の定遠くでホブゴブリンの産声が鳴った。


「出たな」

「出ましたね」


 色蓮とやや声をハモらせながら現状を認識する。

 ここが正念場だと理解しているのか、椿姫は臨戦態勢で意気を強くした。


「二人とも。ここは私に任せて下さい。これは私の試練です」

「最初からそのつもりだ。でもいざとなったら」

「ええ。身代わり地蔵が割れたと判断した時点で加勢します。それでいいよね、姫」

「……はい。そうはならないよう気を付けます」


 椿姫が残念そうにしながらも仕方ないとばかりに頷いた。

 本当にダンジョンに入る前と見違えた。前までは一愛の顔すら満足に見れず言葉もつっかえてばかりだったのに。ダンジョンは子供こそ入る所ではないかと思えてしまうのは一愛の勝手な勘違いだろうか。


 ……いや、子供は子供でも唯愛は極力入れさせないけど。


 あの妹の可愛気が無くなる所など見たくない、と一愛は親心にも似た複雑な思いを抱いた。


「そういや俺達がいても単独討伐ってことになるのか? 一応パーティーメンバーとして認識されてるし、最悪無駄骨ってこともあり得るよな」

「さぁ、それは分かりません。でも分の悪い賭けではないと思うっスよ。経験値は戦った人間にしか分配されないように、エリアボスの経験値もまた同じでしょう。それに一位のアレキサンドリア大将もパーティーで入って【実績】を開放しています。ウチの予想としては途中で仲間とはぐれて一人で討伐したってのが有力っスね」

「ほぉ。そんなことが」


「いやあくまで予想っスよ」と色蓮は慌てる。

 だが中々筋が通っている推理だと一愛は感心した。


「なら希望は十分あるか。それに【実績】を開放できなくても別にいいしな。得られるのは高価なガチャポイントだけだし、椿姫には【実績】を開放できるだけの力があるって分かればそれで」

「全くその通りっスね! 高価なアイテムはこれからウチらで揃えればいいんスよ。大事なのは一に信頼二に実力、三四が無くて五にお金っスから!」

「椿姫には一が備わってて二があれば十分てか。俺は?」

「先輩は時々エッチなので一がちょっと……」

「時々は許せよ男だもの」

「二人とも私が集中してる時に漫才しないで下さい!」


 ……かなり真面目に怒られた。漫才ではないが素直に謝る。


「でも本当に心配しなくていいぞ。俺はお前達に異性として興味がない。ネガティブな意味じゃなくて異性より仲間だっていう意識の方が強いからな」

「でも性欲はあるっスよね」

「そりゃあるけど今聞く?」


 台無しだ。性欲があるかと聞かれて嘘をつける男は男ではないので答えざるを得ない。

 色蓮は笑って、


「すみません。先輩も男で、しかもハーレム状態だから気になったんスよ」

「ハーレム(笑)」

「今鼻で笑いました?」

「ごめん」


 激おこ一歩手前まで切れるとは思わず一愛が過去最速で謝罪する。


「ハーレムパーティーは結構ややこしいんスよ。しかもウチらは思春期真っ盛りの少年少女ですし、こういった問題は早めに解決しないとパーティー崩壊の危機に直結するんです」

「……えっと、これ真面目な話?」

「大真面目っスよ。一愛先輩はどうなんスか。本当にウチらに魅力を感じません?」

「……」


 まさか真面目に魅力を問われるとは思わなかった。一愛も真剣に考え込む。

 色蓮や椿姫が魅力的かと問われれば百人中百人が魅力的だと答えるだろう。一愛も当然その例に漏れず、多少性格的にアレな所はあるがそれも魅力の一部だと言われれば「まぁ……うん……」と辛うじて頷くことができると思っている。

 だが、


「魅力的だけど、やっぱり今はそんなこと考えられないな。お前もそうだろ?」

「ええ、良かったです。これで付き合いたいとか言われたらどうしようかと思いました。最悪先輩にはパーティーを抜けてもらうか、ウチで我慢してもらうか選ばせようかと」

「おい、いきなり人を試すなよ」


 なんてやつだ。しかもウチで我慢してもらうだと?

 ……ぐ、具体的には何をしてくれるんでしょうかっ。


「今エロ顔しました?」

「してない」

「いやしましたよね?」

「――【居合一閃】!」

「「ぎゃぁ!」」


 峰の部分で居合一閃を放たれ一愛と色蓮は地面にのたうち回る。

 SPローローポーションを無言で飲む椿姫に土下座し、何とか許しを乞うて許された。

 さすがに悪ふざけが過ぎたと一愛は反省し、ふと耳をそば立たせる。


「……なんか静かすぎないか」

「え?」


 一愛の疑問に椿姫ははてなと首を傾げた。


「いやホブゴブリンの産声が聞こえてから随分経つけどまだ来ないし。俺の時はあいつの一歩ごとに威圧感を感じたものだけど、椿姫はそういうの無いか?」

「……確かにそうですね。私も最初の頃は肌を裂くような殺気を感じていましたけど今は特に感じなくなっています。これは私がホブゴブリンの威圧に慣れたということでしょうか」

「それならいいけど。色蓮はどうだった……おい色蓮?」

「――まさか。いやあり得ない。まだ一階層でそんなっ」


 色蓮は尋常でない程に顔を青くし、はっと目を見開くと慌てたように、


「姫、先輩! 【アリアドネの糸】を今すぐ!」

「――ああ。椿姫!」


 色蓮の指示に従い一愛はすぐさま緊急脱出のマジックアイテムを使用する。遅れて椿姫が慌てた様子で追随した。

 色蓮の指示の理由はよくわからないが、本能で一愛の感も叫んでいる。

 ここで逃げないと、死ぬ。


「――クソ、ダメだ! どうしてか発動しないぞ!」

「わ、私もです!」


 一愛と椿姫の悲鳴にも似た嘆きに、色蓮が苦虫を嚙み潰したように歯を食いしばった。

 おかしい。マジックアイテムが発動しないなどありえない。通常なら一瞬で地上に帰還できるマジックアイテムが役に立たないなど一体何のためのセーフティだと言うのか。こんなイレギュラーな事態――。


「イレギュラー……?」


 一愛の呟きに色蓮が緊張から深く息を吐いた。


「ええ、どうやらそのようですよ」


 瞬間、景色が歪むほどの殺気に包まれる。


 ……そして、そいつは姿を現した。



「――お主らか。マザーがオレを呼び寄せた理由は」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る