第4話 決戦の始まり
「____これは酷い」
己と周りを鼓舞し、入った魔王城のエントランスでは、凄惨な光景が繰り広げられていた。
「ん、なんだ、王都騎士団なんてこんなものか。全然弱いじゃないか!」
そう言っている男の周りには、おそらく王都騎士団のものだったであろう遺体が散らばっていた。あるものは腹を貫かれ、あるものは首を切られ、またあるものは原型をとどめず、遺体として転がっていた。血みどろな戦場の中、生き残っているのは3人。だが、一人は怯えて動けないし、一人は生きてこそいるものの意識は失っているし、今立っている最後の一人はボロボロだ。そう見ているうち、おそらくその主犯であろう人物の顔が目に入った。
「あいつは____」
正直それを見て、少し動揺した。そりゃそうだ。過去倒したはずの人が同じ姿で復活するなんて、思いもしないだろう。
「?お嬢様、あの男を知っているんですか?」
私はそれに頷く。それと同時にやつはこちらの存在に気づいたようだ。魔力により構成された弾、魔弾を撃ってくる。それを防御魔法で受けた。反撃としてやつの下に魔法陣を構築、起動。そこから炎が巻き起こる。だが、これは時間稼ぎにしかならないだろう。
「二人共、王都騎士団の生き残りの救護を頼むわ。こいつは私が倒す。」
二人共頷き、撤退していく。二人が引き終わった頃、炎が燃え尽き、その中からやつが出てくる。
「久しぶりだなぁ、ロゼリア。まさかこんな早く釣れるとは思っていなかったよ。」
「生きていたとはね、ジャック。4年前と同じようにされたいのかしらね、大人しく降伏しなさい。そうしたら楽に殺してあげるわ」
話しつつ魔法により杖を出現させ、魔法陣を構築。すぐに放てる状態で構える。
「そう言われて引き下がるバカがどこにいるんだよ」
宣戦布告と見て、構築した魔法陣に魔力を流し、雷を放つ。だがそれは避けられ、虚空へと消えていく。さらにやつの真下から炎を出現。ジャックが燃えていく。そしてさらに追い打ちとして魔法で構築した槍をその中心に向かって投げた。当たっても槍の勢いは止まらず、その槍は彼を壁に突き刺さった。
「____口程にもなかったわね。」
そう思い先に行ったであろう二人を追おうとすると、その刺さった槍から、強烈な魔力反応があった。
「流石にやりすぎだろ。一度死んだのにオーバーキルだっつの。まあ生きてるけど。」
「!?」
さっき魔力が完全に消えたはずの男が、何事もなかったかのように背後に立っていた。どうやらその魔力が放たれているのは、心臓に近い部分だった。だがこの魔力反応、おそらく、本来のものではないように思える。4年前とは変わったといえばそれまでだが、明らかに魔力が違う。ドーピングか?
「何で生きてるんだって顔してるな、いいぜ、教えてやるよ。まず俺はもう人間じゃない。一度死んでるからな。こうやって生きている理由は、邪神様のくれた魔核から力を得ているからだ。人間じゃないから、肉体に大きな意味はない。だから俺は死なないんだ。だがお前にそんなものはない。そして俺の描いたシナリオの邪魔だ。だから、ここで殺す。」
そう言うと、手に剣を出現させ、こちらへ斬りかかる。それを杖で受けるが、とんでもない力で背後に飛ばされる。持っていた杖は折れてしまった。杖を捨て、魔杖にも似た槍を取り出す。
「この私に殺されることを光栄に思いなさい。勝つのは私よ」
一方その頃、魔法城地下牢にて
優火が案内してくれた地下牢には、多くの死体があった。
「____すごいね、ここ。どうやって見つけたのよ、優火」
「いや、一年前にここに忍び込んだことがあってね、逃げるときに使ったんだけど、ここまで酷いとはね、そりゃ追ってこないはずだ。」
実際この中には、かなり近寄りがたい魔力が立ち込めている。正直竜の住処でもおかしくないほどだ。僕はお姉様と手をつなぎ、恐怖を紛らわしている。少しすると、出口が見えてきた。そしてその横にある牢には、かなり雰囲気のある石像があった。そしてそこから出ようとした瞬間、あることに気がついた優火が、私達に少し警告混じりでこういった。
「じゃあ、二人は先に行ってて。こっちには戻ってこないように。」
