第89話 続、炎上中、労い(ミサゴ視点)
「うーにゃー」
引っ切り無しに鳴る電話の合間に、無駄な鳴き声を上げる、本来『つっかれたー』と言う所なのだが、あまりネガティブ発言をすると癖に成るし、周囲の空気が悪くなると言 うことで、合間のこう言った時の泣き言は猫語にすると言うのが、この職場のルールである。
呼んだ? と言う感じに机の上に猫の目つきが悪いほう、チンピラさんが登って来た。
思わずそのまま、猫のお腹の毛に顔からダイブする。
鳴き声を上げると接客担当の猫達が飛んできてくれるのだ。 因みに部長さんは愛想が良いので、他のお客の辺りに捕まっているのだろう。
フリー率が高いので、部長さんよりチンピラさんのほうが良く来てくれる。 そんな訳で、従業員人気はチンピラさんのほうが上である。
「なー」
「にゃー」
何やってんだこいつと言う感じの鳴き声を上げるチンピラさんに、無意味に猫語で答える。
「にゃー」
「程々にね?」
「にゃー」
横で一緒に電話番していたツグミ母さんが苦笑交じりに窘めて来るのを、勢いで猫語で返す。
「失礼しまーす」
不意打ち気味に響いた声に、ぎょっと起き上がった。
じゃあ用は済んだな?
と言う感じに、解放されたチンピラさんが大した音も無く、机から飛び降りる。
「炎上しているそうで、すいませんね? ご迷惑をおかけしまして......」
そんな事を言う、申し訳無さそうな翡翠さんの表情が、ちょっと可愛かった。
チンピラさんが翡翠さんの足をスリッパの上から軽く踏みつけつつ、ぶつける様に体を擦り付けて何処かに消えた。
なんとも自己主張が強い猫だった。
「大丈夫です、この程度の炎上なんて、慣れたもんなんで」
咄嗟に大したことないと笑って答えた。
実際、言うほど珍しくない、雑誌やネット、TVで歴史の偉人とか、伝説の色男とか特集されると、筆頭に今は亡き琥珀御爺様が上がるため、炎上気味の問い合わせが 結構な数発生するのだ、特に
だが、今回はあくまで私たちの旦那様である翡翠さんが宿泊しているだけだ、お客様の情報は基本的にプライバシーポリシーを盾に黙秘できる、そんな訳で逃げやすいの だ。
対して琥珀御爺様の時は、正式に三助を名乗ってしまったため、最後の方、逃げ口上が上手く使えず、結構大変だったらしい。
「それに、今回は予約もぎっちりです、実利が有るからウハウハです」
極力軽めに続ける、実際、今は亡きの場合は問い合わせ窓口とか炎上する割に、宿泊客に成らないタダのクレーマーばかりで利益が薄いのだ、あっちは徒労感が酷いが、今回は適度に当たりも有るので、言うほど悪くない、仕事量が多くてびっくりしただけだ。
「まあ、一先ずこれで」
座ったまま抱きしめられた、あれ? いつの間に?
「お疲れ様です、こっちの世界だと、こういうのが男の仕事って事らしいので…………………….」
嗅ぎ慣れた温泉の匂いと、お風呂上がりの奇麗な汗の良い匂いとか、抱きしめてくれる優しい感触とか、そんな、私を優しく労わってくれる言葉とか、その一連の行動が、もう何と言うか、すごかった。
思わず、されるがまま、うっとりと脱力して抱き締め返す。
両手、両腕、触れている全身から伝わる、小柄だけど、しっかりと鍛えている、力強い筋肉の感触とか、惚れ直す事しか出来なかった。
「じゃあ、ちょっと出かけて来ますね?」
そう言って翡翠さんは出かけて行った、行ってらっしゃいと、小さく手を振って見送る。
「本当に、素敵な人ね?」
ツグミ母さんが何だか優しい笑みを浮かべていた。
思わず肯く。
「母さんも抱き締めてもらえばいいのに」
折角翡翠さんが居るのだから、勿体無いと思うのだ。
「私は良いの」
見ていただけだと言うのに、なぜか満ち足りた優しい笑みを浮かべていた。
追申
ツグミ「あら良いわね~」位の感覚です。
アルファポリスの投稿小説「よく分からないAIの使い方」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/979548274/840877285
ボツカットなAI画像です、順次追加します、よかったら見て行ってください。
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