第93話 その頃、検査結果暫定、精液担当のアレコレ (ツブリ視点)

 かしゃかしゃかしゃ


 何時もの業務日誌をPCに打ち込む、昨日は何というか凄かった、それで余韻とか味わいたかったしで。結局あの後は仕事にならず、当時の私は諸々全部、明日の私に丸投げた次第である。

 そんな訳で、今日の私は残った処理にてんやわんやと言う流れだ。


 かしゃかしゃかしゃ


「ところでツブリ君、昨日はどうだったんだい?」

 上司の兎田薬うさだくすりが根掘り葉掘り聞いてくる。

「どうせ監視カメラとマイクで一部始終見てたんでしょう?」

 今更聞いてどうすんだと言ってみる。

「定点カメラから見る情報と、当人の主観から語られる、聞ける情報とは隔たりが在るモノだから、是非とも記憶が 薄れない内に聞いておきたいのさ」

 否定も悪びれた様子も無いので、やはりあそこはセキュリティは有ってもプライベートも何もあったものじゃない。まあ、一連の流れは今書いている報告書で上げる羽目にも成るので今更だが。

 淡々と事実のみを描くか、主観を交えた実質的な官能小説擬きで上げるか問題は有るのだが。

「どうせ、どっちが使えるかって話なんでしょう?」

 今となっては下ネタにも慣れたものだ。初対面の際には美人な顔から繰り出される下ネタのオンパレードに同姓ながらドン引きしたものである。

「どっちも趣があって良い物だけど、語りで主観と情感が乗ったほうが素敵じゃないかい?」

「そう言う趣味嗜好は否定しませんけどね?」

 上司権限というか、上の立場からの根掘り葉掘りはセクハラとかパワハラ的なあれに分類されると思うのだが。異性相手、特に男性相手ならアウトだが、女同士は基本無意味である。


 ぴこん


 業務メッセージの到着を告げる音に上司のPCを覗き込む、一瞬受信したタイトルが表示された。

【重要機密】届いた検体に関しての受精能力確認(途中経過暫定)

「おや、お早い」

 上司の兎田が先にメールに反応する。

「受精からの初期分裂状況ですか?」

 時計を確認する、現在朝の11時、昨日もらったのは何時だったかなあと、記憶をたどる。

「昨日の分じゃ、ちょっと早い・・・・・・?」

 初期分裂の観察期間は24時間だったはずだが。昨日もらったのは昼過ぎだったし。

 まあ見ておくかとそのままのぞき込む、カチカチとマウスのクリック音が響く。

「いや、おとといの分だね?」

「ああ、そっちなら間に合いますか・・・・・・・・・ひゃい?」

【卵子100個に対する受精状況、98/100】

 覗き込んだ文面には、そんな現実感のない数字が並んでいた。

 一般的に、培養液、いわゆる生理食塩水に浮かせた多数の卵子細胞に精液を一滴たらしての受精状況を見るのだが、見事にほぼ全部受精、当たったと。

「顕微授精じゃないですよね?」。

 そっちなら納得できる、基本的に泳がないオタマジャクシであろうと、卵膜の殻を貫通させればイケるのだから。

「かけるだけの体外授精だね?」

「嘘だあ?!」

 改めて目を見開いて文面を読む。

「うわ、本当だ」

 改めて呻いた。

 あの人、種牛か種馬のスーパーランクかなんかか?


 一般の精子だと、目の前に卵子があろうと、卵膜の殻が突破できずにそのまま息絶えているなんて例がザラにある。 イマイチな精子を篩い分けるための免疫的な防衛機構の一種だが、そのおかげで一般的には10/100行けば良い方だ。

「これだと寧ろ受精しなかった2のほうがアレじゃありません?」

 卵子細胞が死んでいた類だろうか? 前卵細胞が採取早すぎたとか?

 いや、生きてるのとかで予め、より分けてるハズだし。

「精子が2匹以上入って染色体エラー起こして分裂止まったみたいだね?」

「ああ、そっちですか」

 その精子達は勢いがありすぎる気がするんだ。


 卵細胞は精子細胞が一個入ると瞬間的に卵膜が硬化して次の精子細胞をシャットアウトするのだが、本当にタイミング が悪いと2匹以上入って分裂エラー起こしてしまうのだ。 こうなると色々上手く人体が創れなくなるので、分裂が止まって、細胞が自殺、アポトーシス、勝手に死ぬように出来ている。

「あまりにも優秀過ぎて検査のエラーじゃないかってことで、次の、昨日の分も突っ込むからちょっと待ってろって、出来れば早急に次の検体サンプルも寄こせってさ」

「そりゃあ無理もない話ですけどね?」

 あの人もそんなにホイホイ出せるハズが・・・・・・

『もうちょっと頑張れますけど、どうします』

  出せたな? 当人自己診断の自称だけど出せたな?! 今にして思うとえぐいセリフしてたな?!


 暫定とはいえ検査結果を含めて考えると、二日三日で当人が認知しない所で100人200人と子供が増えている訳だが、因みにこの受精卵、提供した本人と希望者に配られる、余った場合は大事に液体窒素のマイナス196℃で未来の為に保管される、一切無駄にされないので安心である。

 自前の卵子がダメであろうと母には成れる、そんなシステムなので、ある意味優しい世界だ。 遺伝的にどうのこうのは機密ガチガチで閲覧制限のかかった特殊な医療機関と政府のデータベースにしか無いので、本当に当人達は何がどうかは何も知らないのだ。

「現時点で、暫定ランク的に新設のSで、1か月後の着床生存率次第で+つくかどうかってかんじねえ?」

「今までランクAまでしか無いのに、+も安くなったもんですね」

 もはや上もてんやわんやだと思う。

「今現在もAが空位だけど、いきなりS新設して+付けるのもアレね?」

 今は亡き琥珀さんのAが不動で基準点なので、超えられたら上創るのも止む無しといった所だろう。

 一般的にはCとかBが大多数である、今は本当に精子の質が悪いのだ。

「もう上の事なので知りませんよ」

 ランク新設うんぬんなんて現場の人間としては知ったこっちゃない。

「今のお値段的には?」

「一発30万」

「うわあ……………………………」

 思わずうめき声をあげる、あの人は油田か何かか? 白い液体のふりして砂金でも出てんのか?

「ってことで、もろもろ含めて、噂の翡翠さんがご来院の際には、頑張ってね?」

「と言うか、現場の人間に下手に聞かせていいことじゃないですよ?!」

 今更であるが、思わずツッコミを入れた。

 先刻のメールの内容、覗き込んだ自分もアレだが、見て良いかは、かなり不味い気もする。

「しーってね?」

「可愛く言ってもアレですからね?!」

 年甲斐もなく人差し指を立ててにっこりウインクする上司、美人だから絵になるのだが、一連の行動が色々アレだった。



 追伸、改めて紹介

兎田薬うさだくすり

 ギリギリラインの29歳、口を開かなければ真面目な印象の美人さん。

 だけど口を開くと下ネタ芸人気質のおっさん。

 下ネタOKで話すと楽しい人。

 何故かこの話し方だと、作者の中で容姿がアグネスタキオンぽくなってる気がします。

 白衣来てるから合ってるかな?


 人工授精だとスポイトとか注射器で中に入れるやつで、体外受精だとシャーレに卵子取り出して置いてぶっかけるやつです。作者も今回調べるまでごっちゃになってました。怖い怖い。


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