第8話 再演
復活してきたアトラーに向かっていく優火を傍目に見つつ、私はあまり確認していなかった自身の状態を確認することにした。まず手元に簡易式の炎魔法を発動させる魔法陣を展開しようとする。だが魔力が足りず、魔法陣が完成する前に、バラバラと崩れ落ちていく。
「大丈夫ですか、お姉様」
そんなことをしていると弟が心配そうな顔をしてやってきた。私、そんな大丈夫じゃなさそうだろうか?
「ええ、大丈夫、よ」
少しめまいがする。魔力が切れたことと、《フェニックス降臨》の代償によるものか。
「大丈夫そうじゃないですよ。休んでください。応急処置させてもらいますから。」
「____そうさせてもらうわ。」
そう言うと、キルラが私をお姫様抱っこして、部屋の端まで移動した。壁に持たれる形で私を座らせ、
「《
を唱えた。すると、それまであった疲労感が徐々に無くなっていく。魔力は回復しなかったが、自然治癒を待つしかないだろう。少し余裕ができたので優火の方を見る。
「デフレーションダイアル」
ちょうど優火の魔法がクリーンヒットしていた。だが、少し威力が足りない。あれでは、あいつの障壁を割ることはできないだろう。当然、というべきか、アトラーは無傷で立っていた。だが、周りには一切攻撃に使用されたナイフは落ちていなかった。
その数秒後、アトラーからかなりの量の魔力反応。高火力のレーザーが放たれる。
「
「それは、誰のことを言っているのかな?」
「!?」
驚いてその声のした方を確認すると、フォーレイが立っていた。
「あ、あれって、、、」
「フォーレイ先生ですね。今も生徒たちから恐れられていますよ。使う技の威力が大きすぎるので、学校では、バ火力ロリエルフとか言われてますよ。背はちっちゃいし、可愛いですからね。お姉様には及びませんが。」
マジか。今の生徒そんな奴等なのか。後で見に行ってみよう。スカウトと称して。
「それはそうと、いくら優火さんとはいえ、勝てるんですかね?あんな硬い障壁じゃあ、勝ち目もほとんどないじゃないですか。」
少し考え、こう答える。
「ねえ、優火の《
キルラは少し考え、こう答えた。
「時間を操作する____ということは、おそらく空間とかにも干渉できるんじゃないですかね?空間を歪ませて収束反応を起こすとか、その逆とか。」
「そうだね、半分正解。もちろん空間もいじれるけど、そこじゃなくて、彼女の話によると、空間すべてを記録できる。だそうよ。」
「え、それって僕の言ったことの応用みたいなものでは?」
「細かいことは気にしないの。あの魔法は、単純な時間の加減速や停止、巻き戻しなんかじゃない。むしろそれは、その魔法の真の能力の副産物に過ぎない。優火はそう言っていたけど、その意味は私にはあんまり理解できてないわね。」
その話を聞き、弟は少し驚く。
「まさか、あそこで《フェニックス降臨》を発動させたのは」
「やっぱり気づいたかしら。まあ、私にかかれば当然よ」
嘘である。本当はさっさと終わらせたいがために《フェニックス降臨》を放った。
「そうね、もう察しが付いてると思うけど、彼女の魔法のもう一つの能力は____」
____いずれ勝てる。私の絶対的有利は揺るがない。
戦闘の中で、アトラーはそう確信していた。今戦っている少女は、最初に攻撃を浴びせてから私の技を避けるばかりで、攻撃してくる様子はない。わずかでも隙があれば、魔法を当てられる。だが油断してはならない。私のこの体は、一度死んでいるのだから。魔力は生存時以上だが、代償として肉体の魔法による修復は不可能だ。自然治癒を待つしかない。だから、やるしかない、最高火力をやつに当て、私は生き延びるんだ。まだ死神にはお世話になりたくない。口は動かずとも、手と目は動かす。鎖をやつに向けて伸ばし、その間の縫うように斬裂弾を放ち、更にその回避先にまで雷や炎の魔法を放っている。この中で隙が全くできない人間などいないだろう。そう思い、魔法を放ち続ける。だが相手はこの中で全く仕掛けようとしない。避けるのに全力を注いでいるわけでもない。こちらから仕掛けろと?そしてその中で一瞬、隙ができた。すでに用意していた魔法陣に魔力を流し込み、彼女に向かってレーザーを放つ。中からの魔力反応もない。勝った。だがそう確信した直後、ある違和感に気づく。
