第10話 後始末③

 家族からこってりと説教を受けた一愛いちかは、念の為その日を病院で過ごし後日退院した。

 帰り道に父親が運転する車でついでに新宿ダンジョンの買取所に向かい、比嘉から教えられたドロップアイテムの買取ナンバーを伝えると既に話は通っていたのかすんなりと事が進められた。

 今回一愛がエクストラガチャから排出したアイテムは下記の通りとなる。


 以下雑品。

 中級ポーション×2:買値50万

 上級恢復ポーション: 買値1000万

 狐尾:買値1万

 

 以下マジックアイテム。

 アリアドネの糸: 買値1000万

 身代わり地蔵:買値2000万


 以下魔道具。

 烏羽の扇子:買値20億


 以下不明だった品。

 菩提樹の実(雑品)一袋50個入り 買値50万(一袋)

 :赤いピーナッツみたいな見た目をした食べ物。食べた時の感想が男女によって異なる。女性なら悟りを啓ける。男性なら賢者タイムになる。賢者タイムが分からない女性が悟りを啓いた気になっているだけではとしばしば論争が起こる罪なアイテム。炒めるとかなり美味しいが効果が消える。

 女禍の人形(魔道具):買値1000万

 :血液を与えた人の分身体を作る。分身体は本体と同等の自我を持ち、最初に視界にいれた人に絶対服従。持続時間は1時間。所持禁止アイテム。

 リアルゴーストライター(魔道具):買値1億。

 :死者と交信できる日記。本人と死者でしか知りえない共通の秘密ですら知っていることからかなり信憑性は高いと言われている。が、一部の宗教家からは蛇蝎の如く嫌われている。


 残念ながら強さに直結するような装備は今回手に入らなかったが、それでも初ダンジョンの探索成果としては類を見ないほどの黒字であるのは間違いなかった。

 しいて言えば所持禁止アイテムの買値が機能に対して安すぎる気がしないでもないが、なんでも所持禁止アイテムは一律一千万で買い取っているそうだ。これは一愛では全く使えそうにない役立たずなアイテムでもそうらしいので一概に悪いとは言えない。お世話になる時もくるだろうから文句を言うつもりもなかった。


 そうして一愛は自分にとって不要なアイテム――上級恢復ポーション、女禍の人形、リアルゴーストライターを売り払い、1億2000万もの大金を手に入れた。

「自分で稼いだ金は自分で管理しろ」という両親の有難い言葉を受け入れ、全てを探索者証と一緒に登録した口座に振り込んでもらう。


 ちなみに【狐尾】は唯愛に、【菩提樹の実】は両親にプレゼントした。両親は微妙な顔をしていたが唯愛がかつてないほど喜んでいたのでこれで良かったのだろう。そう思うことにした。

 それとホブゴブリンからドロップしたグレートクラブも買値が付いた。価値は10万だそうだ。

 安いのが少し悲しい所だが自分で使うつもりでいるので売る気はなかった。今は新宿ダンジョンのロッカーに預けている。さすがに持ち帰るわけにはいかない。銃刀法違反で捕まってしまう。多分。

 だがこのままずっと新宿ダンジョンのロッカーを使うわけにもいかないだろう。いや別にそれでも構わないのだが何となく落ち着かないのだ。自分の武器を他所に預けているという感覚は。


 一応その解決策はある。アイテムボックスの人工魔道具を買えばいい。

 小さいものでキャリーバッグくらいの容量。大きいもので4トントラック並の積載量を誇るアイテムボックスが存在する。アイテムボックス自体の大きさはどれも腰巾着程度である。非常にコンパクトで大量の荷物の持ち運びができるのだから便利の一言に尽きるだろう。


 欠点としては、高い。


 小さいものでも100万円。一愛のグレートクラブが入る大きさにまでなると3000万くらいするのだ。アイテムボックス内部の時間を止める機能を持ったものになるとそれこそ小さなものでも1億は下らない額になる。今はそこまでの機能はいらないがいずれ必要になるかもしれない。特にダンジョンでの食料事情が切実である。それが一愛の判断に躊躇を生ませた。

