学園都市
翌日。
昨日の夕飯のスープとパンで簡単に朝食を済ますと、私は家を出た。
丘の中腹ぐらいのバス停に、学園行きのバスが来ている。それに乗り遅れないように、身支度を整え、寒くないように手袋をする。家と門を閉めるとゆっくりと丘を下っていく。
他の家に暮らしている同級生は、学園からの専用車で登校している。私にも声は掛るが、専用車が家に来る前にバス停に向っているから、落ち合うこともない。
バス停には、会社員や部活動をしている生徒がすでに並んでいた。
その列の最後尾に並ぶと程なくしてバスが到着した。
座席には座らず吊革に掴まり、終点より2つ前のバス停で下車する。その後、学園に向う途中のコンビニで昼食を購入していると、店内に設置されている液晶画面から今日の天気予報を伝えていた。その時、臨時ニュースが流れた。
『ここで、臨時ニュースをお伝え致します。〈白い教会〉の報道官から、1ヶ月間の外部市民の転入を禁止すると発表されました。尚、行楽による外部市民と一般市民の入出は禁じないということなので、生活にはなんら、影響がないという事です。以上、臨時ニュースをお伝え致しました』
『はい。では、天気予報の続きをお伝え致します・・・』
コンビニを後にすると、同じ制服を着た生徒が歩いて行く。そのすぐの道路を専用車が通っていく。
コンビニを出て暫く歩くとすぐに学園の門が見えてくる。この都市の三分の一を占めるこの学園は、幼稚部から大学部まで設置された、一貫校の体裁を取っている。
中庭を囲む様に時計回りに幼稚部、初等部、中等部、高等部と続き、最後に大学部と付属病院。その奥に滅多に足を踏み入れる事がない事務局棟。その奥を進んで行くと〈白い教会〉の裏庭に続いているとかいないとか。
高等部の3階の小教室。そこが私を含め、一握りの成績優秀者(周囲から見れば変人)の教室である。
まだ、誰も教室には来ていない。静まり返った教室。人を感知して自動で点く照明、快適な環境を提供する冷暖房設備。
この学園では、科目はあるが授業はしない。時間になると担当教師が教室に座り、自学自習という他とかかなりかけ離れた授業体制をとっている。基礎科目以外は、少人数制の授業で行われる。それがこの学園の魅力となっている。
「やはり、お早いのですね」
そう言って教室に入って来たのは、この学園都市を中心に事業を発展させている企業の令嬢。
「・・・別に」
何時間もかかりそうなウェーブの掛った長い髪を揺らしながら、私の隣に腰を降ろす。
「また、そのような質素な食事ですの?この学園のトップに君臨するお方が、もう少し社交性というものを身に付けた方が、宜しくて?」
高等部生徒会長も務めている彼女は、どうしてか私を好敵手と見ている。名前は、
「ねえ、今治さん。わたくしとお友達にならなくて?」
ここ最近は、ずっと私に同じ事を毎日、毎日言ってくる。
「ねえ、わたくしとお友達になって、この学園を支配しませんこと?」
「ンなコト言ってっから、出来ねぇんじゃねぇの?」
制服を着崩した、学園一のワルと自称しいている、また五月蠅いヤツが登校していきた。
「あら、今日は珍しいのですね。嵐でも起きるのかしら?」
そう、彼は気が向かないと学園に姿を見せない。別の意味での学園一のワルだ。
「なぁ、今治。テメェ、本当はどうでもいいとか、思ってンだろう?コイツの話も、この学園の事も」
イヤホンをしていても聞こえてくる、彼の本音。彼が私の事を好いていること。私を振り向かせたいと思っている事。
「おい、何とか言いやがれ!」
「何をするのですか!同じクラスメイトですのよ!!」
あれ、そう言えば、昨日来た彼の本音は聞こえなかった。どうして?
「テメェ、聞いてンのか?」
「これ以上の蛮行は、生徒会長として許しません!権限の行使を・・・」
「そこまでですよ、三篠さん」
静かに扉を開いた男は、ゆっくりと三篠に近付くと、その髪の毛に口づけをした。
「貴女のような女性が、余り権限などを行使せずとも、付いてくる者はいるのですから・・・」
この男の本音は、喚き散らしている彼に羨望の念を抱いていること。そして、私に対しては三篠の友人になって欲しいと願っていること。
「貴方もですよ、
「けっ、余計なお世話だよ。
「お早う御座います、今治さん」
口づけをしようとする手を払いのける。それを雲耕がニヤニヤしながら見ている。
「皆さんにお知らせがあるようで、このようなチラシを預かって来ました」
油見が差し出したチラシには、本日付でこの教室に転入生が来るお知らせだった。
「ふーん、新しいヤロウが来るンか」
「まぁ、珍しい事ですわ」
「えぇ、〈教会〉から、転入禁止令が発令された今日、この学園に来るというのは」
私も含めて、この場にいる全員が驚きを隠せていなかった。
このクラスは学園内外に問わず、ある程度の待遇を受けられる。その待遇を得ようとして、毎月の小テストと毎学期の定期試験に躍起になっているが、このクラスは人数が増えたりはしない。それだけ、編入条件が厳しく、それでいて誰もが目指している。ここは、一種の戦場と同じである。
「きっと、途轍もない努力をして来たお方なのね。可哀想に。ねぇ、今治さん」
何故、私に話を振ってくる。
「まあまあ、三篠さん。そう虐めてはいけません。先ずは、このクラスに馴染んで頂きましょうよ」
「ケッ。テメェも同じじゃあねえかよ」
「雲耕さん。いい加減に・・・」
三篠と雲耕が一触即発になる寸前に、始業のベルが鳴り響いた。と同時に、件の編入生が入って来た。
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