二. みたされたい

1


 久しぶりにあの夢を見た。


 痛いほどの青空の下、足元に僕の濃い影が染み付いていた。

 盛土の上に熱せられた線路が敷かれ、遮断器にはトケイソウが巻き付く。気味の悪い花が、いくつもいくつも咲いている。


 その踏切の手前で、学生服の〈彼〉が立っていた。

 白いイヤホンのコードが耳元で揺れる。

 遠くで入道雲がもくもくと膨らむ。


 ふと、僕に気づいて振り返る。


『黒川、』


 彼は笑った。それから遮断器を越えた。


 けたたましい警笛とともに、僕は目を覚ました。




 待ち合わせは夜の九時だった。

 僕は竜胆の配送についてまわりながら、仕事を見学することになった。


 荷積みは竜胆の方で済ますそうだ。僕は電車に乗り、何度か乗り換えて、〈ハギノ輸送サービス〉の最寄り駅に降り立った。

 海辺の町にある小さな駅だった。すでに人の往来は少なく、反対の列車に乗る人はいない。

 駅裏のロータリーの向こう側には、一本の大きな桜の木が四方に枝を伸ばしていた。街灯のない道の横で、花だけがぼうっと光を放つ。花は少し盛りを過ぎていて、風も吹かないのにひらひらと花びらを降らせていた。


 その花の向こうから、一台のトラックが姿を現した。竜胆だ。トラックのタイヤに、桜の花びらが何枚かくっついている。

 促されて助手席に乗ると、シートはタバコと男物の香水の匂いで満たされていた。それはそっくりそのまま竜胆の匂いであった。僕は久しぶりに個人の領域というものに踏み込んだような気がして、なんだかどぎまぎした。


「この辺、思ったよりも道狭いなー。」

 彼は言いながらナビを確認した。

「竜胆さん、今日はどこに行くの?」

「朧山を抜けて、もう少し向こうで降りる。楡井山にれいやまって聞いたことあるか?」

 僕は首を振った。

「ちょっとマニアックなとこだな。まあ荷が荷だからな。なぁ夏生、聞いて喜べよ。今日は特別な配送なんだぜ」

「とくべつ?」

「そう。これ見たら人生変わるぜ――弔いに行くんだよ、死体を、」

 それはまるきり冗談に聞こえた。きっと運送業界の隠語か、何かの比喩に違いないが、今のところ何の比喩かはわからない。

「死体って、」

「そのまんまの意味だよ」

 僕はここへ来てまだ竜胆が冗談を言っていると思っていた。トラックが動き出す。

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