「は?なんでよ優香。魔王を倒しに来たんでしょう?」
優火は呆れたようにあの石像を指差しこう言った。
「気づいてないの?あれ、ただの石像じゃない。封印だよ。それも魔王の。」
封印、いやまさか、魔王は150年前の魔王戦争で死んだし、封印するレベルの存在が他にいるとは思えない。
「嘘でしょ優香、だって封印するほどの存在なんていないはず」
「その証拠は?」
「魔王が居ないから。」
「じゃあそれを示唆するものは?」
「そりゃ教科書に書いてあったから」
優火がため息を吐いた後、一息おき、まさかの事実が明かされる。
「知ってる?魔王の遺体ってまだ見つかっていないらしいよ。」
「「!?」」
一瞬理解に苦しんだが、なんとか頭を落ち着かせ理解する。なるほど、たしかにそれなら辻褄が合う。
「つまりあれは魔王で、その封印が今解かれようとしているってことですね。」
「!?」
「正解。姉より洞察力はあるみたいだ。」
姉はまだ理解していないようだった。これで頭が良ければ良かったんだけどな。
「というわけで、先に行って。向こうにも結構な輩がいるはずだから」
それに頷き、私達は先へと向かった。出口の扉の先は、物置で何もなかった。その部屋を出ると、魔王城の長い廊下に出た。一番端の部屋だったため、魔王の部屋につくまでにはかなりの時間を要した。そしてその部屋の扉を、姉が蹴り開けた。
「!?何者だ」
「私はアーサー騎士団団長、カルラ・アーサーである!命が惜しければ降伏しろ魔族共め」
おそらく人がいるであろう場所に声をかける。
「待て、少し話を」
「問答無用!」
位置が特定できたのでそこに向かって目にも止まらぬ速さで突っ込んでいった。そこにいた人物は親指と中指で挟むように剣を受け止めていた。
「全く、少しは人の話を聞いたらどうですか。」
「悪魔に慈悲なんかないでしょう。お前、名前は」
「アトラーです。」
「そうかアトラー、死ね」
剣が紅くなり、温度が上昇していく。その剣を振り下ろしやつの手を切る。が、すぐに再生しその手から冷気を放出させる。私はそこに向かってリボルバーを一発放つ。だが距離のせいもありダメージは少ない。まあ近接用だししょうがないか。そう思い手に持っていたリボルバーをしまい、背中にかけていた長い方の銃を取り出した。異世界のものに似せたそれは、高い精度と耐久性を誇る、自慢の最高傑作である。そいつに魔力と弾を装填、構えて悪魔に向けて放つ。アトラーに切りかかっていたお姉様の横から頭に向けて飛んだ弾は、見事に空中で止まった。それをやつが取り
「そんな鉄塊なんて効きませんよ、当然、あなたの剣もね」
そう言いまとめて辺りを吹き飛ばす。お姉様がこちらに飛ばされてきた。それを受け止め、少し回復する。
「大丈夫ですか?お姉様」
「大丈夫よ。キルラ、後ろに控えてて。手出ししないで頂戴。」
同刻 魔王城エントランスにて
「この私に殺されるのを光栄に思いなさい。勝つのは私よ」
言い終わった瞬間、魔法陣を展開、発動。やつに向けての魔弾の嵐を浴びせる。そして私もそこに突っ込む。こんなんではかすり傷程度しかならないだろう。直に叩くしかない。顔に向かって突きを入れ、そこから神速の八連突き。ジャックが力なく倒れるが、魔力が心臓に集中する。それに向けて突きを入れるが、なにかに引っ張られるようにやつの肉体が飛ばされた。おかしい、それほど強くは突いていないはずだ。そう思っているうちに更に回復する。また起き上がってくる。だが起き上がった瞬間、魔法陣が発動。やつが焼き尽くされる。また復活するが、またそれに反応し発動。半永久機関の完成である。だがそれは三回目で途切れた。魔法陣ごとやつが背後からのレーザーに焼かれる。そしてそれとともに現れたのは、フォーレイだった。
「!?フォーレイ、何でここに」
「詳しい話は後。少しあいつに違和感を感じてね。」
このとき私は知らなかった。彼女が抱いていた懸念と、これから何が起ころうとしているのかを。
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