編入生

 三篠と雲耕が一触即発になる寸前に、始業のベルが鳴り響いた。と同時に、件の編入生が入って来た。

「・・・ふーん、まぁ、それなりのクラスか」

 開口一番、私以外の全員が額に青筋を浮べたのを認めた。

「あら、貴方。口の利き方がなってないのじゃあなくて?」

「・・・ん?あぁ、生徒会長の三篠か。宜しく」

「え、えぇ。そうよ、私が生徒会長の三篠よ。貴方は?」

「・・・オレ?・・・ふん、知りたがり屋だな、お前は」

 ほうほう、煽るじゃないか。

「まぁ、良いだろう。オレは、富海だ。富海クロウだ」

 ・・・トドミ、クロウ。トドミクロウ、か。

「まあ、名は体を表わす、とはこの事ね。今治さん」

 だから、何で私に話を振ってくるのだ。

「・・・ン?イマバリ・・・?あ、お前か!」

 はい?

「お前、アレだろ、アレ!いやー、同業者が見つかって良かったわー」

「・・・どちら様ですか?」

「えぇ!同じじゃねぇのか?っあれ、間違ったのか?」

 富海は頭を掻くと、空いている席に座り込むと居眠りを始めた。

 そんなこんなで、今日も終っていく。

 私以外の全員は、専用車で優雅にご帰宅。私は、バスでゆっくりと帰ろうとしていたら、校門の鉄柱に寄りかかった富海が居た。

「よぉ、今治!」

 今度は、イヤホンを外そうとしてきて、手で振り払おうとするその手を掴まれた。

「・・・お茶、し・な・い?」

「・・・結構です。バスの時間が迫っているので、失礼します」

「んな、釣れないこと言うなよ。・・・それとも」

 スッ、と引き寄せられて耳に富海の息が掛るのを感じる。「今日は、親父さんでも帰って来るから、早く帰りたいのか?」 

 ・・・何故、それを知っているのだ?

「何で・・・!」

 ビンゴ、と囁いた富海の声は、何かの暗示を掛けるかのように、自然と私の身体に染み込んでいく。

「そうか、そうか。いやぁ、悪ぃ事を言ったな。そうか、そうか」

 富海が言う言葉に、私は何か罪悪感染みたものを感じたが、従ってはいけない。だめだ、従ってはいけない。・・・落ち着け、私。ここで頷いたら、富海の思う壺だ。

「それじゃあ、残念だ。またの機会にしておくよ」

 良かった。よし、このまま帰れ。そして、バス停まで・・・あれ? バス停って、どっちだ?このまま真っ直ぐに行けばいいのか?それとも、反対方向か?何だ、何だ?そもそも私は、どこに行って何をするべきなんだ?

「君は、オレとカフェでお茶をするんだよ」

 あぁ、そうか・・・。コレが狙いだったのかと気がついたときには、富海にエスコートされ、すぐそこのカフェで注文を終えた時、意識が戻った。

「・・・それで、ここまでして私に何のご用ですか?」

「そんなにカッカしないでよ、今治さん?」

 三篠よりも質が悪い。これだったら、三篠の纏わり付くような会話の方がまだマシだ。

「本当に、知らない?オレの名前。結構、有名なんだけど?」

知るか、お前の名字なんて初耳だ。

「んー、知らないか・・・。ま、でも・知らなくてもさほどの障害にはならないかな」

 ・・・何を言っているのだ、コイツは。

「お待たせ致しました。コーヒーとカフェオレです。ごゆっくりどうぞ」

 ウェイトレスが去ると、彼はまた、話を始めた。

「なぁ、お前はさ。この学園都市の構造に疑問を持ったことはねぇのか?」

・・・は。思わず飲んでいたカフェオレを吹き出すところだったが、ここは落ち着け。今は、学校帰り。制服を着たままだ。この制服で騒ぎを起こせば、問題になる。

「姿の見せねぇ〈教会〉のトップ。弱肉強食を絵に描いたような学園構造。アルビノに与えられる謎の永住権。なぁ、日常に転がっている疑問を、お前は考えたこともないのか?」

 この学園都市で敷かれている、暗黙のルール。それを富海は、片端から暴こうとしているのか?

「止めなさい、富海」

 私の声に驚いた彼は、ブッとコーヒーを吹き零しそうになった。

「この学園都市に居たいのなら、そのような詮索はしないことをお勧めします。それでは、カフェオレ、ご馳走様でした」

 私は、足早に喫茶店を出ると、次のバスの時刻を確認した。

 ・・・フフン。ニヤつきが止まらない。こんなにも簡単に、情報が得られるとは、喜ばずにはいられない。

 取り敢えず、彼の行動はある程度警戒していた方が良いだろう。彼の“声”を聞いたとき、彼の目的は分かった。

 彼は、この学園都市が行っているある事を調査しに来ている。調査内容までは、精査できなかったが、ある程度までは調査済みらしい。でも・・・。どうして、私に打ち明けたのだ?まるで、誘導されているような気がしてならない。それに、昨日、私を訪ねてきた彼は、父さんから事情を聞いた、と言っていたが、彼はどうだ?どこで、私の情報を調べ上げたのだ?

 あぁ、疑問が多すぎる、脳内の容量が足りない。早く帰って、纏めないと・・・。


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