第94話 基本は煽るスズメちゃん(ハグ騒ぎ裏側、スズメ視点)

 耳元のイヤホンに付いているセンサーボタンを自然な動きで撫でさすり視界を操作する。

 翡翠さん現在地はと。 片目に装着してあるデジタルコンタクトレンズで監視カメラその他の情報を確認する。

「あーあーテステス、テスト中、業務連絡~」

 襟元のインカムを通じて、館内放送では無く、職員通信で一先ず無意味な言葉を入れつつ、興味を引かせる。 最初から本題だと思ったより聞き逃すので、多少の前置きが必要だ。

『どしたん? 話を聞こうか?』

 返事があったので、話を続ける。

「今現在、美人の湯のほうで翡翠さんによるサービスタイム発生中です、手の空いてる人は参加するなり、手近なお客さんに、それとなく伝えるなりしといて下さい」

『ひゃい?!』

『サービスタイム了解』

『もっと詳しくだなあ?!』

「自分の目で確かめてください」

  旧いゲームの攻略本みたいな事を言って言葉を濁す、声も拾えるが、流石に物が小さいので解像度はイマイチなのだ。

『ひゃっはぁ!』

 にわかに騒がしくなるお仕事通信、基本的にグループ会話でそのまま仕込んでいるのだ。


『ちぇ、手が離せん』

「タイミング悪い組は、そのうちおねだりでもしといてください」

『うーい』


 良さげな何かがあった時にはこんな感じに色々一瞬で情報が回る。

 私の端末は司令塔権限で監視カメラと常時つながっているので、こういったことはお手の物だ。


「スズメちゃんは行かなくて良いの?」

 不意に通信外、現実側から声を掛けられる。

 びくりと震え、咄嗟に振り向くとツグミさんだった。

「私はもうちょっと後で良いです、何だかセット販売でヤタおばあ様の次の次位に成りそうなんで……」

「あら? 次は?」

「ツグミさんでは?」

「あらあら……?」

 困り気味に首を傾げられる。

「私は後でも良いし、先にスズメちゃんでも良いのよ?」

「え~~~」

 思わず素が出る。

「もうちょい後で良いです」

 今の所男性と余り距離を詰めたくない、だからこそ他の人を押し付けて居たりするのだ。

 遅かれ早かれ抱かれるとは思うけど、急ぎたくはない。

「今の所、怖い人じゃないわよ?」

 ツグミさんがフォローを入れる。

「情報源は?」

「ミサゴが仕事の合間に惚気てる」

「そりゃそうか……」

 仕事のポジション的に、一番至近距離で聞かされる側である。無理も無かった。

「まあ、貴女は頭良すぎて覚えてるからしょうがないでしょうけど、男の人全部アレじゃないから」

「判ってはいるんですけどね?」

 溜め息交じりに肯定する、本当に、記憶力が良いのも考え物だ。

 産まれてから全部覚えているのだ。文字通りに。

 流石に0歳の頃は微妙なのだが、琥珀さんの事も優しかった事とかもぼんやり覚えているのだが。

 その後のあの馬鹿の事はばっちり覚えているのだ、熱いのとか、痛いのとか、怖いのとか、あまりにも鮮明過ぎる。

 そんな訳で、私は男性が怖い派なのだ。だけどこの世界、特にミサゴやハチクマを見て分るように、基本的に男より強い娘ばかりなので、どちらかと言うと男は捕食対象と見ているのだろうが、私は微妙に小さい側なので、やはりなんだかなあと言った感じである。

「未だ後で良いです。希望者が多いので、今は人柱として先行者を煽って遊ぶとします」

「程々にね?」

 ツグミさんに笑われた。

「そうこうしてるうちに死屍累々っぽいんで、フォローしてきます」

 脱衣所の監視カメラには、幸せそうに笑顔を浮かべながらだが、裸で倒れるお客様達が映って居た。

「はい、いってらっしゃい」

 苦笑交じりに送り出された。

(まあ、実際、色々抜けてるけど、今の所善人っぽいんだよねえ)

 そんな人物評価を思い浮かべて、小さく溜め息をついた。

 


 追伸

 あの時に人が増えた原因です。犯人こいつ、スズメちゃん。

 プロット段階ではコレやる為に義眼だった事も有りました。具体的には煙草の灰が変な所、丁度足元に居たスズメの目に落ちたとかです、凄い泣いたので五月蠅いと逆切れして蹴り転がしたとか、色々お察し、そりゃあ温厚なツグミさんもぶちぎれる。

 現在でもプロト段階だけどスマートコンタクト有るから、そっちで良いじゃんと言う事で、ちょっと罪状が減りました。

 火傷は幼少期の事なので綺麗に消えてます。

 熱くて痛かったのは覚えてます、困った事に、ばっちりと。


 関係ないですが、作者も幼少期、子供のいたずらで目玉周辺をぶっ刺されて、瞼から出血して文字通り視界が真っ赤とかあったので、子供の失明って、別におかしくもなかったかと。因みに視力低下とか失明はしてません、一部三重瞼っぽい切り傷跡です、まあセーフです。


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