第1話 死神との遭遇


 私はその翌日、準備を済ませたあと、弟のキルラを連れて、少し弟の銃の準備に時間がかかったが、昨日依頼をした場所、木口魔法店に朝早く向かうことができた。優火を叩き起こしてやろうと思ったからだ。まだ寝ていると思ったのだが、意外にも今日は起きて店の前に臨時休業の札を下げていた。少し残念だったような気もするが、まあ損はないだろうと割り切って考えた。

「おはよう。今日は早起きなんだね。」

「そっちこそ。弟に起こしてもらってるくせによく言うよ。」

 う、なぜそれを・・・そんなことより、優火は、あることが気になっているようだ。

「あれ、騎士団の他の面子はいないのかい?てっきり、幹部3人は連れてくると思ったのに。」

「流石に大人数でやることじゃないですから。他の仕事を任せてあります。」

 そう弟のキルラが言うと、納得したように、「それもそうか」と言った。その後、

「こっちの知っているルートでいい?あそこまで行くの時間かかるし、できれば早く着くと望ましいんだけど。」

「いいよ、ルートはこっちでもう決まってるんだ。ついてきなよ。」

 そう言い、私達は魔法の森を歩き出した。


 大体30分位立った頃だろうか。襲ってくる魔物をキルラの銃で打ち倒しつつ歩いてきた頃、優火が突然、こんな事を言いだした。

「この辺じゃあ、雑魚刈りにもならないね。ただの散歩じゃん。」

「まあ、こんなもんでしょ。まだ遠いし。」

「えー、これでまだまだ先があるの〜。嫌になりそ____」

 その言葉は途中で遮られた。そしてそれと同時に、優火がナイフを投げた。

「流石にバレたか。」

 そう言い、そのナイフを投げられた本人はピンピンしている。こぶりな体格に、その身長を超える鎌を持つ。おそらく種族は死神だろう。

「死神さぁん、殺意がバレバレですよぉ。まさかそんな事もできないんですかぁ?」

 相当強い種族のはずだが、優火はそれを堂々と煽った。すると、一息置いてから死神は、

「まあそれはそうだが、ここで殺せば関係ない。」

 そう言い、その死神は優火に向けて鎌を構えて突進してくる。優火はそれをナイフで受けた。

「カルラ、ここは下がっていて。危なかったら変わってくれる?」

 私はそれにうなずき、キルラと共に後方支援に回ることとした。

「はっ、タイマン張ろうってか?随分と舐めてくれるじゃねえか。」

 おそらく相手は、優火の武器がナイフであること、身長も比較的小さいことなどから、あまり強くないと判断したのだろう。魔力量自体もこの中では劣っている。単純な剣技や格闘では、向こうに軍配が上がるだろう。

 戦闘が始まり数分、実際、押されているようにも見える。だが、当の本人はつまらなそうな顔をしていた。まあ、当然だろう。この程度じゃ相手にもならないし、本気を出すまでもない。おそらく優火は、遊んでいるのだろう。

「はぁ、死神なんてこんなもんなのかね。つまらないったらありゃしない。」

「あ?」

「そろそろ本気出せよ。じゃなきゃ準備運動にすらならないよ。」

 すると、その言葉はその死神の逆鱗に触れたようで、

「じゃあお望み通り、さっさと終わらせてやるよ!」

 そういったあと、鎌を下段に構え、優火に向かって振り上げる。そのエネルギーを利用し、飛び上がり、その鎌を振り下ろす。だが、この速度は彼女にとっては遅すぎる。最も凡人なら受けるので精一杯だろうが。私から見て、二発とも当たったように見えた。だが、鎌は優火ではなく、地面に刺さっていた。これは予想外というように、死神は驚愕の表情を浮かべている。優火はその背後から死神の首筋に手刀をお見舞いした。死神はそのまま気絶してしまった。その相手をしていた優火は少し欠伸をしながら、

「あーあ、準備運動にすらならなかったよ。」

「そりゃああれじゃあねえ、これから戦う相手と違いすぎるし。ただ、一つ問題があるんだよね・・・」

 そういい、見学者の私の推測を話す。

「おそらくあと一人、手練れの死神が来る。」

「え?」

「気配や強さから察するに、おそらくこいつは研修中だ。だとすれば講師の一人や二人がいてもおかしくない。」

 そこまで話し、一旦話を区切る。すると優火は、こんな事を言いだした。

「・・・知り合いならいいんだけど」

「え?」

「いや、私の知っている中に死神の知り合いがいるんだよね。それも社長やってるみたいだし。」

 便利屋、恐るべし。このときは知らなかったが、エルフや、妖怪なんかにも知り合いがいたらしい。その手の情報網はとんでもなかったのだと思った。だがそんなことを聞き返すまもなく、背後から気配を感じた。

