第12話 確認と方針①
現在はアイテムの買取も済み、休憩中だ。
色蓮のスキルの仕様は実際に戦闘を繰り返し、その効果を確かめさせてもらった。
色蓮の戦闘方法は基本的に動いて射るスナイパータイプと言えた。パフォーマンスで見せた大弓は基本的に使わず、連射が可能なショートボウ、遠距離はロングボウをメインとしている。
それはそうだ。あんなの1階層のゴブリン相手には過剰威力である。なんせ試しに射ってもらったらゴブリンの下半身と上半身が泣き別れしたのだ。弓って凄いんだなと実感した出来事である。
パーティーメンバーとしては、純粋なタンクではない一愛とは固定砲台でない分相性が非常に良く、それぞれ好き勝手に動いても機能したのは幸いだった。連携はこれから覚えて練習すればいい。時間はあるのだから。
そしてスキル。
【スキル】
影縫い
:対象の影に矢を打込むことで対象を動けなくする。矢を壊すか抜くまで効果持続。
ラピッドショット
:超早射ち。一息に三射まで可能。威力は通常の一射より劣る。
英霊の加護 (パッシブ)
:戦場を俯瞰して把握することができる。精神に影響を及ぼす全ての状態異常を無効。
【魔法】
ブルズアイ
:10分間器用が50%上がる。暗視、遠見を内包。
至って普通のアーチャータイプであるが、だからこそ英霊の加護の特異な効果が戦闘中に何度か垣間見えた。
こう言っては何だが色蓮は普通の中学生女子である。それも活発ではあるがスポーツなどはしそうにないタイプだ。一愛のオタク話にも全部食いついてきたことからインドア派なのは間違いない。色蓮は本来ダンジョンに潜るのはもっての外だったのではないかと一愛は思っている。
……だというのに戦闘中の色蓮は立ち回りが非常に上手いのだ。
それは未来視でもしているのかと思うほどで、関係ない所に射ったかと思えばそこにゴブリンが隠れていたり、敵の大振りの動き出しを射ったり、色蓮の指示通り動けば明らかに通常より早く敵が殲滅できたりといったことが多々あった。
これが英霊の加護の効果である、戦場を俯瞰し捉えることが可能となる、ということなのだろう。
……かなり頼りになる。それこそ色蓮を司令塔にしたいくらいに。
普段はただのオタクで一愛とも話が合い、たった数時間で気が置けない仲になり、お尻が大きいハーフ美少女なだけだが、こと戦闘に限っては優秀すぎるくらいに優秀だ。職業がいずれアーチャーになるのも良い。戦場を俯瞰する、まさしくリーダー向きの人間だろう。
一愛達のパーティーがこれから何人構成になるかは未定だが、同じレベル帯で色蓮を越える指示を出せるものはほぼいないだろう。戦場帰りとかがいればまた別だろうが、少なくとも日本にはいないと確信を持って言える。それほど衝撃的な戦闘だったのだ。
それはともかくとして、最後にダンジョンガチャである。
……これに関しては色蓮のスキル以上に衝撃だった。
以下、潜って数時間の間に大量のアイテムを持ち込んだせいで買取所のお姉さんに奇異の目を向けられながらも鑑定してもらったアイテム類。なお噓発見魔道具の使用は10分にも及んだ。(通常は1~2分)
以下雑品。
低級ポーション×10
:骨折未満の怪我を癒せるポーション。リボビタみたいな色。味は青汁。買値2万。
中級ポーション×2
低級恢復ポーション×3
:風邪薬。瞬時に治る。買値3000円。
SPローローポーション×2
:SPを20回復する。買値2万。
MPローローポーション×3
:MPを20回復する。買値2万。
菩提樹の実×一袋
