1日目 100日祭


「この火傷は……もしかして杖を握ったときの?」


 俺の手のひらには生々しい火傷のあとがあった。

 緑色に変色した焦げ跡は、ほのかに緑色に光っている。


「これがあるってことは、さっきのは夢じゃない?」


 ついさっき、俺は無数の死を見てきた。

 燃える村の家々。

 草のようになぎ倒される村人と兵士。


 あれが夢じゃない?

 じゃあ今俺が見ているものは何だ?


「――外の様子は……ッ!!」


 俺はベッドから起き上がり、雨戸を開く。


 すると、村のあちこちが飾り付けられている。


 家々の扉は、花で作った輪で飾られていて、

 屋根をつなぐヒモには、青と赤、色のついた布が垂れ下がっていた。


 これは百日祭の準備だ。


 まさか、時間がまき戻ったっていうのか?


「どうなって……じゃあ、またあれが起きるのか!?」


「どうしたのカロン兄ちゃん? あれってなに?」


「え、アリア?!」


 俺の目の前にはアリアがいた。

 生きてる。

 あぁ……良かった。


「うん? そんなに驚いた顔してどうしたの?

 今日は家でお祭りの準備をするって、昨日の夜に言ったじゃない」


「あ、そうだっけ……?」


「そうよ。それよりあれって?」


「い、いや何でもない。

 とりあえず村から逃げよう、ここは兵隊たちに任せて――」


「ちょ、ちょっとまってお兄ちゃん、何寝ぼけてるの?

 兵隊さんなんていないよ」


「え? 兵隊がいない?」


「あー、きっと夜ふかししてるから変な夢見たんでしょ」


「……!!」


「お兄ちゃん、どこ行くの?!」


「台所だ!!」


 俺は台所に走る。

 台所にある棚を見れば、今がいつ・・なのか?

 それがわかるからだ。


「……確か、ここに……!!」


「どうしたのお兄ちゃん……?

 あ、だめだよーお祭りが始まる前に飲んじゃ!!」


「あぁ、大丈夫、手にとって見ただけだから」


「何か変だよ、今日のお兄ちゃん」


 俺は棚の上に「果実酒」を戻した。

 これは100日祭のたびに漬けるお酒だ。


 村が襲われた時に開けた果実酒は、プラム。夏の果物だった。

 だが、棚の上にあるのはチェリー。春の果物だ。


 つまり、今日はあれ・・の100日前。


 今日から100日後、あれが――

 村を焼き、村の人たちを殺した骨どもが来る。


 いや、そうじゃない。

 考えろカロン。

 俺は100日前の過去に戻ったんだ。


 やり直せる。


 あの悲劇を――

 村の終わりを、みんなが死ぬのを止められるかもしれない。


 でも……どうやって?


 今から100日後、歩く骨がやって来て、村のみんなを殺します。

 だから村を捨てて逃げましょう。


 そんなバカげた事を言っても、気が狂ったと思われるだけだ。

 最悪の場合、俺は村から追い出されるかもしれない。


 どうしたら良いんだ……。


「どうしたのお兄ちゃん、顔色が悪いよ?」


「あぁいや、起きぬけに走り回ったからかもな。

 変な夢を見たんだ」


「やっぱり! 早く寝ないとだめだよ。

 気付けにフランツさんから蒸留酒をもらってくるね」


「あぁ」


 アリアは扉まで走って言って家の扉を開ける。

 だが、せっかく開けたドアを勢いよく閉めてしまった。


「あ、ダメ……今は出られない」


「ん、どうした?」


 くいっと首で窓を指すアリア。

 そちらをみると、武装して一本の旗を持った一団がいた。


 傭兵団だ。


 そういえば……思い出したぞ!

 前回の100日祭で、傭兵が来ていた。


 確か「鋼の兄弟団」とかいう連中だったな。

 村で新人を探してたけど、誰もついて行かなかったっけ。


 傭兵……そうか。


 俺が守れなかったのは武器を使えなかったからだ。

 傭兵になって戦う方法を学べば……みんなを守れるかもしれない。


 ……やってみるか。




 でも……ひとりはちょっとこわいな。


 そうだ、カールを誘おう。

 あいつは村の腕相撲大会で、毎回俺と決勝を争っていた。

 それだけ腕っぷしが強いし、村の外に出たがっている。


 うん、それがいい!


 


※作者コメント※

主人公、最後にちょっとヘタれたww

妹のためには蛮勇を振るうけど、ヘタれる部分もあるみたい。


主人公の年は、妹が10なら、たぶん16くらい?


それで村一番の腕相撲チャンピオンとか刃牙の花山薫かな?

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