第107話 後から来ても福は有る?(蔵井夜空視点)

 息を殺してその風景を見ていた。

 例えるなら失われた楽園、エデンと言えるようなものだ。

 何のことかと言うと、裸の男の人と、その正妻達のイチャコラである、色々な液体が飛び散るぐっちゃんぐっちゃんな、欲望の権化とか言われるようなヤツではなく。あくまでお互い理性が有る感じの、そんな微笑ましい距離感。

 普通だったら襲うぞ? この野郎と言う流れだと思うのだが。

 そっからぐっちゃんぐっちゃんに以下略と行きたいと思うのだが。

 ギリギリで踏み止まって居るのか、それとも正妻の余裕と言う奴なのか、兎も角男の人は無事っぽい。



 時は少しさかのぼる。

 いきなりだが、予約通りにチェックインしたら手遅れの遅刻扱いされた。

 昼間は何だかフリーハグ事件とか有ったらしいのだが、私はちょっと到着が遅れたのでそれには遭遇できていない、痛恨の遅刻であった。

 遅れている間に何が有ったのかは、遭遇した検証班組の皆に聞いた、思わず内心で血の涙を流すほどの衝撃であった。

 予約通りのチェックイン時間で、夕方に入ったらもう遅いよーと言われた衝撃と来たら、もうどうしようもなかった。

 例の事件が有った現場は、この宿としては看板の温泉で入りやすく、一番大きい美人の湯だったらしいので、私もそっちかと思ったのだが、現場に行って見ると二匹目のどじょうを狙う女達による想像以上の寿司積め状態で思わずしり込みして、一番人が少ないと言われるこっちのはずれに来た次第であった。

 こっちの温泉は通称岩戸の湯、いわゆる洞窟風呂で、泉質は中性系の刺激の少ないお湯で、効能的には子宝とか自律神経とか整える系らしいが、そう言ったのは温泉に付き物の大げさ話だと思うので、話半分に流し読みだ。

 もう外は暗いし、湯船本体の照明も暗いので独特の雰囲気が有るが、目が慣れた頃に空を見上げると、お湯につかったまま月や星が見える、中々素敵な感じのお風呂だった。

「ほう……」

 熱くも冷たくも無い、なんともなぬるめのお湯だが、ぼんやりと長風呂できると言うのはそれはそれで素敵だと思う。

「あ、スターリンクの列車型衛星群だ、珍し」

 見上げた星空で、不意に見つけたモノに思わず声を上げる。

 その視線の先には、等間隔に並んだ人工衛星がトレイン編隊を組んで飛んでいた。

 スターリンク衛星、世代が進んだインターネットシステムは、ケーブルを地面や海底を這わせるより、上空の大気圏外で運用した方が楽と言う事で、人工衛星が山ほど増えている。

 もっとも、非定期的に事故とかで爆発してケスラーシンドローム起こして多少の障害を起こすのだが、レイド式にバックアップは組まれて居る為、一般に認識されるほど壊れるような事はあまり無い。

 そんな訳で、衛星軌道上には何十万単位で人工衛星が常に回って居るのだが、都市部では光量的にあまり見えないのだ。

 ソレが良い感じに都市部と人里離れた田舎の保養地だから、こうしてのんびりと温泉に浸かりながらぼんやり見る事が出来たと言う流れか。

「コレだけでも来た意味あったかも」

 思わずそんな事を呟く、小さな幸せネタだが、変な感慨が有る。

 メイン目標とはだいぶ外れるけど、こういうのも良い物だ。

 全身浴状態から、ふちの浅瀬に頭だけ引っ掛ける感じにして、プカリと浮かんで浮遊浴状態で星空を見上げながら過ごす事にした。

 お湯の中なら邪魔な胸とかも良い感じに浮かんでくれるので、浮遊浴は良い物だ。


「お湯の感じはどうですか~?」

 不意に聞こえた声に、目線だけそちらに向ける。

「かなり良い感じです」

 温泉より星がと言うのは変人扱いされるかなと思い、無難に返答する。

「おお? 生きてた?」

 ずざっとひかれた、その動きでざぶんとお湯に波が発生する、その返しは予想外である。

「ちゃんと生きてますよ」

 思わずざぶんと浮かべていた身体を沈めて姿勢を直し、濡れた髪を撫でつけて後ろに流して視界を確保し、返答しつつ口を尖らせる。

 流石にドザエモン呼ばわりは不本意だ。

「いやあ、人気無いし、薄暗いからちょっとね?」

 まあ、無理は無いか。

「良い感じにぬるくて、星空も良い感じだったんで、浮かんでただけですよ」

「ああ、確かに良い星空ですねえ」

 おっとりと空を見上げつつ、そんな返しが来る。

 目線を向けると、入ってきた人は、大人な女の人と、小さい娘の2人組だった。

 薄暗くでも分かる美人さんで、ちゃんと手入れしているのが分かる均整の取れた身体をしていた。

 その陰に隠れるようにしてちょっと目つきがキツイちっちゃいのが居る、全体的に平べったいが、胸の膨らみ加減とか、尻の肉の着き加減とか、色々生えている毛とかで子供と言うのは違うと分かる。

 こっちもなかなかの美人さんだった。

「でも、あっちは人凄いですねえ」

「流石に同性でもアレは逃げますよ」

「二匹目のどじょう狙いらしいですけど、流石に人が多すぎるので、あの中に男の人は辛くないですか?」

「そう思って大穴狙いです、人少ない方に来てみました」

「少なすぎません?」

 逆張りで外れの方を選ぶにしても人が少なすぎる、この二人が来るまで。私だけでまるっきり貸し切りだったのだ。

 ココに居る私自身、多分外れだなあと自覚している。

「と言うか、例のは堪能したんですか?」

「かなり」

「凄かったです」

 質問に対して、2人揃って返事が来る、なるほど、こりゃあだらしない。

 その顔はうっとりと緩み切って居た。

「そりゃなによりですね」

「かなり堪能させてもらいました」

 思わず目線と言葉に棘が乗るが、気にした様子は無い上機嫌具合だった。



追申 追加キャラ紹介

 蔵井夜空(くらいよぞら)

 根暗で理系の引っ込み思案。

 漆黒で長い髪だが、微妙に扱いが雑なので、若干残念感が有る娘。

 胸は大きいので、重さに引っ張られて若干猫背気味。

 PC系は一通り出来る子、暗いだけで話せない訳じゃない、社会人出来ない奴は男を探す資格すら無いので、ちゃんと働ける娘。

 例の画像解析やってた娘。

 そもそも今回一人で現場に直行出来てる分、引きこもりと言うには無理が有る。

 前髪を下げると目が隠れてパッとしないが、上げると美人になる系。

 例の薄暗い湯船で浮かんでた図は、まあどう見ても幽霊とか水死体とかその類なので色々しょうがない。



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