1階層モンスターの魔石×15:買値1000円。
アタックポーション
:3分間力が10上がる。買値20万。
スピードポーション×2
:3分間敏捷が10上がる。買値20万。
媚薬(10粒入1セット)
:市販品より即効性が強い強力な媚薬。所持禁止類ではないが、売却推奨品。買値1粒10万。
勇者の肉:1個
:勇者の為の肉か、勇者だったモノの肉かで議論が白熱している代物。3分間全ステータスを最大値の50パーセント上げるが、3分後死亡する。買値1万。
フィンガーグローブ
:指開きグローブ。買値200円。
以下装備。
無銘の革鎧
:ファンタジー風の革鎧。現代製品より少し硬い。買値10万。
無銘の籠手
:上記に同じ。買値7万。
無銘の刀
:日本刀。現代製品より頑丈な上によく切れるが、芸術的な価値は一切ない為手頃な値段で売られる。買値11万。
以下マジックアイテム。
縊死台のロープ:1個
:生物に使用すると半自動的に首に掛かる。あくまで掛かるだけ。買値5万。
カプセル化の針:1個
:刺したモノをガチャカプセルのようなものに閉じ込める針。ホイ〇イカプセル。生き物には使用不可。大きさに際限は無いが建物等、中に建物を構成する要素以外の物質が入ってる場合は不可。使い切りの為安値。買値5万。※魔道具版【一寸法師の針】は超高級品。
コカトリスの瞳:1個
:対象を石化させる。所持禁止類。買値1000万。
シーターの道導:1個
:12時間仲間の位置を感覚的に把握できる。戦闘時の戦況把握、子供の迷子対策にも有用。買値50万。
以下魔道具
魔石袋:1個
:魔石ならいくらでも無限に入れられる袋。それ以外は不可。高価に思えてガチャからよく出る為比較的安価。現在は供給が需要を上回っている。買値20万。
所持禁止類以外の買値が非常に低く、50連したにも関わらず400万ちょい(所持禁止類除く)の売上にしかならない。その内使用するポーション類を除けば更に下がってしまった。これには一愛も落胆する。ここまで頑張って運んできたのに、と。
……まぁ実際には色蓮のアイテムボックスに入れてもらっただけなんだけど。
そう、アイテムといえば色蓮だ。彼女はあまりにも高価なアイテムを持っている。
色蓮が持つアイテムボックスは時止機能を持つ。それだけでも凄いのに容量は東京ドーム並だというのだから驚きである。値段にすれば1000億はするのではないか。一体どこで手に入れたのか疑問を抱くがそれだけならエクストラガチャで出たという説明で終わる。
しかしそれだけでは終わらないだろう。色蓮は他にも色々隠し持っている気がする。先ほど一愛がガチャで出した魔石袋なんかも当たり前のように出てきたし、巨大弓やショートボウも普通の現代製とは思えない。極付きはSPMPポーションをバカバカ飲んでいたのだ。一愛が節約しながら戦っている横でだ。こんな様子見の練習に一本10万もするポーションを飲みまくるなど余程お金に余裕がないとできない所業だ。信じられない。
とはいえそれと一愛のガチャ結果は関係ない。50連もできるしワンチャン俺もアイテムボックスを! とか一愛は別に考えてなかった。そうである。
買取所の待合室のソファで項垂れる一愛に、色蓮が慰めるように苦笑した。
「まぁまぁ先輩、元気出して下さい。というよりガチャなんてこんなもんスよ。むしろ運が良い方なのでは?」
「……嘘だろ?」
色蓮の言葉に一愛は愕然とした。
ダンジョンガチャがこんなもの? 50連して? 今回のクエストで得たクリア報酬はガチャ1回分だったのに?
