第71話 翡翠に飛びつこう

「まあ、ここでやるとのぼせたり転びそうなんで、こっちですね? 一人ずつどうぞ」

 聞こえる様に、大きめの声でそう言って、浴場から脱衣所に移動する。

 この浴場は泉質が弱アルカリのいわゆる【美人の湯】アルカリで表皮が融け、若干ぬめるので、肌艶は良くなるが、滑って転びやすい奴なのだ。


「しかし、ワニの群れに自分から飛び込む辺り豪胆じゃのう?」

 ヤタちゃんが笑う。

「期待には応えてあげたい所ですし、いざと言う時はハチクマさんもいますし」

 そんな事を言いながら、ヤタちゃんが軽い調子で放り投げて来た缶入りスポーツドリンクを受け取り、かしゃりと開け。

「いただきます」

 と、一息で飲み込んだ。

「ごちそうさま」

 飲んだ先から汗と成って噴き出す水分、代謝状態は悪くなさそうだった。

 ハチクマさんが回収ですと手を出してきたので、空き缶を渡す。

 かしゃんとゴミ箱に空き缶が捨てられた。


「拭かん方が需要が有るぞ?」

 拭こうとタオルを手に取ろうとした所で。そんな事を言われた。

「こんなびしょびしょが?」

「だからこそじゃ」

 何故かうむうむと頷くヤタちゃんとハチクマさん、息が揃っている。

「んじゃ、お試し」

 悪戯心が湧いたので、そう言って、手近な未だ裸のハチクマさんに汗でびしゃびしゃのまま抱きついた。

 超反応で瞬間的にベストポジションで受け止められた、一切嫌がる様子が無い。

「ご褒美でしか無いわな」

 ヤタちゃんが言う、良いぞもっとやれと言う感じの煽り加減だった。

「んじゃ、こっちも」

 手を緩めるとハチクマさんのロックが開放されたので。

 そのままヤタちゃんにも抱き着いた。しつこいようだが、現状全員全裸である。

 予測済みとばかりに受け止められた。

「いっその事、お主の汗精製して香水にしても需要が有るLVじゃぞ?」

「そんな極端な、と言うか誰得なんです?」

 抱き着いたまま思わずツッコミを入れていると、ガラッと戸が開いた。



 浴場からのドアが開いた音に合わせて、ゆっくりとヤタちゃんから離れる、お互い次も有るので、その動きに迷いは無かった。


「あの、本当に良いんですか?」

 先陣を切った少女ではあるが、本当にハグ出来るのか確証は持てない様子だ、まあ、自分も街中で可愛い娘がフリーハグだって看板出してたら嘘だあってなると思うので、笑う要素は無い。

 まあ、ようこそって意味で笑って手を広げて迎えるのだが。

「はい、どうぞ」

 しつこいようだが、お互い全裸である。タオルとかで一切隠していない。

 ぶらぶらしたソレと言うか、既に戦闘態勢に入ってガチガチに上を向いている自前のソレとか、微妙に排熱処理しながら次弾装填しようと内部で回る様に脈動する袋状の ソレとか見えている事だろう。

 こちらとしても、明るい所で若くて奇麗な裸体とか至近距離で見れて眼福で、そのまま触れ合えるのならWIN-WINと言う奴なのだが。

「なんまげに飛びつこうのノリで構わんぞ?」

 援護射撃と、ヤタちゃんから月光江戸村辺りに居そうな名前が出て来た、一瞬例のCMが脳内で再生される。こっちも大体同じような歴史なのだろうか?

「えっと………………………よろしくお願いします!」

 少女は目線を右往左往させた後、覚悟を決めた様子で抱き着いてきた。

「はい、ようこそ」

 歓迎の言葉を耳元で囁き、両手で抱きしめた。


 少女の身体が小さく痙攣するように震えた。

「と言うかあれじゃな? うれしょんされかねんから、そっちでやったほうが良さげじゃったな?」

 ヤタちゃんの苦笑交じりの一言が響いた。

 水か汗か何かの雫が、足元にポタリと垂れた。


 追申

 なんまげ、ちょんまげのなまはげをデフォルメした月光江戸村の、かなり珍しい公式でフリーハグ出来る系のマスコットキャラ。【なんまげに飛びつこう♪】のCMに合わせて実際に物凄い勢いで飛びつかれて骨折した実績のある、悲しいマスコット。

 キメ台詞は【また来てなんまげ】

 中身が筋肉ムキムキのマッチョじゃ無いと客の飛びつきに耐えられないが、それでもやっぱり耐えきれないらしい。

 耐衝撃タイプの着ぐるみを作るのが先じゃないかと言うツッコミは多分野暮。

 言うまでも無く元ネタは「日光江戸村のにゃんまげ」知らん人はレッツ検索。



「貞操逆転世界の温泉で、三助やることに成りました」

 https://www.alphapolis.co.jp/novel/979548274/358865286

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