第55話 翡翠の話、記憶の過去辺
「疲れた」
それしか言えなかった、貴重な新卒カードと使って入社した先が業界大手のブラック企業で、稼げるは良いが、人間扱いはされないと言う、何とも言えないトレードオフ状態、親の葬式の公休ですら、替わりが見つからないから仕事に引っ張り出されると言う、人手不足状態の職場、先に逃げたほうが楽なのは分かるが、残されたものはどうするんだ何て言う、無駄な優しさと責任感、食い物にされるだけであった。
最終的に安いんだもんなあ.......
定年退職まで居られれば何千万の退職金だが、途中退職には1/10以下、この後の金回りはどうしても悪くなると言う世知辛いシステムだった。
(でも、何に使おう? どう使おう?)
内心で少しワクワクする。
退職願を受け取り拒否して逃げ回る上司をどうにか黙らせ、人の迷惑を考えろと言うありがたい説教を労基と警察を駆使して黙らせ、最終出社日に突然出された引き継ぎ書類を出来るだけで良いからさあと言うので、手を付けずにそ のまま退社してきた、最早無敵だった。
現状何も持ってない故………
家を買わず、彼女もおらず、家族も居ない、守るべき嫁も子供も、ペットも居ないのだ、そこらへんに手を出す余裕がなかったので、会社側の最終的にローンと家族をアンカーにして縛ると言う手法が使えない状態の者は出世させないと言うシステムに捕まり、上がるのは給料ではなく税金負担と仕事量と責任ばかりで、結局時間と金がないので婚活する余裕もなく、気が付いたら30歳童貞の魔法使いであった。
今更始活…………
言うまでもなく、30代おっさんの市場評価価格は実質ゼロである、付いてるラベルと持ってる金にのみ価値がある、本体はそれについているおまけである。
世知辛い現実であった。
身長160無いのは人権無いですからねなんてことまで言われていた。結婚相談所でそんな評価をもらった、退職後に来るんじゃねえという話である。
まあ、次の稼ぎ口もないからなあ……………
ちょっと前までリーマンショックの派遣切りの時代で、何処も不景気で、新卒も中途も雇う所がなかった。
タイミング悪かったなあ……
辞めてから思う、だが、あのまま働いていても確実にじり貧で、どうしようもなかった感はある。
辞めた瞬間体調を崩して一週間寝込んだのだから、もう無理では有ったのだろう。
我ら戦後の第二次ベビーブーム世代、物心ついた頃には丸ごとバブル崩壊の不景気に飲まれ、ロクな就職先に恵まれず、政治的にも 救済されない、ある意味棄民とまで言われる世代である。人数が多いので大切にされず、不景気を題目に昇給も出世もできず、派遣切りなんかで人が一気に減ったところで、仕事だけ増やされた世代である。
最終的に俺たちの世代が稼がないから不景気なのだとまで言われる、そんな人生逆風世代だった。
ハローワークには仕事の無い面々により長蛇の列が出来上がり、ついでに、だと業界大手だというのに雇用保険系を払っていない事が発覚して、失業保険なんかの諸々も無かった事に何て…………
そんな中で、もう格安バスツアーで温泉にでも行って気晴らしでもと乗った所で、糸が切れたように意識がなくなり、今に至ると……
やっと色々思い出した、何か死んだんだろうなあとしか覚えていない。
温泉なんかは確かに行きたかったんだなあ........
しみじみ思う、バスの中でエコノミークラス症候群とかで勝手に死んだのか、トンネルの崩落にでも巻き込まれたのか、バスごと事故ったのか、そんな過程はあまり意味はない。
熱にうなされて、ちょっと嫌な夢を見た様子だ。
目を開け、身体が起きるのを待つ。
意味があるとすれば、現在何故かここに居て、何だか存在を認められて、求められて居ると言う現状だけだ、それなら、ここに居て良いんじゃないかな?
そんな感じに自己完結した、そんな分けで、楽しく生きさせてもらおうか?
ちょっと汗かいたな、お風呂でも行ってくるかな?
追申
翡翠の内面構成物質はこんな感じです、果てしなく色気は無いのが辛い所。
でも、こんな奴じゃないと見ててイラっとするので、飽くまで真面目で優しい奴です。
退職のごたごたはストレスで壊れてたのでしゃあないと言う事で。
ギフトありがとう御座いました、頂きます。
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