第6話 魔王復活
大体150年前のことだろうか。私は封印された。勇者一行の手によって。
その後歴史に残ったであろう世界大戦は、どのような結末になったかはわからない。おそらくあの勇者は生き残り、どちらにとっても理想的な判断を下すだろう。我々にとっても、人間側にとっても。それを見込んで、私は封印されてやったのだから。魔王のような力の象徴のようなものなど、新時代には必要ない。だが、封印が持つのも時間の問題だったみたいだ。封印が解けたら、どうしようか。あいつは生きているのだろうか。目を開け、古びた地下牢と、そこに居た少女が目に入った。何故かその少女は臨戦態勢を取っていた。何故かナイフが飛んできた。なんだこれは。意味がわからない。その少女はナイフを喉元に突きつけ、耳元でこう囁いた。
「君は敵、味方?三秒以内に答えろ。さもなくば殺す」
「そう怖いことを言うな。安心しろ。味方でもないが、敵ではない。」
そう答えると彼女はナイフをしまい、やけにフランクな態度でこう話した。
「なんだ。じゃあ味方か。魔王も思ったより物騒じゃないのね」
「そうでもないぞ。昔はな。今はどうなのかは知らんが。」
あまり状況が飲み込めないので、この少女に聞いてみる。
「ところで今はどういう状況なんだ?まさかまだ戦時中なんてことはないよな」
「何言ってんの。今は平和さ。まあここは平和でも安全でもないけど」
「何故だ?今の魔王はどうなっている?まさか魔王軍を悪用してそっちの国を滅ぼそうとでもしているのか?」
まあ野蛮なアイツラなら考えないこともなさそうだが、私の思想はかなり広まっているはずだ。間違えてもそんなことはしないように育てた。
「んー、それなら楽だったんだけどね。状況はもっとめんどくさいことになっている。特に魔族が」
「何だと?」
軽く言っておかしい。魔族が厄介な状況になっている?
「詳しく話してくれ。まだ状況が飲み込めていない。」
「OKわかった。まず、異変を感じたのは3週間前、私達の住んでる街に、魔族が全く来なくなった。」
「ん、待て。そもそも魔族と人間は対立していないのか?」
「そうだけど、あー、そこから話したほうがいいか。今から大体140年くらい前かな、魔族と他のたくさんの種族と、人間との戦争が終結した。人間が負けるという形で。ただ、どちらに対しても被害は尋常ではなかった。だから、こういう条約を結んだんだ。我々はもう国として争わない。そしてもう他種族を傷つけない。だから、そちらも我々を傷つけないでくれ。って内容のもの。そして結果、共存という形で今は成り立っている。まあ自然発生する魔物はどうしようもないけどね。まあそんなだから、どの国でも魔族と共存するための設備だったり、施設だったりができるようになった。まあそれは20年前くらいから始まった話なんだけど、魔族と人間のカップルなんてのも認められているし、世間的にはもう関係ないって感じだよ」
「なるほど。戦争はそんな形で終結したのか。だから世界は変わったのか。魔族が居ないと違和感となるほどに。」
「そう。だから、うちの国の王はこう考えたんだ。『魔族が何か良からぬことを考えているかもしれない。よし。潰そう』物騒だよね〜。まあ、それだけなら良かったんだけど。だけど2週間前、王都内での殺人事件が起きた。犯人は捕まったけど、そいつがこう言っていたんだ。邪神様の言う通りにしたってね。それが一つじゃない、いくつも多発したんだ。そして狙われるのは、王都内でも有数の歴史研究者ばかり。どう考えてもおかしい。私はこの頃から調査を始めたんだけど、いい情報はなかったね。全く。まあそれは置いといて、この頃並行してもう一つ異変が起きたんだ。何だと思う?」
「わかるわけ無いだろう。復活したばかりだぞ。勿体ぶらず教えてくれ」
「はいはいわかりましたよ。(ノリ悪いなー)この頃魔法の森で悪魔が出ることが多くなった。体感だと10倍くらいかな?ほぼ出なかったのがちょっと出るになったくらい。これだけのことが同時に起きた。偶然か?いや、違う。明らかにこれは仕掛けたものがいるはずだ。そしてそいつはここにいる。」
「何だと?」
正直に動揺した。たしかにできそうではあるが、魔族がそんなことをしない。するはずがない。そう思っていた。
