5


 やがて朧山パーキングエリアに差し掛かるとき、ずっと弄んでいた知恵の輪が、外れた。僕は彼に告白した。


「僕、電車に飛び込んだ人を見たことがある。僕の目の前で」

「へぇ、」

「友達だった。本当に、僕のすぐ目の前だった。少し、竜胆さんに似ていたかもしれない」

「俺に?どんなところが、」

「いつも一人で、タバコを吸って、何にも縛られないって顔してた。」


――いつも同じ踏切で一緒になる子だった。示し合わせたわけでもないのに、下校のときはだいたいそこで一緒になった。

 それから少しずつ喋るようになって、ああ、この子と僕は、孤独なところが似通っている、そんな自分勝手でありがちな妄想をした。今思えば、それは思い上がりだった。


 彼はイヤホンで音楽を聴きながら、踏切の中に入っていった。そのときに聴いてた音楽すら、僕には見当もつかない。


 結局僕は、彼のことを何も知らなかった。


 似ているなんて思わずに、知ろうとすればよかった。今はもう全部が遅かったんだということしかわからない。

 ただ、遮断器の下に彼の腕が転がっていて、それが傷だらけだったのを今でも覚えてる。


 洗いざらい吐いた直後、不意に竜胆が僕の右手を握った。彼の手は温かい。


「……誰かと似ているって思うことは、悪くないさ。」

 竜胆もまた、彼と僕とが似ていると思ったからだ。

 だが彼は、そこから僕を知ろうとしてくれた。


――竜胆くんの手を、何があっても離さんように――


 アンナがすぐ耳元で、囁いたような気がした。


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