第138話 その頃のオジロさん(オジロ視点)
「いやあ、どいつもこいつも浮かれてるなあ……」
思わず呟く、通りを外に向かっていく女達は未だ夢を見ているかのような、ふわふわした足取りで歩いて居る。
当然だが、現実が返って来た、夢から覚めたくないやだあと言う感じの絶望顔も居るが。
全体トータルではおおむね明るい調子だ。
対して、向かう組は途中でちょっと詳しい話を聞いたのか、もう処女を卒業できるんだと言わんばかりの、過度な期待と緊張で浮かれた、ぎくしゃくした足取りで。
「オジロ副隊長の言ってたよりも、全体の雰囲気明るいですね?」
うちの隊の、部下嫁の一人、里奈が声を上げる。
「今は基本的に基地の外でOFF扱いだから、階級名と役職名は止めるんだ」
「はい」
簡潔に呼び方を矯正する。
「オジロさんか、ちゃんか」
「さまでは?」
「禁止」
ファンクラブが腐るほど居て、一挙手一投足を遠巻きに観察されて、あーだこーだ言われるのはもう飽きて居るのだ。
「じゃあオジロさんで」
「まあ良し」
肯いておく。
「今居る土地に男が居るかどうかで、地方の隆盛決まるから、通り見るだけで何か居るのはバレバレだね?」
琥珀お爺様が亡く成ってから20年、私の年齢は28歳、小さい頃はもう、皆の笑顔が溢れる素敵な地方都市だったのだが、私が成人する頃には立派な半ゴーストタウンが出来上がって居た。
そんな訳で、地元の雰囲気に絶望して、ポスター広報の良い男とか、寮付きで衣食住の保障とかに釣られて、姉のハクトと一緒にふらふらと入った自衛隊学校で、何時の間にやら出世株にされてしまい。
気が付いたら派閥禁止のシステム幹部候補は一定期間で地方に飛ばされる奴で、北海道の先端に飛ばされたらいい感じに武勲を上げてしまい、ここぞとばかりに広報の出汁にされて、最近指示通りに紅そうな国籍不明の不審機を落としたら、表向き懲戒人事って流れでそのままお引越しに成り、まだ見ぬミサゴとハチクマの旦那、翡翠の護衛として配属されたと言う流れだ。
で、こっちの基地に着いたら、『基地の方の挨拶と陣地作成は任せた、私はヤタ婆様の方に話を通す!』とハクトが逃亡して、代わりに歓待を受けたら遅くなったので、先に陣地を整えて居ると言うのが今の流れだ。
因みにこの物件は、我らが古巣、名物旅館”鳥小屋”を中心としたメインストリートの商店街的な廃墟の一角を幾つか接収と言うか、お役所経由で格安にお買い上げしている。
琥珀爺様が亡くなってから深刻にゴーストタウン化しているので、深刻に安かった。
借り上げだと、確実に後から値上がりしてごねるので、ちょっぴり色を付けて一括購入だ。
と言うか、元の持ち主も大体私達と顔見知りなので、良く帰って来たと歓待されただけなのだが。
「そんなもんですか」
「まったく、看板の男一人居るか居ないかで大騒ぎだ」
呆れ半分、関心半分、寂寥感(せきりょうかん)とかも多少混ぜつつ、そんな事を呟いた。
「地元でしたっけ?」
「そ、種は同じで腹違いの姉妹がいっぱい、よっぽどの遠縁以外はほぼほぼ顔見知り」
トラックのコンテナから引っ越しの荷物の運び込みとか荷ほどきとかあれこれしつつ質問に答える。
直で種付けされている組は情が移って居るので、あまりこの土地を離れたりはしないのだ。
旦那の琥珀が居ないのでまあどうしようもない訳だが、それでも結構残って居る。
若いのは未だ抱かれていなかったので、若さの勢いとかも有って、新天地を求めてタンポポの綿毛のごとく次から次へと何処かに飛んでく訳だが。
そんな流れで若者が減って立派なゴーストタウンが出来上がる。
「こんにちは~、ちょっとよろしいですか?」
「はーい」
表からかかった声に返事をして外に出る。
「あれ? オジロちゃん?」
聞き覚えは有るけど、暫く会って無いなあと言う感じの顔見知りに捕まった。
「えっと、モズ?」
警察官の制服を着た同年代の腹違いの姉妹、モズだった。
「お仕事です」
ニヤッと笑って敬礼した後、警察手帳を取り出してこちらに見せて来る。
「成る程、警察かあ」
「不審者警戒強化月間」
「そりゃそうなるよねえ」
「新顔が見えたらお声かけだよ」
「じゃあ、私の方はこっちって事で」
自衛官が支給される身分証明のICカードを取り出す。
「おや、御同輩?」
「広義的に同業だね?」
公務員仲間、お互い表向きは昼行燈で役立たずの方がありがたい存在だ。
「ちょっとお借りします」
「どうぞどうぞ」
ICカードをモズが翳したスマホの非接触リーダーに軽く触れる様に翳す。
ぴっ
緑の光と、軽い音が響く。
「はい、確かに、問題無しです」
二人でへっへっへ~と笑みを浮かべた。
「お互い、そう言う事だよね?」
「うん」
「例の男性、ミサゴが捕まえた翡翠さんの護衛として呼ばれた」
「こっちは護衛とまでは行かないけど、不審者警戒の強化月間がいきなり生えた」
互いのカードを晒す、同業者との情報収集は大事だ。
「一先ず、最終目的は一緒という事で、程よく連携よろしく」
「はいよ」
がっしりと握手を交わした。
追申
職質がこんな感じに和やかに、さっくり終わるならだれも困らんと思うのです。
ギフトに★3に文字付レビュー、感想に応援、毎度ありがとうございます。
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こんなん幾らあっても良いので、下さい!
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