第42話 ハチクマさんと、おまけと

「では、改めまして、男性護衛官の山野ハチクマと申します、今回ご指名と言う事ですが、間違いないですか?」

 ミサゴと少しの間わいきゃいとした後、改めて姿勢を正して自己紹介をするハチクマさん。

 短髪で化粧っ気は少ないが、きっちり着こなしたパンツスーツの上からでもちゃんと女性だと分かる、立派な体格の美人さんだった。190cmぐらいあるだろうか?

「私の指名ではなさそうですが、問題なさそうですね?」

 正直に伝える、自分の好みで選んでギスギスするよりは、よっぽど良い。 そんな考えで返した言葉なのだが、ハチクマさんの高揚した感じの顔色が一瞬でくもった。

「あ~、お主朴念仁か」

 ヤタちゃんが呆れ交じりに溜息をついた。

「薄々気が付いてるじゃろうが、儂らが先走ってお主を指名しただけじゃから、こやつが知らないのはしょうがない」

「ですよねえ」

 ヤタちゃんの解説に、ハチクマさんが最初からわかってましたよと言う感じに、しょんぼりと返事をする。

「改めて解説すると、男性護衛官ってのは文字通り、国から男性を護衛するのに派遣されてくる護衛だが、ハーレムの一員としての側面がある、こやつ、ハチクマは見ての通りのデカ女だからな?  儂らが指名して通る時点で売れ残りじゃ、それを踏まえて、コレはお主的に守備範囲内か外か?」

「そう言う意味では守備範囲内ですよ?」

 あまりにも身も蓋も無い解説と質問に、呆れつつ答える。

 ハチクマさんが先程のしょんぼり状態から、一瞬で復帰した、目が輝いている。

 自分が小さいので、でっかいのは好きである、色々な意味で。

 自分より背が小さくないと許せないなんて狭量な事を言う気はない。

 そもそも自分より小さいの何て探しても悲しくなるだけなのだ。

 因みに、現状この場で自分より小さいのはヤタちゃんだけである。

 チビでも泣かない! 目線と距離感で多少の圧迫感は感じても!

「と言うか、その内心のアレコレを口に出さんかい」

 ヤタちゃんに読心されてか、呆れ顔でつつかれた。



「ハチクマさんに関しては、現状見た目だけの話ですけど、鍛えてる女の人は格好良いと思うので、好みと言う意味では、寧ろど真ん中です」

 服の上からでもデッカイ胸とか、括れた腰とか、正面からでも厚みを感じる尻とか、かなり凄いと思う。

 その言葉に反応してか、ハチクマさんが赤くなった。

「あ………ありがとう………ございます…………… 不束者ですが、お願いします」

  何故かお礼の言葉に続いて不思議な言葉が付いてきた。

「はい、お願いします」

 まあ良いかと、思わず普通に返事をした。

「「おおおおおおぉぉぉぉぉ」」

 周囲の面々から、よくやった、おめでとう、お幸せにと言った感じの拍手が起こった、何やってんだろこれ?

 そんな感じに、未だコチラに馴染み切れていない冷静な部分が内心で突っ込みを入れていた。

 初対面でこれ言ったら、確実にセクハラで社会的に死ぬ案件だと思うのだが、喜ばれている、世界が変われば価値が変わるものだ。


 そんな訳で、二番目の欄に、当然の様に署名しようとするハチクマさん、周囲の面々は、よし、今のうちだという感じに書類を回している。

 押しかけ感がすごいというか、段階がすごい勢いでかっ飛んでいく。


 わいきゃいしているミサゴとハチクマさん達の一団から気圧され、少し距離を開ける。

「しつこいですけど、早くありません?」

 思わず愚痴気味にヤタちゃんにツッコミを入れた。

「基本行き遅れじゃからな? 早いぐらいでちょうど良いんじゃ」

「まだ若そうに見えますのに?」

「社会人で番ってない時点で行き遅れじゃ、お主の所じゃどうだから知らんがな?」

「えー」

 余りにもなバッサリ加減に絶句する。

「不満か? 良く働いて男を立てて、いざと言うときに頼りになって、一番のミサゴと喧嘩しなくて、安産型じゃぞ?」

 最早全員嫁にしろ位の勢いだった。

 と言うか、その最後のアピールポイントは今時大丈夫なのだろうか?

「人前で女の容姿を男が褒めた時点で求婚したようなもんじゃからな? 今止めるとミサゴと一緒に泣くぞ?」

 ハメられたらしい、いや、ハメるのはこっちなのだが?

「泣かれるのは困りますね?」

 変な人質を取られた台詞に、それぐらいしか返せなかった。向こう産の男は基本的に女の涙には勝てないのだ。


「基本的に男側に金銭的負担は無いから安心せい、こっちでの男の仕事は種付けして宥めて、産まれた子供を認知するだけじゃ」

 大分身も蓋も無い扱いだった。

「旦那を嫁共が囲うと言うか養うから、生活費的にも家事的にも嫁は多い方が嫁達の負担も減るし、悪い事は無い………」

 少し考えた後で、言葉を続ける。

「理想論を言うと、出来る限り平等に抱いてやって欲しい所では有るがな?」

「何でそんなに世話焼いてるんですか?」

 思わず聞いた。夜話焼きばばあにしても仕込みがエグイ。

「前の旦那、儂は爺様って言っとるが、あれぜーんぶ琥珀爺様の落とし種じゃ、残念ながら儂の血縁じゃないが、爺様の血縁で、あ奴らは実質孫やらひ孫じゃからな? 可愛かろう?」

 仲良くわいきゃいしている一団を優しい顔で見つめるヤタちゃん、成る程……

 その横顔は見た目は幼女だとしても、とても誇らし気で、綺麗で、とても魅力的だった。

「どうせだから、一緒に結婚してください」

 思わず、そんな言葉が口をついて出た。

「ん?」

 ヤタちゃんがキョトンとこちらを見る。

「お主、話聞いとったか?」

「聞いてたからです」

 間違い無く、見た目的には美幼女では有るが、中身に惚れている感が有る。

「見た目これじゃが、ババアじゃぞ?」

「それが良いのです!」

 ロリババアとか大好物である、と言うか、その中身じゃなかったら惚れてない。

「…………阿呆」

 そう言って赤い顔を誤魔化す様に抱き着いて来た、コレは同意と見ていいのですよね?



 ミサゴ視点

「私等のより、求められてる感あるね?」

 ハチクマ姉さんが呟く。

「私達のも含めて、ぜーんぶヤタ祖母ちゃんの仕込みだからね? しょうがない」

 でも、これで色々安心だと、内心で胸を撫で下ろした、嫁ランク一番は結構肩の荷が重いので、これで問題無くヤタ祖母ちゃんを頼れる訳だ、何の問題も無い。

 明らかにあっちの方が距離近いのは目をつぶる方向で!




 追申

 男側に先に書かせると、もう次の名前書き放題なので、うっかりしてると欄が埋まる。

 流石に嫁の欄と保証人の欄が一緒ではまずいので、次回提出分に回されます。


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