そういった思いが滲んだ一愛の顔を見て、色蓮が頷く。
「探索者の収入はモンスターからのドロップアイテムが主っスよ。今日はウチと先輩でゴブリンを約50匹倒しました。これはゴブリンの魔石50個分で5万円、ウチと折半して一人2万5千円の収入っス」
「……それが?」
「それがじゃないっスよ」と色蓮は呆れた顔をした。
「一日2万5千円っスよ? しかもウチらは3時間くらいしか潜っていません。これは時給に換算したら結構凄い額だと思うんスけど違いました?」
「……いや、違わない」
仮に日給2万5千円だとして、一月休まず潜れば月給75万である。これは年収にして900万で、もうちょっと頑張れば1000万プレイヤーにもなれるだろう。大した額だ。少なくとも中学生が稼いでいい金額ではない。
「それプラス副収入という形でガチャがあるんス。先輩は50連で1400万も稼ぎました。50連と聞くと大変そうっスけど簡単なクエスト50日分でしかありません。しかも一発出ればそれだけで人生リタイア。後は遊んで暮らせます。どうでしょう、1階層というレベルの低すぎる階層にしては夢があると思いません?」
「……そういうことか」
含みがありそうな色蓮の笑顔を見て、何が言いたいのか一愛は納得する。
だから日本の探索者はレベルが低いのか。
1階層で専業探索者をやって贅沢できるなら、大抵の人はそれ以降を目指そうとはしないだろう。その内探索者の割合自体が増えて供給が追いつき、値崩れが起きてから下の階層を潜ればいい。実際ダンジョン開放をした初期段階はどの国も探索が停滞し、ある一定の閾値を越えたら爆発的に探索深度が増えている。考えることは皆同じ、実に賢いやり方だ。
だが、と一愛は腑に落ちない顔をする。
横でそれを見ていた色蓮がニヤぁと厭らしい笑みを浮かべた。
「分かるっスよ先輩。ウチらはそんな稼ぎでは満足できないと言いたいんスよね? “もっと深い階層を潜る”にはこれじゃ足りない。その気持ちよく分かります」
なんだか怪しいバイトでも紹介してきそうな色蓮だが、言っていることは的を射ている。正にその通りだと一愛は頷いた。
「だからウチらはこれからも【実績】をクリアしていく必要があるんスよ。正確には金策というよりエクストラガチャから出る強力な装備や実績のメイン効果が目的っスけどね」
「メイン効果? お前実績について何か知ってるのか?」
「知ってますよ。【実績】をクリアしていけば貴重なスキルや魔法が手に入るってことを」
初耳の情報である。一愛は今更になって情報の漏洩を気にする。平日の夜中で人が少ない時間とはいえいないわけではないのだ。迂闊だったかと一愛は僅かに焦る。
だが色蓮がいつの間にか消音の人工魔道具を手に持っていることに気付いた。
……アイテムボックスといい凄い装備といい、こいつ何でも持ってるな。
とはいえ今はその疑問を一旦脇に置く。
「……そのスキルや魔法は今後の探索に必須レベルで強いのか?」
「さぁ、それは分かりません。でもこれだけは言えるっスよ。レベル100を越える高レベル探索者は全員【実績】をクリアしている。多少歯抜けになっていたとしても、スね」
色蓮の挑発的なその言葉に、一愛は凶悪な笑みを浮かべた。
「なら俺達もクリアしないとな」
「流石先輩! そう言ってくれると思ってました!」
色蓮は笑みを浮かべて立ち上がり、消音の人口魔道具を懐に入れる。内緒の話はこれでお終いということだろう。
「先輩、もうちょっと時間ありますか?」
「ん? まぁ友達と晩飯食うって言ってるし、あと二時間てとこか。けど俺も装備用でアイテムボックスとか買いたいし、悪いけど付き合えないぞ?」
色蓮には悪いがこれも色蓮のお陰である。時止機能付のアイテムボックス(それも大容量)を仲間が持っている以上一愛がもう一つ手に入れる必要はない。あとは自分用の装備を入れるものがあればいいのだ。
……これでグレートクラブを持ち帰れるな。
これから暫く相棒となる武器を他所に預けなくて済む。そうウキウキした気持ちを隠しきれない顔で答えると、色蓮は好都合とばかりに頷いた。
「ではウチもお供させてもらうっス。これからの探索に必要なものを一緒に揃えましょう!」
「あー、まぁそうだな」
今日? こんな時間から? と思うも、楽しそうな色蓮を見て一愛は野暮なことを言うのは止める。二人で新宿ダンジョンストアの中を見て回ることにした。
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