第5話 フェニックス降臨

「二人共、王都騎士団の生き残りの救護を頼むわ。こいつは私が倒す。」

私はそう言われた後、王都騎士団の生き残りを回収しつつ、魔王城の奥へと向かった。廊下の端に騎士団の生き残りを仰向けに並べ、気絶している二人を魔法で回復させる。意識はないが、じきに目を覚ますだろう。その作業の後、美咲が話しかけてくる。

「・・・いいんですか、お嬢様に任せても」

「?なんでさ。あんなのに負けるほど腐ってはいないはずだけど」

「いえ、そうではなく」

不安そうな声で言う。

「お嬢様をおいてきてまで、私達がここに居ていいのでしょうか。」

表情からも不安と焦りが見て取れる。だが長く生きてきた私からすると、何だそんなことか程度にしか思わなかった。それに、やってもらうことがあるので、燻ってもらわれると困る。

「居ていいんだよ。私達にはやることがある。」

その数秒後、前から足音が聞こえる。音からして三人、魔族だ。

「さあ、来たよ。こいつ等を倒せば、後は魔王だけだ。」

ポケットに入っていた懐中時計に目を落とす。

「美咲、試験だ。20分以内にこいつ等を倒せ。」

美咲は少し驚いたが、小さい声で、「分かりました」という。こいつも心配だが、それ以上に気にすべき点がある。ジャックの魔力についてだ。

あれは外部からのものか、あるいは____

そう思った瞬間、背後で魔力の生成反応。どうやら宛は外れていないようだ。もしそれならあいつは少し危ういかもしれない。それに対しこっちは少し余裕がありそうだ。なら一旦引き返すべきだろう。そう思い私はエントランスへと向かった。


同刻、魔王の部屋にて


「キルラ、後ろに控えてて。手出ししないで頂戴」

そう言い私はアトラーに近づき、剣を振るう。だが当たる直前に障壁にぶつかる。なるほど。そういう作りか。その直後、地面に穴が開く。それを回避するために障壁に剣を刺し彼の後方へ飛ぶ。上空で蹴りが入るが、それを躱す。その状態から開いている左手で魔弾を放つ。だがそれも障壁を破るには至らなかった。

「やけに動きますね、まあ、そんなことをしても意味はないですが」

「それはどうかな?」

左手に2本目の剣を召喚する。それとともに抑えていた魔力を開放する。

「すごいね、君。私に2本目の剣を抜かせたのはこれで四人目だ」

「意外と多いですね。見せた人数。」

「まあね。だがこの状態の私に勝てたものはまだ居ない。君もきっと、その一人だ」

「どうだか、私もあいにく、負けたことはないのでね」

本当は後一ピース揃えば最強なんだけど。そう思うが、その一ピースは今はない。だがこの程度、一人でも十分だ。私に向けた魔弾や、闇魔法の類が飛び交うが交わしつつ詰める。剣に魔力を込め5連撃。障壁は割れなかったものの、ヒビを入れることはできた。その直後、地面から炎が巻き起こる。それを避けつつ、奥の手の準備をする。剣を左右に突き刺し、地面に魔法陣を展開し、呪文を詠唱する。

「この体に宿りし不滅の精神よ、今こそ秘めた力を解き放ち、不死鳥となって飛翔せん」

アトラーが立ち上がるが、関係ない。

「フェニックス降臨」

瞬間、辺りが紅く染まるほどの魔力が放たれる。そしてカルラの剣は紅く燃え、背中には四対の紅い羽が出現した。

____それを食らった経験者は語る。

「あれを最初に見たときはすごく驚いたよ。なんせあいつに羽が生えたんだからね。少したじろいでしまった。・・・それは冗談だが、強さは本物だ。あれに勝てるのは数えるほどしかいないだろうね。発動できればの話だけど。」

また、もう一人はこうも言っていた。

「あれは剣士の為せる技ではない。魔道士と協力してようやくたどり着けるような境地だ。私にそれだけ言わせるほど、あれは異常なんだ。」

そしてその刃は、一撃一撃が致命傷となりうる。そしてその一撃が当たる。

「____ッ、何だこの威力は」

さっきまで割れなかった障壁が一撃で粉々になった。瞬間、彼は察する。

____掠ったら死ぬ。

これから始まるのは戦いではない。一方的な蹂躙だ。


同刻、魔王城エントランスにて。


あいつ、やってんなぁ。素直にそう思った。まだ本気を出すには早すぎるだろうに。

「!?フォーレイ、何でここに」

「詳しい話は後。少しあいつに違和感を感じてね」

魔力が完全に消えてから復活する。これは高度だが肉体のほうが無事ならありえないことではない。ただしこれは、使用者の魔力によるものを条件として成り立っている。だがこいつは、その条件を一度無視している。

「フェネクス、か」

ふと思い浮かんだ。悪魔である不死鳥の名称。だが、少し違うような気がした。復活してくるジャックを眺めながら杖を構える。

「ったく、死なないとはいえ、もっと穏便に扱ってくれよ。」

一息おき、こう言い返す。

「なにか勘違いをしてるみたいだけど、君は面白そうだ。実験対象にしてやってもいいくらいにね」

このとき、私の中に、一つの推測が生まれた。

「まあ、倒してから聞けばいいか」

杖を構え、魔法式を展開。とりあえず死なないのが本当なのか試してみる。まず燃やしてみた。悲鳴は上げなかったが燃え尽きた後に魔力が集結し、復活した。

「ふむ、外部からの温度は復活に関係なしか」

復活した直後、凍らせてみた。凍った中から氷を割って飛び出してきた。まあ当然か。次に、そこめがけて魔弾で急所を狙って撃ってみた。一発目は避けられたので、何発か入れ、急所に一発当たった。すると不思議なことが起きた。その魔弾に引っ張られて吹っ飛んだのだ。まるで背後から引っ張られたみたいに。やっぱりそういうことか。

「なるほど。ロゼリア、あいつの倒し方がわかったよ」

「え!?」

「魔核だよ。あいつの急所にある魔核。それをあいつから外せば復活できなくなる。」

基本的に魔物は、魔核を持っている。そしてそれを破壊されるか、体から外されると、魔力が突きてしまう。人形の種族には例外を除いて人体に存在しないものだ。当然人間にもない。だからこいつは、何らかの方法で魔核を移植したんだ。知っている魔力だったのもそのためだろう。だが逆に助かった。これからやることが楽になる。

「さーロゼリア、さっさと倒すよ。」

「倒し方くらい教えてくれてもいいじゃない!どうやって勝てばいいのよ」

「は〜、しょうがないな、じゃあ簡潔に。あいつの体に手を突っ込んで中にある水晶らしきものを引き抜け。サポートはする」

「はぁ、相変わらず無茶を頼むのね」

「無茶じゃないでしょ。君の実力なら」

「わかったわよ。やればいいんでしょう!」

ロゼリアが前に突っ込む。そして手に持っていた槍を貫通させ、それにより空いた穴に手を突っ込む。

「んあっ、テメェ何しやがる」

当然ジャックは抵抗する。手を引きちぎろうとしていた。なのでその手を切ってやった。

「なっ」

「終わりだ」

そしてその手が引き抜かれる。ロゼリアの手には紫色の魔核が握られていた。そしてそれと同時に、ジャックの肉体がバラバラと崩壊していった。

「____ようやくね。疲れたわー。でも美咲の方にいかないとかしら」

「いや、その必要はないよ。手伝ってほしいことがある。」

そうして私はロゼリアを連れ一旦魔王城を出た。







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