1日目 鋼の傭兵団(2)

 俺とカールは家を出て、傭兵の姿を探して村を歩く。

 傭兵たちはすぐ見つかった。

 村長の家の前でたむろしている様子だった。


 俺は恐る恐る傭兵たちに近づいていく。


 すると、ナイフをいじっていた傭兵が反応する。

 彼はその鋭く光る切っ先を、俺のほうに向けてきた。


「そこで止まれ。村長に用があるなら後にしろ。

 今はうちのボスと話をしてるところだ」


「えっと……俺は傭兵になりたくって」


「チッ、またか。

 武器はオモチャじゃないぞ」


「でもイタチよう、ガタイはどちらも良いじゃねぇか

 そこらの無宿人よりは役に立ちそうだんべ」


「そうだとしても、俺らが決めるこっちゃない。

 ボスが返ってくるのを待て」


 イタチと呼ばれた傭兵がそう言ったのと同時だった。

 村長の家のドアが開き、鎖鎧を着た男が出てきた。


 彼は傭兵たちと俺を交互に見ると、顔をしかめた。


「イタチ。村人と問題を起こすなと言ったろう」


「おりゃぁ何も起こしちゃいませんよ。

 向こうからやってきたんです」


「はっ、厄介事はいつもそうだ。

 怖がらせてすまんかったな、若い衆。

 わしらはすぐにここを出る」


「いや、そうじゃなくて……!

 隊長さん、俺たち傭兵になりたいんです!

 俺はカロンです。こっちのはカール。

 村の腕相撲大会では、俺たちはいつも最後を争って――」


「カロン、俺は様子を見るだけだって言ったろ……」


「ふむ、腕相撲ね……口を開けてみろ」


「え? あっ、はい」


「歯はそろってるな。

 口が臭い以外にとくに問題無さそうだ」


「ガタイもいいし、力もありそうですからね。

 前衛には良いんじゃないすか」


「よし、決まりだ。

 イタチ、予備の盾と武器があったろ。それを持たせてやれ」


「へいへい」


「えっ、そんな簡単に決めていいんですか?」


「お前さんらはこの村のもんだろ?

 それだけで信用できるし、食い詰めた泥棒には見えんからな」


「傭兵になるとかいって、俺たちから装備を盗もうとしたり、

 食い物や道具を盗むやつが多いからな」


「おいカール。なんか意外だな。わりといい人たちっぽいぞ」

「まだわからんぞ。俺たちを盾にするつもりかも」


「陰口ならもっとそっとやれ。聞こえとるぞ。

 そもそも、わしらがお前さんらを盾にすることはないよ」


「だな。素人に戦列を組ませて前に出すなんて、

 そんな恐ろしいことできるか」


「大体ビビって動けなくなるからな」


「おっと、紹介が遅れたな。わしはシュルツだ。

 この『鋼の傭兵団』の団長だ」


「ま、傭兵団っつっても、全部で4人しかいねぇけどな」


「4人? じゃあ、ここにいる人たちで全部ですか?」


「うむ。いま6人になったがの」


「思ったより小さいんですね」


「村を守る傭兵団なんてそんなもんさ。

 お前さんらの金払いで、10人も20人も動かせるもんか」


 ……それは確かに。


「俺を含め盾持ちが二人、長槍と弓が二人ってのがうちの編成だ。

 俺たちが攻撃に回ると、後ろを守りきれなくなるから、

 シュルツの旦那の横を固めてもらえると助かるな」


 イタチはそう言って俺たちに丸い盾を投げる。

 盾を受け取ってみると、思ったよりもずっと重かった。


「イタチ、新人が使う武器は槍が良いな。

 農夫なら、長ものの扱いには慣れているだろう」


「い、いきなり実戦ですか?

 練習とかは?」


「んなことしているヒマあるか。獲物が逃げる」


「なぁに、ただの狼退治だ。

 そんなに緊張することはないよ」




※作者コメント※

あ、隊長さん、それってフラグ……!

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