 烏羽の扇子がある以上一愛がそれほど長い時間ダンジョンに潜る必要はないだろう。だが三日のクールタイムがあるせいでどうしてももっと探索したいという時に気軽に使えない問題もあった。やる気になっている時に三日お預けというのはちょっとあれである。

 それにどうせならダンジョンでも美味しいご飯が食べたいのだ。


 イタリアの軍人を思い出してほしい。彼らは戦場でも美味しい食事を作ることに余念が無かった。今ではネタにされて度々馬鹿にされているが彼らの持つ欲求は人として至極正しいものなのだと一愛は知ったのである。


 実際海外の高レベル探索者は超容量のアイテムボックスを殆ど持っている。当然時間停止機能付きで一流シェフが作る料理を片端から中に放り込んでいるらしい。中には家を持ち運んでいる者もいるそうだ。ちょっと意味が分からないが、これらの例からイタリアの軍人は正しかったのだと証明されたも同然である。暴論? いや正論だ(断言)。


 そういった諸々の思考が一愛を邪魔して、結局決めきれずにロッカーに預けてきたというわけである。次に新宿ダンジョンに行った際に決めようと問題を棚上げしているのが現状だ。


 それはともかくとして、次に家族。

 買取所から家に帰り着くと緊急の家族会議が行われた。議題は勿論一愛のことである。

 お説教から始まり最後には泣かれた。

 中でも一愛が虐められていると知った時の両親の衝撃は凄かったようで、情けない両親で済まないと謝られた時は流石に胸が傷んだ。というより一緒になって泣いた。

 一愛が通う学校は中高一貫の私立で、そのまま高校にエスカレートするのが自動的に決まっている。このまま順当にいけば虐められる未来は変わらないと両親は一愛に転校を勧めた。

 寝耳に水だった。

 そんな簡単な解決方法に気付かないほど追い詰められていたのかと、一愛は自分を恥じて、猛省した。最初から両親に相談していれば良かったのだ。そうすればこれほど家族を悲しませることもなかったし、心配を掛けさせることもなかった。自分がどれほど子供だったのかと二度目の思い知りである。


 だが結局は転校しないことにした。理由は色々あるが大した理由でもないので割愛する。

 一愛にとっての本題としてはこれからの探索者業についてだ。

 結論としては一愛が探索者業を続けられることが確定した。

 両親は一愛が探索者として活動するのに難色を示していたが、結果を既に出している以上断り切れないとも思っていたのか、幾つかの条件を元に最後には許可を出してくれたのだ。


 一つ目。絶対に一人で潜らないこと。


 危ないからソロで潜るなというわけだ。パーティーメンバーが見つかるまでダンジョンに入れないことが確定したが、1階層に用は無いので普通に受け入れた。どの道2階層に降りる時に仲間を探すつもりだったので特に問題はない。


 二つ目。身代わり地蔵とアリアドネの糸を持っていない時は潜るの禁止。

 

 ……買取所に家族総出で訪れたのは失敗したと正直思った。両親がマジックアイテムの効果に詳しくなったのは痛恨である。

 だがこの二つを持っていれば大抵の状況で安全なのは間違いない。身代わり地蔵は実質的な残機であり、アリアドネの糸は一愛を苦しめたデイリークエストですら無視して帰還できる。秒間2殺されなければ確実に生還できるのだ。子供に持たせたいと思うのが親心だろう。

 ……ダンジョンの中はそれでも危険だと、一愛は黙っていたが。


 最後の三つ目は、高校を留年せずに卒業すること。


 正直一番難しい条件だと一愛は思った。

 そもそも探索者として成功すれば高校に通う理由など一つもないと思っている。学校に通うのは勉強の為で、勉強は良い企業に入ることに繋がり、それはつまるところ将来の為である。ようは将来の為に通う場所が学校なのだと一愛は思っている。

 一愛の将来は探索者だ。勉強は必要ない。

 それなのに高校にきちんと通うということは探索者としての活動に支障が出るも同然である。いくら烏羽の扇子があるとはいえこうなってしまえば三日のクールタイムが非常に鬱陶しく感じるものだ。贅沢な話である。

