第3話 聖典への注釈
砕け散った氷の塊が辺りに散らばる。全く。これでは地獄の封印も有って無いようなものではないか。
「まぁいいでしょう。私が聖典の注釈を執筆すれば、嫌でも信徒たちは認めざるを得なくなる。悪魔もまた救われなければならない、とね」
「そんなことがまかり通るのか?」
「まかり通ってしまうのが、教会の恐ろしいところですよね」
大聖女に認められた権利は多く、その影響力も大きい。使徒ルーライ様の教えに注釈というかたちで口を出すことまでできてしまう。
新解釈という体で教えを派生させるのだ。
ルーライ様は『すべての民は等しく救済され、天国へと導かれる』と言っただけだ。だが、『すべての民』には悪魔もまた含まれるとすればいいだけの話だ。大聖女には、それだけの権限がある。
「教会の教えが変われば、地獄の抜け道が形成されるはずですよ。そこを通り、現世を経由して天国へ向かうのです。道中、人を殺してはいけませんよ? 聖典で殺人は明確に禁じられていますから」
「至れり尽くせりだな。余計に信用ならん」
ゼクスはまだ不満そうだ。だが、地獄の責め苦から解き放たれれば、多少はマシな態度になるだろう。
「まぁ、私のことなど信用しなくても構いませんよ。私はルーライ様の掲げた理想が叶えばいいだけですから」
実際そうだった。ルーライ様は私の唯一の拠り所だ。そして、ルーライ様の教えは、悪人を救いたい私の思想とも噛み合っている。
生きていたら、さぞ仲の良い親友となれただろう。
「では、私はこれで」
私はそうとだけ言い残し、地獄を後にした。
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