第87話 食事とネタバラシ、これからのお話
「いただきます」
食堂の片隅で小さく呟き、手を合わせる。
時間帯は丁度良い感じにズレたらしく、人はそんなに多くなかった。
今日のお昼と言うか、昼朝ごはんは、病み上がりなのを考慮しておかゆと言う事だった。
自炊の際は基本的にご飯は固め炊きなので、少し残念感を感じていたが、一口食べて思い返した。
出汁が効いていて、やたらと美味しい。
味変用の梅肉も美味しい。
気が付くと結構大きかった気がする土鍋が空に成っていた。
「ごちそうさまでした」
思わず手を合わせて会釈する。
ヤタちゃんとハチクマさんが妙に満ち足りた笑顔でこちらを見ていた。
「お粗末様でした、と言いたいところですが、デザートの特製ミルクプリンです、残さず食べてくださいね?」
何だか得意気な顔で小柄な仲居さんがデザートと小さな皿を持ってきた。
だが何故にミルクなのだろう?
ちょっと前にもホットミルクが差し入れと言うか、おやつ扱いで届いたが、まあ良いか。
特に疑問も持たずにプリンを口に入れる、なんとも、不思議な甘さだった、普通の牛乳とは違う気がする。 市販のミルクプリンとは全く違う濃厚な感触とか感じるのだが、語彙力の引き出しが足りずに、上手く言い表せない。
そんな事を考えつつ、スプーンを進める。
「良いなあ、儂には?」
「お婆様にはこっちです」
「普通のブッチンじゃないか」
ヤタちゃんたちの前に普通のプリンが出て来る。
何だかそんなコントみたいなやり取りをしているのを見つつ、いわずら心が沸いたので。
「一口どうです?」
試しにやってみた、ひとさじすくってヤタちゃんの前に出す。
ざわりと。
一瞬、周りの空気が凍った気がする。
ぱくり
ノータイムで喰いつかれた。
「あ」
変な声が響いた気がする。
「ん……………」
何処となく得意気にゆっくりと咀嚼するヤタちゃん。
「ああ、なるほど」
口の中のモノをこくりと飲み込むと、少し考えた様子の後、納得した様子で肯いた。
「確かに特製で、こ奴専用じゃな?」
一人で訳知り顔だった。
「何か隠し味とか?」
出来れば答え合わせとかしてみたい。
「材料が特別じゃな?」
「しー」
何だか悪戯っぽい様子で仲居さんが人差し指を立てる。
「ま、そんな訳で、言わぬが華と言う奴じゃな?」
二人で笑みを浮かべる、ヤタちゃんと仲居さん、二人で何だか楽しそうであった。
「で、紹介が遅れたが、こやつがスズメじゃ、儂らとしては、ミサゴとハチクマが嫁に成るならセットにしておきたい物件」
ヤタちゃんが先程から近くで世話を焼いてくれている仲居さんを示す。
「ご紹介にあずかりました、スズメと申します」
丁寧に頭を下げてくる。 ハチクマさんやミサゴと比べて、一回り、いや二回り小柄な美人さんだった。
「よろしくお願いします」
こちらも居住まいを正して頭を下げた。
「でも、せっかくの
にっこりと笑われた、小柄なのに美人なおかげか、結構圧がすごい。
「ま、追々じゃな?」
ヤタちゃんがため息をつく。
「と言うか、候補者何人いるんです?」
「この旅館だけで50人、地域丸ごとで100人ぐらい、最終的に範囲を拡大して一族郎党だと何百、………多分、千単位じゃな?」
ちょっと遠い目をするヤタちゃん、つられてこっちも遠い目をする。
「因みに、儂の把握している範囲、適齢期のみでじゃ、無理と言うなら無理で良い」
「適齢期の範囲的には?」
「今のところ、お主のストライクゾーンが20~40と見てじゃな、30以降は基本子持ちじゃが、相手は居ないから、遠慮は要らんぞ?」
知らんうちに嫁候補が何百単位で増えていたと言うか、ミサゴを嫁にした時点で
「多いなあ……………………」
上手い返しが思いつかなかったので、相槌だけ打っておく。
そういわれると、初日にミサゴがガチガチに緊張した状態で夜這いからの初体験を背水の陣で仕掛けるのも納得であった。
一族郎党の幸せをあの小さい一身に背負ってと考えると、良く頑張ったモノだ。
「儂を嫁に入れた時点で、大手を振って次の嫁について口出し出来る様に成ったからな? 失敗したと思うか?」
「いいえ」
情報の整理が付かずに、気のない返事をしつつ、後々の酒池肉林具合に思わず思いをはせてみる。
「これで、何だかんだ嫌がる様子が無い辺りがお主の良い所じゃのう」
吹き出すように笑われた。 ハチクマさんとスズメちゃんが頷いていた。
「良いんでしょうか?」
思わず聞き返す。
「僕らが理想とする雄は、優しく助平で誠実な男じゃ」
「何とも、明け透けな………………………」
「おためごかしで誤魔化すとロクなもんにならんからな、そうする自覚はあるんじゃろ?」
ちょっと考えてみる.......
「ある程度は応える気ですけど、具体的には?」
上手く言語化出来ないので、聞いてみる。
「無理矢理や、暴力を振るわず、助平な事を忌避せずに、周囲の期待に応えた上で、最終的に自分の子だと、生まれた子供を大事に出来る奴の事じゃ、贅沢を言うと、 他の種であったとしてもを含めるか?」
微妙に最後に寝取られを仕込んできた。
視線が集まってきていて、周囲の空気が若干怖い。
「前半は応えられそうですが。一番最後の所が引っ掛かりますが……………」
前半は基本大丈夫だと思う。先ほどのハグ騒ぎで実績解除か。
「旦那が屑で頼ってきた女とか、旦那に死なれた女とかが、子連れで来た場合じゃな?」
「そっちだったら、大事にしてあげたいと思います」
むしろそれを大事にしない奴は屑以下だと思うのだが。
一瞬固まった周囲の空気が弛緩する。
「そんな訳じゃ、良かったな?」
ヤタちゃんが響くような大声で話す、周囲から安堵の溜め息とかが響いた。想像以上の見世物具合であった。
追申
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