「お、噂をすればだ。」

 そこには同じ服装をした死神の少女の姿があった。ただし魔力量と雰囲気は、さっきとは比べ物にならなかった。

「君たちかい?私の後輩を倒してくれたのは。」

「そうだけど、なにか?何ならあんたもやる?」

「遠慮しとくよ。もうノルマは終わってる。それはそうと」

 そう言いその死神は、優火の方に詰め寄ってくる。

「あんたが社長の言っていた子か。確かにいい腕をしている。悪くはないな」

「戦闘ならこいつのほうが強いけどね」

 そう言い、私の方を指さした。そして、話を変えようと、

「そんなことより、何で攻撃してこない?見た感じ敵同士だけど。」

 するとその死神は、こんな事を話してくれた。

「不本意だが、社長からの命令でね。君を連れてきてほしいって。」

「へえ、あいつが呼び出すとは何事だい?それともそんなに忙しいのか?」

「そうだな、基本的に死神の労働環境は劣悪だからな。ここはかなりまともだが。その分人手不足と、社長の負担が大きい。だから来てほしいんだって。」

「わかった。じゃあそこに連れて行ってくれ。」

「OK。魔法陣を開くからちょっと待っていてくれ。」

 そう言うと、杖を掲げ、少しの作業を終えて、魔法陣が完成した。

「あ、忘れてたがそこのバカも連れてきてくれ。こっちの責任が問われるからな。」

 おそらくバカとは倒した死神のことだろう。とりあえずそいつを連れてくることにした。

 そしてその死神を連れてきて、魔法陣に立ち、そこから杖を構えると、そこから魔法陣に魔力を通す。

 すると一秒もかからずに、私の見たことのない街が視界に広がった。少し暗いが、私達の住んでいる街では見ないような高い建物が多く並んでいた。どうやらこれはビルというらしい。なんだかものすごく進んでいるように見える。するとここに連れてきた死神は、こう話してくれた。

「ここは死神の住む街の市街地だ。ここで死神は生活している。会社はあの建物の3階だ。行くぞ。」

 そう言い、私達はそのビルの3階にある社長室へと向かった。途中、まだ目が覚めない死神をベットに寝かせ、社長室の前へとたどり着いた。扉には高級感が漂っている。よくこんなん作れたもんだ。その扉を開けると、一人の死神がある書類を眺めていた。

「社長、便利屋の少女とその一行をお連れしました。」

 するとその少年とも取れる容姿をした死神はそっちの死神の方を向いて、

「ご苦労さま。下がっていいよ。ところで、レヴィくんはどうしたんだい?まさか死んだ?」

「いえ、今は会社のベットに寝かせております。」

「じゃあいいか。」

 どうやらあの連れてきた死神はレヴィというらしい。まだ連れてきてくれた死神の名前はわかっていないが。その死神が部屋から出ていくと、優火は話を切り出した。

「それで、なんのために呼び出したんだ、ニア?まさかまた一緒に協力してモンスターの霊魂取ろうぜってわけでもないんだろ。」

「まさか。今回は君たちだけでやってもらう。私は忙しいからね。」

 すると、めんどくさそうに優火が、

「まさか相当厄介な相手なのか?そうじゃないと私達に頼む意味がない」

 と聞いた。それに対して、

「そ。やっぱり優火は勘がいいね。」

 そういい死神社長____もといニアは、背後に立てかけられていた鎌を手に取り、優香に投げ渡した。

「これを使って霊魂を取ってきてくれ。報酬は後で開示する。」

「わかった、けど、その霊魂はどんなものなんだ?」

 私の気になっていたことを聞いてくれた。親友ということもあり少し思考が似ているのかもしれない。

「魔族の霊魂さ。それもある程度強くないといけない。うちにはそれに手を付けるものも、やると言って生きて帰ってきたものもいないからね。君たちなら行けるだろうと思って。」

 ここで私達に頼んだ理由がわかった。要するにそこらの死神の手に負えないということなのだろう。それと同時に、私達が挑もうとしている存在の強さを物語るものだった。

「まあいいや。ちょうど仕事が被ってるし、後で店に来てくれ。その時には持っているはずだからな。」

「わかった。約束だ。」

「契約といってくれないかな?」

 そんなやり取りをしつつ、私はあることが気になっていた。だが私の前に、キルラがこんな質問をした。

「あの、やることはわかったんですけど、どうやって帰ればいいんですか?」

 さすが弟。同じことを考えていた。それに対しニアはこう答える。

「この1階に転移用の魔方陣があるはずだ。そこから行き先を選んで使ってくれ。そこからはもう同行するものはいないからな。気をつけてこいよ。」

「そっちこそ。過労死するんじゃないよ。」

 優火はそう言い、社長室から出ていった。私達もそれに続いた。


「______行ったか。」

 ニアはそのことを確認し、ある人物に電話をかける。

「___もしもし、ええ、ニアです。例の件はうまくいきそうです。______え、霊魂ならもう足りている?もっと早く言ってくださいよ。もう頼んじゃいましたよ。あ、ちょっと__」

 相手から一方的に電話を切られた。恩はあってもこれはどうかと思う。だがそれ以上に、新たな脅威に備えなければいけないことも確かであった。

「とにかく、あれは止める必要があるな。」

 そう言葉にし、今後の計画を立てることとした。

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