____遺体がない?
あれ程のレーザーを食らって存在すら消え失せたというのか?いや、ワープした?まさかあの一瞬で?そんなこと、ありえるはずが____
その思考に至ったとき、背後で魔力の反応を感じ、振り返る。そこには二本の刺さった剣と、その間に立つ少女の姿があった。
「この体に宿りし不滅の精神よ、今こそ秘めた力を解き放ち、不死鳥となって飛翔せん」
あの技は、カルラという少女が使ったもの!?この少女にも使えたのか?いや、そうではない、ところどころに違う魔法が混ざっている。デフレーションダイアルを使ったときのものに似ている。まさか、この魔法は___
「《
彼女の背中から出現した青い二翼の翼は、アトラーを恐怖させるには十分なものであった。
「彼女の魔法のもう一つの能力は、事象の再現、《
この戦いを眺めていた私、フォーレイは、素直にそう思った。純粋に、あの魔法はすごいと思う。巻き戻し以外に大したデメリットが存在せず、かつ魔法自体に使う魔力は少ない(そういう仕様に彼女が改造した)物だからだ。
「事象の再現か、なるほど、そういう原理であれ程の高火力を再現しているのか、でもあれだと__」
「そうだね、あれだとおそらく、魔力的に持って三分ってところだろうね。精度は高くても限界はあるからね。ちなみに私が再現したものは二分しか持たなかった。」
だがそれでも、こちらが有利であることに変わりはなかった。
「三分、か」
隣りにいるサタンがすこし口を歪ませてこう言う。
「それだけあれば、あいつにとどめを刺すには十分だな」
「ああ、必ず負けることはない」
しくじった。このままでは死ぬ。そう本能が告げている。それほどに、この魔法は恐ろしいものだった。攻撃に使っていた魔力をすべて障壁に費やし、更に地面に、転送の魔法陣を展開させる。全魔力を障壁と転送に費やしているため、これ以上の移動はできない。後数分持ってくれれば、こちらが勝てる。だが、そう甘くないのが現実だった。数分くらい持つと思っていた障壁に、ナイフが刺さっている。この程度では破れることはない。眼前にいるナイフを刺してきた少女は、少し離れた位置で笑っていた。
「まさかここまでうまくいくとはね、思ってもいなかったよ」
彼女に生えていた大きな青い羽が、一瞬で消えた。
「「「「!?」」」」
私だけでなく、この場にいた全員の思考が一瞬、フリーズした。だが、それと同時に、彼女からの魔力反応がなくなり、動かなくなった。だが、そのチャンスを見逃すほど、私は馬鹿ではなかった。障壁に費やしていた魔力の半分ほどを、眼の前にいる彼女を倒すため、速射できるレーザーを放つため魔法陣を展開、発動する。そのレーザーは彼女の心臓を貫く。はずだった。
だがそのレーザーがあたった瞬間、彼女が視界から消え、障壁に新たな衝撃が加わる。彼女の狙いに気がついた頃には、もう遅かった。
「《
それに反応し、吸い寄せられたナイフ五本が、私の障壁と腹部を貫き、私は地面に倒れた。それにより地面に構築していた魔法陣の展開が停止し、四散した。だが、動けず魔法も使えない状況にある中で、意識だけははっきりと持っていた。その意識の中で、見覚えのある人物が視界に映り、私の胸ぐらを掴んできた。駆け寄ってきたかつての魔王の表情には、憤りが感じられた。
「アトラー、何故こんな事をした!ウィッシュとセリカは__我の息子と娘はどうした!」
俺が殺した。そう言えはしなかったが、表情でわかるだろう。この魔王様ならば。それに気付いた瞬間、彼は私を投げ捨てた。彼の顔からは、怒りと悲しみ、そして失望した表情が見えた。
「お前には失望したよ。まさか二回も、こんなことをしてくれたな!」
そう言い、彼の手に杖が顕現される。だがそれから魔法が放たれる前に、
「ストーップ。サタン、どいて。こっちも仕事なんでね。」
彼女の声によって遮られた。だがその手には、魔法で死ぬより嫌な死に方をするであろう武器が握られていた。それは、死神の鎌だった。
「やめろ優火。こいつは我がとどめを刺す。手出しするな」
彼女は魔王様の方を見て、脅すように言う。その気迫はとてつもないものだった。それこそ、魔王ですら竦んでしまうくらい。
「そんなことしたら、君が死神のもとに行くことになるけど?こいつは死神に送る。私情は控えて。わかった?」
そう言われると流石の魔王様でも引くようだった。すると彼女は、こちらに向かってきて、私の腹から心臓を切り裂き、魂と思われる物を取り出していた。これが私の、生前最後に見た光景だった。
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