第106話 妻会議、お金の話とハーレム予定の葛藤(ミサゴ視点)
「結婚に当たって、儂はあの時点じゃと正妻じゃ無かったから、口出しできんかった訳じゃが……」
誰も居ない事務所でヤタ御祖母ちゃんが深刻そうに切り出した。
「はい……」
私、ミサゴが深刻に返答する。
「翡翠の奴から正式に口説かれたので実質正妻の三番に成った………」
「おめでとうございます」
一先ず祝っておこう、現場に居たので知ってたけど。
「書類未だじゃから正式にはアレじゃが、そうなると結構口出しできるようになる訳じゃ」
「ですよねえ」
「そんな訳で、金の話だけ決めておこう」
「生々しいですね」
「無視する訳にも行かんしな、正直全員身内な、この旅館内で完結するなら全部経費的に弄って実質負担金が個人的にはゼロぐらいの扱いに出来た訳じゃが………」
現時点で従業員全員正妻位の予定である。
「保護局の二人とか求婚来ちゃいましたしね」
「それも有るし、客が正式発表前に押し寄せた分じゃな、行き掛けの駄賃的に種だけ欲しいなら問題無いと言うか、後腐れ無かった訳じゃが」
「こっちも求婚来てましたね」
傍から見るだけでも、明らかにそれだけじゃすまない心理状態のがいっぱい居る。
「翡翠の奴も満更でも無さそうじゃから、そのうち正妻入りするじゃろうな」
「翡翠さん素敵だからしょうがないですね」
男性の自由意志を縛る訳に行かないので、基本止められない。
「言えば多少止まるじゃろうが、縛り付けて息苦しくするのは余り良くないからな、そんな訳で外向きの経済負担分をどうするか」
「今3人だから一人月10万とか?」
基本的にこの世界は嫁が皆で旦那を養う形になるので、嫁は増える方が個人的な負担金が減るのだ。
極論、一人の旦那に嫁100人なら一人頭月1万でも、旦那は月100万の生活が無理無く送れる訳である。
一夫多妻のメリットであった。
因みに何で100万なのかと言うと、この宿の宿泊料金の相場的には月100万でトントンなので、この辺が基本ラインなのだ。
例の一泊10万コースはまあ贅沢コースなので。別口とします。
「儂が出しといて構わんと言いたい所じゃがなあ……」
「外向き分はアレだしね?」
一部のがお金有るから多めに負担とかやるとパワーバランス的に暴君化しかねないので、一律平均するのが円満にする秘訣と言って居た。
「一月トータル100万程度になるようにして、一人頭の負担金は1万か2万ぐらいで宿の経費として補填しつつじゃろ、あの調子なら100人程度直ぐ集まるし」
ちょっと安すぎる感は有ると思うけど、学生バイトと言わず。ちょっと裕福なら学生のおこずかいでどうにかなりそうな金額である。
「良くも悪くもだね」
順番通りに一人一晩でローテーション組んで行くと半年に一回とか年一とかに成っていくのはしょうが無いのだ。
こっちは一夫多妻のデメリット、一人当たりに割ける時間は当然だが少なく成る。
まだ来ていないけど、当然の帰結として近い内に予測される未来に、思わず物憂げにため息をつく。
「蜜月の独占期間は後から見ると一瞬じゃからな、正妻の筆頭得点で近くに居られるにしても、後々振り返っても一番贅沢な時じゃ、有給使ってフル活用するぐらいで丁度良いじゃろ」
「でも炎上しちゃってるから」
いきなり仕事が増えてしまったので、そっちにかかりきりになってしまった。
想像以上に現代は情報の流れが速い。
「もう予約分は埋まっとるから、電話組は相手せんでも良いじゃろ、HPでネットからの宿泊予約以外受付停止にして、電話受付は締めきってしまえ」
「あっさり言うなあ……」
この間まで仕事無いとか、退屈だとかで1・2週間単位で寝て過ごしてた人が言う事じゃ無いと思う。
そもそもこの人は楽隠居決め込んでいるので、こっちが忙しくても仕事なんか関係無いのだが。
単純に客の話し相手とか。座敷童とかのフリをして客を適当に弄る遊びとかがこの人の趣味だったりするので、客が居ないと退屈なのは確かなのだと思うけど。
ボルバキア適合者は寿命で死んだとは聞かないので、最終的に事故か、この世に飽きて寝落ちからの餓死とかがお約束らしい。何年生きてるのかもう知らないけど。
なお、相続税とかがかなり怖いので、私等としても死なれても困るのが正直な所なのだが。
「むしろ、お主はもっと甘えろ、この期に及んで遠慮しとるじゃろ」
「え?」
続いた言葉に思わず首を傾げる。
「遠慮なんて……」
「しとるじゃろ? 翡翠の奴にも、儂等にも」
「う………」
図星を付かれて思わず言葉に詰まる。相変わらずヤタ祖母ちゃんは人の心を読む。
「お主が先陣を切って翡翠の奴に甘え切ってもらわんと、後からの奴らにも遠慮が出るからな? ソレに……」
「それに?」
「後々が寂しいとか思ってるのは、甘えきれてない、満たされてない証明じゃ、もう甘えろとは言わんが、もっと注いでもらってからでも遅くは無かろう?」
「だって後が詰まってるし……」
いっぱい居る候補者、姉達とかお客さん達の事を考えると、早めに翡翠さん離れしないといけないと思うのだ。
そんな訳で私の蜜月期間飛ばしても良い位だと思っていたのだが。
べしん。
「あたっ」
不意におでこをつつかれて頭を抱えつつ睨む。
「まったく、末の娘、末の妹が遠慮なんてするもんじゃ無いわい、お主が遠慮しとったら他の奴らが甘える資格も何もなく成るじゃろうが」
「ぬー」
思わず唸る。
「順番飛ばしは基本禁止、蜜月期間はしっかり堪能しとけ、客の候補者に関しては、そもそも全員相手にするとは最初からいっとらん、更に客増えても困るから新館か旧館を閉鎖しても良い位じゃろ」
「良いの?」
「元から嫁用のが新館だったしな、琥珀のジジイが居なくなって嫁共が誰も居なくなったから客用に開放してただけじゃし、宿泊料金倍にするだけで、売り上げ同じじゃし、アタリの率は倍に成るから逆に喜ばれるまで有るぞ?」
「確かにそれはそうだろうけど」
お料理のランクとか色々アレだと思うのだ。
「最終的に元の値段に戻るだけじゃからな、料理のランクは元から割と高いから、価格破壊気味じゃったし」
「ソレはそうだけど」
アオバ姉の料理はこの辺では天下無双である。これ以上のは食べた事無いのだ。
「まあ値上げと客室調整は追々じゃな、一気にやるとがめついとか言われるし」
「そりゃそうだね」
思わず苦笑を浮かべた。口コミとか色々大事だと思うんだ。
追申
そもそも、宿泊業界だとシーズンで値段が倍とか普通何で、言う程気にしない気もしますが。お客居ないなりに真面目にやってた娘なんで、意外と不器用。
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