第43話 ハチクマ内面
(小さいなあ)
彼を見た瞬間、思わず内心でそう呟いた。
私は山野ハチクマ、今は男性護衛官のようなものをしている。
様な物と言うのは理由が有って、護衛官の資格と職業は有るのだが、護衛官としての仕事がない状態だったからだ。
護衛官と言う仕事は基本的に、誰かの護衛につかないと護衛官とは名乗れないのだ。
待機中は予備役扱いだ、持ち前の無駄に大きいこの身体で、自衛隊にスカウトされたは良いが、女しかいない職場に嫌気がさし、職歴を生かした転職、尚且つ男性が 居る華の有る仕事だと、候補的に男性護衛官が手っ取り早かったので、頑張って難関と言われる試験を突破して護衛官となったのだが。
「君の大き過ぎる身体では、護衛対象である男性に圧迫感を与えるため、出番がないかもしれないよ?」
最終面接官の、そんな身も蓋も無い一言にもめげずに、頑張った、とにかく頑張ったのだが。
「デカい、怖い」
初めての現場での顔合わせ、護衛対象の男性から発せられた、その一言で崩れ落ちた。
いや、自覚はあったのだ、学生時代も、部活でも、自衛隊とかでも頭一つ大きかったし、ガタイの良いのが多い中でも、押し負けないし。
【基本的に、圧迫感を与えないために、護衛対象の男性よりも小さいほうが人気が有る】
職業適性テキストのそんな一文は、いや、大きさによる頼りがいなんかも大事だからと言う気休めの言葉にすがって意図的に見えていなかった。
のだが、現場の男性から第一声でのそれは、流石に応えた
その時は男性に見苦しい所を見せる訳にも行かず、物陰で崩れ落ちた。
幸か不幸か、その男性の所には、結局採用されなかった。
自棄になってストレス解消といっぱい食べた、一緒に来た面々がドン引きするぐらいに。
で、其処から嘔吐でプラマイゼロにする何て行儀が悪い概念は無かったので、釣り合うぐらいには運動した。
それを繰り返して一年ぐらいで、胸とか尻とか、何故か身長まで、一回りでっかくなった。
学生時代は180位だったはずなの身長が、何故か社会人になってから190位まで行ってしまった、流石に成長期終われと頭を抱えたが、伸びた身長は戻らない。
それ以降、何度か顔合わせには呼ばれるが、採用されず。
タダの予備役待機では不味いと言う事で、ひたすら裏方の書類仕事に回されるようになった。
で、そんな不完全燃焼の日々の中、護衛官として呼ばれた、何処の物好きだと思ったら、実家の本家だった。
懐いて来ていた妹分のミサゴとか、真面目だけど悪だくみ担当のスズメとか、懐かしいなあとか書類を見ながらしみじみ思う。
本家元締めのヤタ祖母さんとか未だあの容姿なのだろうか?
でも、男性何て何処から捕まえて来たんだろ? 国から男性が派遣何て事も無いだろうし、あの辺は本当に空白地帯なのだ、前の代で男性を追い出してしまった関係上、フリーの男性が派遣される様な事もほぼ無い。 それが嫌で、婿探しだと私は外に出たのだし。
ロクに成果上がってないけど!
悲しい成果に思わず目をそらす。
で、久しぶりに帰ってきた地元は、相変わらず寂れていた。
地域に男性が居ない所は、女性にも活気が無いのだ、表立って外にいる男性が居ないと、ワンチャン有るんじゃないかと着飾る意味も無いので、色々と経済とか停滞するのだ。女同士でマウントしても悲しいだけなのだから。
そんなどんよりした、見覚えのある通りを、仕事仲間の男性保護局の面々と歩く。
学生時代、この限界集落一歩手前の、どんよりした閉塞感が嫌で飛び出したんだよなあと、あの頃の感情を思い出して、内心で溜息をついた。
きよらは無駄に燃えているっぽい、推定有罪で張り切っている。
琴理さんはあくまで無罪前提で、事務処理のためにと言っている。
まあ、私はあくまで護衛である、自分で判断する権限は無いので、その時々、指示待ちで成るようになれだ。
(あれ? 華やかだ?)
見覚えのある温泉旅館に一歩踏み入れると、見覚えのある面々が浮足立っていた、何処となく浮かれていて、笑顔とか見える、良いことが有ったのだと一目で判る。 あまり仲良くは無いが、腹違いの姉妹とか親戚の面々の顔も明るい。
で、入り口で琴理さんが仲居さんを捕まえてちょっと話すと、そこの奥の影ですと指さされた。
私にも目が合って(あ、懐かし) そんな感情が浮かんでいたのに気が付く、小さく目礼と手振りで返事だけする、一応未だ仕事中なのだ、公私混同とかあんまりよくない。
で、真っ先に突っかかって行ったきよらは本家の妖怪ロリババア、ヤタ祖母ちゃんに、見事に返り討ちに会い。
何だか無駄に浮かれたヤタ祖母ちゃんとのラブラブ具合を見せつけられ。
改めてと、翡翠さんと話させてもらっても、有罪に出来るような材料は見つからず。
琴理さんは淡々と手続きを進める。
私はと言うと、その男性、翡翠さんに目を奪われていた、今回はご指名なので、もしかすると私にも春とか有るのだろうか?
内心で浮かれつつ、展開を見守る。
最早怨嗟の「羨ましい」という言葉をうわ言の様に繰り返すきよらに絆されてか、ハグしても良いと翡翠さんが席を立ち、一人で手を広げた。
追伸
一般兵士に戦争する権限とかは有りませんから、と言う訳でも無いですが、ハチクマさんは割と受け身。
社会人になるまでお腹いっぱいに成るまで食べるとかあんまり経験なかったので、目いっぱい食べたら残ってた成長期が来ちゃったタイプ。
少子化対策とかで自衛隊でもお見合いぱーてーとかは有りますが、ハチクマは男性よりも、男っぽい女を探す同性婚狙いの女にモテるタイプです。
残念ながら当人はノーマルなので辛いだけ。
因みに、作者的には大きくても小さくても貴賤は無い派です、彼女とか嫁とかフレンズとか募集中ですと寝言を言ってみます。
価値観はあくまでもこの世界でのお話ですので。フィクションですから!
良かったら感想とか応援とか評価の★3とかレビューとか、ご協力お願いします。
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