第2話 白銀の大聖女
「貴様が【白銀の大聖女】か」
「いかにも。もっともそれは通り名。本名はウルスラ・アルトマイヤーと申します」
「私を地獄から解放しようとは、どういうことだ?」
首から下を氷漬けにされた状態で、魔王ゼクスは問うてくる。
千年間こんな拘束をされているとは、神も残酷なものだ。
「聞き及んでいます。かつて使徒ルーライと政治的立場を異にし、競い合った末、ルーライを暗殺した。ルーライはのちに世界宗教の教祖と崇められるようになったので、あなたは地獄の最下層に落とされた」
「物知りだな。まぁ、教会の人間ならそれくらい知っているか」
「おかしいですよね」
「何が?」
「権力欲に駆られて政敵を殺すなど、人間として当たり前の嫉妬に身を任せてしまっただけのこと。ここまでの罰を受ける謂れはないはずです」
「だが理不尽は世の常だ。それよりお前、俺を利用して何を為す気だ? 俺の力が狙いか? あるいは、教会に恨みでもあるのか?」
「まさか。確かに教会は私から家族を奪い、人権を奪い、尊厳を奪いました。ですが感謝しているんですよ? 私はそれでもなお理性を保ち、強大な力を神から賜った。目的を達成するに十分なだけのね」
「狂信者の類か。酷い扱いを受けすぎて頭がおかしくなったのか?」
「どうでしょうね? 狂人と健常者を分けるのは、常にその時代の常識です。今の常識はルーライの教えを守ること。全人類の救済を願ったルーライの教えは守っています。このうえなく正常な側だと思いますがね」
私が持論を展開すると、ゼクスはその剛爪を振るってきた。まともに食らえば、私の貧弱な体など瞬時に吹き飛ぶだろう。だが。
「話が違いますねぇ、ラウレイオーンどの。ゼクスどのは平和的な話し合いのために来られたのでは?」
私を護る五重の結界が、魔王の爪を防いでいた。
「申し訳ありません。ゼクス様の前ではルーライの名を何度も出さぬよう、お願いいたします」
随分と気性の荒いことだ。そんな歪んだ精神を持つに至ったのも、ひとえに世界の構造のせいだが。
「ほう。これが【白銀の大聖女】の本領か」
ゼクスは謝罪もなく、ただただ私に施された神の加護に感心している。さすがは悪人どもの王といったところか。
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