 だが一愛は粛々と受け入れた。外ならぬ両親からの厳命だ。受け入れるしかない。


 そうして深夜にまで及んだ緊急の家族会議はお開きとなった。

 最後に母親から抱きしめられ、「生きて帰ってくれて本当に良かった……」と言われたことが寝るまで頭から離れなかった。




 そして翌日の朝。

 ……憂鬱である。


「はぁ……」


 一愛は朝から何度目ともしれない溜息をつきながら、学校までの通学路を歩いていた。

 別にそれが憂鬱なわけではない。いや嘘だ。少しは憂鬱である。退院した次の日に学校なんて行きたくないのが本音だ。もう少し休みたい。

 だがそれは別にいいのだ。本当に憂鬱な理由は他にある。


「……」


 学校に近づくにつれて段々と増えていく視線と囁き声。ほぼ全て同じ学校の生徒からのものである。

 レベルが上がった一愛の聴覚と六感は並ではない。視線は鋭敏に感じ取れるし聞きたくもない声が聞こえてくる。幸いなのは陰口染みた言葉が少ないことか。好奇心7割無関心3割といったところである。

 これが一愛の主な憂鬱の原因であった。

 こんな動物園の珍獣みたいな扱いを受けるのは甚だ不本意であるが、その理由には心当たりがある。これが比嘉が言っていた世間に顔と名前が売られてしまったということなのだろう。


 というより朝のニュースでやっていた。

 想像してみてほしい。妹とリビングで朝食を摂っている時に自分の名前がニュースで流れた時の気持ちを。

 青天の霹靂。びっくり仰天。寝耳に水。

 マンガみたいにリアルにコーヒーを噴き出してしまった一愛を一体誰が責められるだろうか。責める権利があるのはコーヒーをぶっかけられた唯愛だけである。

 諸々の後始末に追われネット記事の確認やエゴサをしていなかった一愛にも問題があるが、それにしたってテレビに出るとは思わなかったのだ。


 幸いにして朝のニュースでも一コマだけで淡々とした報告で終わっている。が、慌ててネット記事を確認すればプチ祭り状態だったのには蒼白した。一愛の帰還を皮切りに日本の探索者がどうのと議論が白熱している様を眺めるのは苦痛の一言である。最終的にもう好きにしろよと達観したのは致し方ないであろう。いわゆる現状放置の逃避だ。

 ともあれそうした事情で一愛が有名人になってしまったのはもう変えられない事実である。


 ……まぁ気にする必要はないか。


 色々言ったが冷静になってみればなんてことはない。

 注目を浴びることが憂鬱なのに変わりないが、それで一愛の行動が変わるわけではないのだ。変える気もない。人の噂も七十五日。その内風化して話題にも上らなくなるはずだ。それまで波風立てずに過ごしていればいい。

 第一そこまで大事になるようなことをした覚えもない。家族には心配と迷惑を掛けてしまったが言ってしまえばそれだけである。

 確かに人騒がせだったかもしれないが、ダンジョンでの行方不明者など一日いくらいると思ってるのだ。今はかなり減ったが最初のころは三万人である。大げさにするのが遅いのではないかと言いたい。


……うん。やっぱ無視でいいな。


 そう一愛は方針を定め、好き勝手に浴びせられる視線を我関せずとばかりに無視しながら自クラスの教室の扉を開けた。


「――」


 一愛が教室に入った瞬間、教室がしんと静まり返る。

 HRの5分前に登校したこともあって、教室には殆どの顔と名前も覚えていないクラスメイトが談笑していた。それらが一斉に、時を止めたように黙り、一愛を呆けたように見つめてきたのだ。

