100日目(2)

 村の反対側はゆるい丘陵になっていて、村を見下ろせる。

 その丘をこえる森があり、街道に続いている。


 森の中に逃げ込めが姿を隠せる。

 そう思って走ったが、村の反対側にも骨がいた。


「お兄ちゃん、あそこにもいる!」

「げっ!!」


 しかし、その骨は兵士を殺し回っていた奴らと格好が違った。

 高そうな黄金の装身具を身に着け、紫色のボロを身につけている。


 手には武器ではなく、大ぶりの緑色の水晶が乗った杖が一本だけ。


 村を襲った骨たちの隊長か?

 それにしては軽装だ。


 村を襲った骨たちは、錆びてボロボロになった鎧を身に着けていた。

 この骨は首飾りとボロ布しかない。


 どちらかというと神官とか、そんな風に見える。


 こいつ……大した武器もないし、鎧もない。

 きっと、弱いんじゃないか?


 俺はアリアを地面に降ろすと、この骨と戦うことにした。


 この骨はみんなの敵だし、逃げるにしても路銀が必要だ。

 こいつの装身具があれば、一生食っていけそうだ。


「お兄ちゃん何するの!」


「あいつは弱そうだ。

 武器も杖だけだし、俺の拳ならあいつくらい倒せる……」


「やめようよ!」


「すぐ終わるから、いい子にして待ってるんだ」


 俺は構えを取ると、骨に向かって殴りかかる。

 骨は腕をだらんとして、構えらしいものは取っていない。


 このままならやれる!!


「うぉぉぉぉ!!!」


<カァァァァァッ!>


 俺の拳がもうすぐ届く瞬間だった。


 骨の神官は顎が外れんばかりに口を開く。

 すると骸骨の口元から緑色の霧があふれ出してきた。

 毒々しい色の霧が、丘の上を朝もやのように包み込む。


「ゲッ……ゲボッ!!」


 俺はたったひと息の霧を吸い込んだ。

 それなのに胸の中が燃え盛るように痛い。


「ぐ、ど……く?」


 霧を吐いた骸骨は、アゴを上下させる。

 俺にはそれが、奴が俺のことを笑っているように見えた。


「な、め、やが……て」


 激高した俺はがむしゃらに手を振り回す。

 そうしたら偶然、奴が突き出した杖の先端――

 緑色の水晶をつかんでしまった。


「ぎゃぁ!!」


 水晶をつかんだ俺の手が燃え上がった。

 指の間から青緑色の炎が吹き上がり、強烈な光が生まれる。


「うおおぉぉ、ぉ!」


 俺は力任せに杖をひったくった。

 そしてそのまま、神官の頭蓋骨に向かって振り下ろす。


<グシャッ!!>


 骨の神官の頭は砕け、そのまま崩れ落ちる。

 だが、俺も立てない。


 杖に寄りかかって立とうとするが、力が入らない。


 息が吸えない。

 いや、吸い込んでも苦しい。


 きっとあの霧を吸い込みすぎたせいだ。

 あの霧のせいで、胸が腐ってしまったのだ。


「……!!」


 俺の視界のはしに、アリアが倒れているのが目に入った。

 彼女も霧を吸い込んで、息が詰まってしまったのだ。


 アリアは幼く、俺より体が小さい。

 だから毒が回るのが早かったに違いない。


 俺のせいだ。

 俺が変な気を起こさないで逃げていれば……。


 ごめんアリア。

 兄ちゃんがバカだったから、お前も死んでしまった。


 気が遠くなるなか、俺は後悔して、アリアに謝り続けた。

 そして視界が暗転する。



「――はっ!!」


 目が覚めた俺は自分のベットの上にいた。

 胸は……何とも無い。


「夢か? ひでぇ夢だったな……イテッ!!」


 俺はなんとなく頭をかこうとして、激痛に顔をしかめた。

 手に鋭い痛みと違和感を感じたのだ。


「嘘だろ……?」


 俺の右の手のひらに、水晶の形になった緑色の火傷痕やけどあとがあった。


「あれは……夢じゃない?」





※作者コメント※

勢いで始めました。

とりあえず始めて自分を追い込んでいくスタイルです。

1つ終わると2つ始まる。

こういう作者なんで……すいません。

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