「さあ、行くよ。あいつに話を聞きたいからね」
この目で確かめるまではわからない。そう思い私は、この少女に付いていくことにした。
魔王城城下町メインストリートにて
魔法使い二人は、メインストリートを歩いていた。
「なんか怖いほどに静かね。魔族が住んでいるはずなのに」
「それを治すために私達が来たんだよ。早くするよ。」
杖を構え、魔法式を構築する。そして魔力を載せ、
「
と言葉にする。すると城下町に、大きなフィールドが出現する。
「やっぱりか」
「____そういうことね」
予想通り。この街に入ったときから不思議ではあった。魔族は居ない、やけにきれいな街、外は吹いていた風が何故か拭き止んでいる、など、上げればキリがない。おそらく魔族を何らかの方法で縛っているのもこれだろう。全く、手のこんだことをする。
「よし、ロゼリア、あとは分かるね?」
「言われなくともわかってるわよ。」
もうすでに彼女の魔力をフィールドに流し込み、分析しているようだ。だが、これだと・・・
「フォーレイ、少し魔力が足りないわ。なにかそういうものはないかしら」
そこで私は、さっき取った魔核を取り出す。
「これつかえばなんとかなるでしょ。」
「はあ?どうやってよ」
「まあ見てなって」
そう言い私は魔法式を少し書き換え、魔核から魔力を取り出せるようにする。
「・・・やっぱすごいわね、あなた」
「まあ、長く生きてるからね」
やっぱこの魔法式、優秀だ。様々なものに魔力をつなぐことができるし、何より簡単。コストはほぼない。
「後で教えるよ。さて、」
懐中時計に目を落とす。後三分か。
「ここは任せるよ。まだやることがあるからね」
「わかったわ。終わったら合流しましょう」
それを聞き取り、美咲の下へと向かった。
同刻 魔王の部屋にて
カルラは逃げ惑うアトラーを追い詰め、勝負は決しようとしていた。
「さて、もう終わりにしようか。」
壁にもたれる形で倒れているアトラーの首筋に剣を当てる。
「最後に、なにか言い残すことはあるかい?遺言くらいは聞いてやるよ」
「もう私の役目は終わりましたよ。
「ん、なにそれ?」
そんな計画は聞いたことがない。まあろくでもないものなんだろうけど。
「失言でしたね。これ以上は話しませんよ。死んでもね。まあ、私は殺さないほうがいいですよ。厄介なことになるのでね」
少し気に触れたので、
「そーかそーか。じゃあ用済みだ」
そう言いアトラーの首を勢いよく切り落としてやった。見ていていい気分にはならないのですぐに離れた。
「さ、優火と合流しよう。あいつも有益な情報を持ってるといいんだけど」
そう口にし、歩き出した。その時だった。
アトラーが立ち上がった。切り落としたはずの首は繋がっていて、目は黒く、傷からどす黒い魔力が溢れ出している。だがすぐには動けるわけではないようだ。
「っはあ?何で復活できんのよ?」
そしてそれと同時、優火ともう一人、魔族と思われる男性が到着した。
「アトラーか!なるほど。それなら有り得るか」
なにか納得したようにそう言っている。何のことだがさっぱりだが。
そんな中優火がこっちに向かい、話しかけてくる。
「カルラ、状況は」
「そっちから先に話してくれない?そっちの男性の情報も」
そう言いあの魔道士と思われる魔族を指差す。
「じゃあ、魔王サマ、自己紹介。簡潔に」
「サタン。元魔王だ。そっちは?」
少し気圧されながらも話す。
「カルラです。こっちはキルラ。私の弟で、どっちも人間です。」
「じゃ、カルラ、下がっていて。こいつは私達でなんとかする」
「は?」
下がる必要がない。私は素直にそう思った。だがそれは優火が許してくれなそうだ。
「わかるでしょ。こっちもこっちで見せ場くらい作りたいじゃない。それにカルラ、魔力がもうほぼないよ?何したんか知らないけど、それでいかれるとこっちが困る。だからこっちでやらせてもらう。わかった?」
仕方なく従った。だが心配はしていなかった。
「サタン、黙って見てて。久しぶりに暴れたい気分なんだ」
「好きにしろ。必要とあらば、私も入るがな」
彼女は一人でも、最強なのだから。
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