 流石にこれだけ無言の視線を浴びせられると身構える。特に理由もなく「むっ」とファイティングポーズを取ってしまいそうだ。

 とはいえそんな奇行をするわけにもいかない。一愛は外面上は表情を変えず自分の席に着こうとして、


「おい!」


 聞き覚えのある声に止められた。


「お前、ダンジョンで行方不明になったんだってな!」

「……竜之介」


 ……すっかり存在を忘れていた。

 昨日の家族会議が長引いた元凶であるはずなのに、忘れるとはこれいかに。それくらい一愛にとってどうでもいい存在になっているのかもしれない。

 というのも一愛が転校を選択しなかった一番の理由がこれだ。一愛はもう竜之介に対して抱いていた憎しみや怒りといった感情を持ち合わせていないのだ。

 こうして改めて見るとむかつく顔してるなぁという感想を抱くがそれだけである。

 竜之介はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、いつものように一愛に近づいてきた。


「ネットやテレビで流れてたぜ。お前みたいに無謀で情けない未成年が二度と出ないよう今後より一層の注意を払うってよ!」

「そう。それで?」

「は? それでだと?」


 一瞬で眉間にしわを寄せた竜之介に、一愛は重ねるように「それでだよ」と言った。


「用件はそれだけ? 授業の準備したいからもういい?」

「こいつ……!」


 不思議である。

 凄まれているはずなのに全然怖くない。

 それどころか何故か子供の頃、竜之介と仲が良かった昔を思い出してしまった。


 ……非常にやりづらくなって困る。


「それでじゃねーんだよ。お前みたいな情けない奴と同級生ってだけでこっちは恥かいてんだ! みんな同じ気持ちだぜ!」

「そう。悪かった。みんなが誰か知らないけどみんなにも謝るよ。ごめん。これでいい?」

「ぐっ。てめぇ舐めてんじゃ、」

「おいおい竜。こいつちょっと調子に乗りすぎじゃね?」


 馬鹿、もとい安田がきた。

 両拳をパキポキと鳴らし、ヤクザみたいに瞳孔を開いている。人を脅し慣れているのだろうが一愛にはどこか滑稽に映った。


「俺らより先にダンジョンに潜ったからってイキってんじゃねーよ。少しは見れる顔になったみたいだがてめぇの根本が陰キャだってことには変わんねーぞ」

「なんだお前。急に割り込んできてウザイんだけど」

「テメッ――⁉」


 安田の動きより速く一愛は動いた。安田の拳を掌で受け止める。

 安田はいつものように反射的に一愛の腹を殴ろうとしたのだろう。だがそれを普通に止められたことに驚いたようだ。驚きで先ほどとは違う意味で目を見開いている。


「前から言いたかったんだけど、俺とお前ってどんな関係なんだ? 馴れ馴れしいんだけど」

「……ぐっ」

「気安く話しかけんなよ」

「ぐぁっ!」


 握力を徐々に強めていくと、安田は耐えきれないとばかりに悲鳴を上げた。そこで一愛は拳を解放してやる。

 最初から友達でも何でもない安田は一愛にとって心底どうでもいい存在である。何もしてこなければ何もしないが今みたいに危害を加えようしてくるのなら容赦はしない。一切の手心を加えずに心がへし折れるまで叩く。

 そう思って睨みつけると安田は可哀そうなほど狼狽えた。


 ……なんだ。これで終わりか。


 一愛は思わず呆れると同時にどこか腑に落ちた。

 これは以前までの安田と一愛の関係だ。情けない奴を見、情けないと思う。きっと安田もこういう感情だったのだろう。

 安田みたいにならないよう気を付ける、そのことに気付かせてくれた良い出来事である。


「やるじゃねーか一愛。正直ネットの噂なんか信じちゃいなかったが、ダンジョンでレベルが上がったってのはマジみてーだな」

「……」

 

