5.

「神さまのことは理解できたかな。」

「……なんとなく……。高辻は、今も神さまの声が聞こえるの」

「聞こえるよ。言葉は全くわからんがな。草の葉の揺れるような、さやかな声だ。親分の話じゃ、どこかにある安住の地を指し示す言葉らしい。それがどこかはわからない。私達はそれを探して十年単位で移動している。

 ユウキも組織に入ろうとしていたんだよ。だがどうやら、直前で怖気づいたらしい。やめたい、と言い出してきた。代わりをよこすから、見逃してくれ、とな」

「それで、俺が呼ばれたの、」

「そうさ。そこまで聞かされてなかったかな」


 初めて聞いた話だ。だが、ユウキが聞かせなかった理由もよく分かる。真偽の程は置いておいて、気味が悪いにもほどがあった。

「じゃあ、ユウキ先輩は、」

「先々週が盃の日だったよ。私も立ち会った。一応そういう立場なのでな。結果をききたいか」

 圭介は首を振った。

 ユウキが死んだという話も、あるいは高辻のような化け物になったという話も、今は聞きたくなかった。

「それとも、お前も興味があるのか?組にかけあってやろうか」

「嫌だ、」

 再度大きく首を振る。高辻は笑った。

「冗談だ。お前にこの世界は向いていない」

 高辻はそう言うと、料理をする手を止めた。高辻の前には、きれいに背ワタの抜かれた海老が山積みになっていた。


「さぁ、こっちの下準備はできた。お前、まだ豆を取っていないのか」

 今日は海老とそら豆を炒め合わせるらしい。圭介の担当はそら豆を鞘から出して薄皮を剥くことだったが、まだ半分もできていなかった。

「下手くそだな。」

 それ以降、彼がその神の話をすることはなかった。


 高辻は日付が終わる前に、圭介を家のそばまで送っていった。

 そういう木曜日が、何度が続いた。



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