第112話 清水の舞台から落ちるつもりで(きよら視点)

「やった?!」

 その言葉に思わず歓声を上げる。

 声に合わせて、コチラにヤタの目線が向く、声も出さずに、ニヤリと笑われた。

 最初から居るのバレてるじゃないか、隠れる意味無いな?

 そもそも服とか脱衣所におきっぱだし。隠れたのコレに引きずられたからだし。

 隠れる原因に成った女に目線を向ける、やたらデカいな、主に胸とか、居るだけで痴女とか下品とか言われた類かな? 気持ちは分かるけど、あの翡翠さんに限っては、多分大丈夫だと思うんだけど……

 ちょっと状況を整理しよう、昼間の内に、何だか私等が口説いても良い様な事を言われて居て、更に私等が居る事をちゃんと認識した上で、翡翠さんが口説かれたら応えてくれるような事を言っている。

 つまり……

「据え膳?」

 小さく呟いた、横に居た同僚の琴理がそのまま、目線だけで、うんと頷いた。

「さあて、じゃあ、行って来るね?」

 琴理が、ふうはあと気合を入れる為にか深呼吸の後に、小さく呟いて突撃した。



「あらら」

 例の胸が大きくて面倒くさい女は、翡翠さんに抱きしめられると、もう思い残すことは無いと言う感じの、恍惚とした表情を浮かべたまま、くたっと意識を手放した。

(まったく、これだから処女は……)

 自分達の処女を棚に上げて内心で呟く。

「んで、どうします?」

 翡翠さんは意識を失ったソレを、優しくお湯の外に運んで寝かせてから、もう一度手を広げた。

 動きが一々優しいし、結構力強いんだよなあ……

 倒れた人体は結構重いのに、特に気にした様子も無く持ち上げて運んでいた、裸なので筋肉の動きとか良く分かる。

 何故か先にどうぞと琴理が背中を押す。

「じゃあ、お願いします!」

 コレは遠慮するだけ損だと、今度は先に、心置きなく抱き着いた。

 何度抱き着いても、とても良いモノだと思う、思わず口元とかにやけるし、お腹もキュンキュンする。

 今回は人が少なかったのと、多少慣れたのもあったので、心置きなく全身で抱きしめてすりすりもにもにと堪能する。

 やっぱり好きだ、この人以外は考えられない。

 そろそろ終わりとタップされたので、名残惜しく離れる。

 少し離れた瞬間、優しく笑みを浮かべる翡翠さんと目が合った。

「順番、皆さんの後で良いので、子種と結婚、お願いします」

 今なら言えると、本能的な衝動に突き動かされて、そんな言葉が出て来た。

 ロマンチックとか、雰囲気とか、ちゃんと出来ていたかは不明だが、とにかく言えた。


 直後に、言えたと言う達成感と、言っちまったと言う後悔に襲われる、咄嗟に目をそらし、静かに深く息を吐きだした。 返答待ちの時間は、処刑を待つ死刑囚の様な、そんな何とも言えない緊張感に満ちていた。

 実際、コレで失敗した場合、比喩無しに死ぬのだ、社会的に、男性保護管と言う職業を悪用して男性に言い寄ったと、然るべき場所に届け出をされたら、懲戒免職で済めば良い方じゃないだろうか? 恐らく実名報道されて一生太陽の下を歩け無くされる可能性すらある。

 10秒か、1分か、1時間か、体感で一生分ぐらい待った気さえした。


「ふう……」

 何だか覚悟を決めたような、小さな溜息の音が響いた、心臓がきゅっとなる。

「わかりました、今すぐじゃ無く、後からに成っちゃいますけど、よろしくお願いしますね?」

(やった?!)

 満点の回答に、思わずガッツポーズと言うか、両手を上げる。

(あわっ?)

 そんなタイミングで、不意に引き寄せられて、バランスを崩す。


 ちゅ

 改めて抱きしめられて、同時に唇が重なった。

(はわわわわわわわわ?!)

 思わずパニックに成る。

「じゃあ、手付って事で、続きはまた後で」

 パニックに成っているうちに、離れていく唇の柔らかな感触に。

 最早魔性の微笑みだった、返事も出来ずに真っ赤に成って、こくこくと頷いた。

 触れた唇がじんじんと熱い。お腹とかキュンキュンしてる、コレで放置なのは辛いけど、しょうがない。

 

『おー』

 ぱちぱちと周囲から何とも言えない、ささやかな拍手と歓声が響いていた。


「じゃあ、その次で良いので、私もお願いします」

 軽い調子で琴理が続いた。

(あ、ずるい!)

 思わず内心で叫び声を上げる。

「わかりました、その次ですね? よろしくお願いします」

 翡翠さんがため息とか、苦笑交じりに答えた。


『わー』

 先程より若干ささやかな歓声と拍手が響いた。



 画面外、翡翠視点、返事待ちのラグタイム、若干の葛藤。

(えっと、これ良いの?)

 不意打ち気味の告白に、思わず返事に詰まり、咄嗟に目線を泳がせる。

 ヤタちゃんがやっちまえとばかりに、親指を立てた後で、人差し指と中指で親指を挟みこむ卑猥なジェスチャーと笑顔で答えた。

 それを若干遠い目で流しつつ、更に助言的なのは無いかと目線を泳がせる。

 一番何か有りそうなハチクマさんとかに目線が合う、何だか安心した様子で、ホッとしていた。

  皆揃ってうんうんと頷いている、どうやら逃げ道が塞がっていると納得した後で、まあ良いかという感じに、観念しておきますかと、思わず溜息をつきつつ返事をした。



 追伸

 琴理はこういう時に、ちゃっかりと要領が良い娘です。


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