 竜之介の態度が180度変わり、どこか友好的に話しかけてきた。

 安田を下したことで認めたのか、もしくは敵対することを警戒したか。どちらにしろ一愛に舐められることを心底嫌う竜之介らしからぬ態度である。

 何か裏があるのか。あるのだろう。目が笑っていない。


「いやマジで驚いたぜ。けどこれで俺達のパーティーは安泰だな」

「……」

「俺達もお前と同じレベルまで上げてくれるよな?」


「パーティーメンバーで友達だろ?」と竜之介はにこやかに一愛の肩を抱いた。

 レベルさえ同じになればまた立場は逆転する。

 そう言いたげである。


「……竜之介」


 浅い。浅すぎる。

 言いたいことは山ほどあった。随分都合の良い態度だなとか、寄生でレベルが上がっても俺より強くはなれないぞとか、この前の言葉をそのまま返してやろうかとか。

 だが一愛はそれらの言葉を全てのみ込んだ。

 竜之介のどこまでも人を舐め腐った浅すぎる思考が心から哀れになったのだ。


「俺はお前のこと、友達だと思ってたよ」

「何言ってんだ今も友達だろ?」

「違う」


 はっきりと一愛は断言した。

 肩に置かれた手を払い距離を取る。


「竜之介、お前もそいつと同じだよ。お前をもう友達だとは思ってない。理由は言わなくても分かるよな?」

「……いやそれは謝るって、」

「止めてくれ」


 一愛は言葉を被せるように遮る。哀れ過ぎてこれ以上聞きたくなかった。


「その言葉は俺のレベルが上がる前に聞きたかったよ」


 そうしてくれてれば、もしかしたら元の関係に戻れたかもしれない。

 毎日一緒に遊んでいた仲が良かった昔みたいに。

 ……ありもしない仮定を思って一愛は無性に悲しくなった。


「幼馴染だった仲だ。俺がパーティーに入ることを無かったことにすれば今までのことは水に流す。それで俺達の関係は終わりだ。ただのクラスメイト。それでいいよな?」

「いや一愛」

「いいよな?」


 いつかの竜之介のように、一愛は敢えて凄んで見せた。

 反応は劇的だった。余裕を持ってへらへら笑っていた竜之介は叱られた子供のように縮こまってしまう。ダンジョンで死線を潜ってレベルを上げた探索者の威圧はただの中学生には過剰にも程がある。


「…………………………わかった」


 やがて竜之介は小さく、だがはっきりと頷いた。

 それを見て一愛は浅く呼吸を吐く。

 やはり慣れない。


……でもこれで俺は自由になったんだな。


 だというのに気分が沈んでいるのはなぜなのか。

 清々しい気持ちにはなれない。ダンジョンでモンスターを倒していた方が大分自由だ。

 もしかしたら一愛の自由はここには無かったのかもしれない。竜之介との関係を清算しようと気が晴れないのならきっとそうなのだろう。


 ひとまずこれで諸々の後始末は一件落着……。


 そう思っていた途端、ガラッ、と勢いよく教室の扉が開いた。


「――このクラスだったんスね! 二ツ橋一愛先輩!」


 入ってきたのは見るからに西欧風の美少女だった。

 ショートカットに切り揃えられた白金に近い銀髪には艶やかな天使の輪が輝いている。快活そうな髪型によく似合う勝気な猫目は大きな碧眼。身長は150前半だろうか。腰が見るからに細く、制服から伸びる手足は目を奪われるほどに白い。

 その誰もが憧れるであろう美少女が、輝かんばかりに笑顔を浮かべて一愛を真っすぐに見つめている。外人だとぱっと見で思ったがその笑顔にはどこか日本人的な愛嬌があった。

 もしかしてハーフだろうかと他人事のように一愛は考えて、


「え、俺?」


 謎の美少女の目的が自分であることを今更のように思い出した。

 彼女はその言葉に「はいっス!」と元気よく答えると迷いのない足取りで一愛の目の前まで歩き、手持ち無沙汰である両手を握ってくる。


 ……え、なに、近いんだけど。


 美少女に胸がくっつくほど近づかれ両手を握られる。女性の免疫が妹しかない陰キャオタクである一愛が思わずきょどってしまうシチュエーションだが、なぜか今は恐怖が先行した。

 彼女は「一目見た時から決めてたっス……」と乙女みたいに頬を赤らめ、がばっと一気に顔を近づけて、


「――ウチと、パーティー組んで下さいっ!」


 そう決意のこもった言葉を告げてきた。



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