第41話 二人の余り甘くない時間

「すいません! 翡翠さんと結婚させて下さい!」

 先程失礼があったという事で、先ずは土下座からと平べったくなった。

 土足禁止な旅館のロビーなのであまり辛くは無いが、屈辱的ではある。

 先輩の琴理さんも何だかんだで一緒に平べったく成って居る。

「なんと言うかアレじゃな? お主がいくら頭を下げても、儂の所に一銭も入らんな?」

 この温泉街の主、海野ヤタが大した興味もなさそうに対応する。

「頭下げるだけならタダですしね?」

 追加で海野ツグミが追い打ちをかけて来る。

「そもそも、儂らに誠意通すにしても、決めるのは翡翠じゃぞ?」

 それはそうなのだが、明らかにここを通さないと絶対に不味いのは嫌でもわかる。

「因みに、翡翠はうちのミサゴと護衛のハチクマと一緒にお出かけ中じゃ、書類提出と健康診断は……男性初回だと……丸一日かのう?」

 意外と教えてくれる辺り、特に害意とかは無さそうだ。

「そういえば絶食してもらえば胃カメラから行けたんですよね?」

「前夜は、ミサゴが段取り失敗して夕食前におっぱじまったからな? あ奴は何だかんだこっちに馴染んで無いし、二食抜きは酷じゃろう?」

「いっぱい食べてましたから、食堂担当が作り甲斐有るって喜んでました」

「そりゃあ何よりじゃな?」

「結構丁寧にと言うか、綺麗に食べてくれるんで評判良いんですよ?」

「向こうで社会人やってただけは有るな?」

「予防接種何種に成るんでしたっけ?」

「知らん、副反応にこちら側の適応反応も有るから、暫くは通わんと成らんじゃろ? あ奴らも喜ぶじゃろうから、丁度良い位じゃな?」

「程よく種を蒔いてくれると良いですね?」

 こっちを放っておいて雑談を始められてしまった。

 確かに男性が自主的に種付けして回ってくれるのなら、国としては万々歳だ。

 保護局員側としては色々トラブルが怖いので痛し痒しの所も有るが、お題目としては推奨したい。

 そんな訳で、雑談にしても重要情報が有るので、二人揃って結構興味深く耳を聳てて居たりする。

 足が痺れて来たのは無視する方向で!


 ひぎっ

 内心で悲鳴を上げる、猫達が不意打ち気味に足裏ふみふみしてるのは空気読んでるのか何なのか……


「はぁ…………面倒くさい………」

 足の痺れがそろそろきつくなって来た頃、不意にヤタが溜め息交じりに呟いた。

「お前ら何時まで平べったくなってるつもりじゃ、一先ず良い部屋に泊めさせてやるから、後は翡翠と直接話せ」

 実質お許しの言葉だった。

「じゃあ、宿泊と言う事で、一泊一人10万のお部屋ですね?」

 ツグミが続ける。

「3日ほど料金前払いでいただきますね?」

「はい、お願いします」

 提示された金額にあっさりと琴理先輩が頷く、30万とかポンと出て行く事にびくりとするが、拒否権は無さそうなので、続いて肯いた。


「二名様ごあんなーい」

「はい、いらっしゃいませー」

「ごゆっくりどうぞー」

 あっと言う間に中居さん達に囲まれてしまった。


 あれよあれよと言う間に部屋に案内されてしまった。

 明らかに高い部屋だった。

「相場っぽい………ぼったくりって訳でも無いのね?」

 琴理先輩が首を傾げる。

「これって、上手く行った方なんでしょうか?」

 思わず呟く、門前払いで蹴り出されても文句は言えない流れだったが、ちゃんと中に案内されている。

「さあ……?」

 琴理先輩も困り顔だ。

「お財布的には大丈夫でした?」

 一泊10万は普通に痛いが。社会人としてソレ成りに稼いでいるし、貯めているので、払えない事も無い、男性に種付けの交渉をする為の準備金だと考えれば、安い位でもある。

 直での種付けをお願いした場合、何十万とか何百万とか取られるのだ。

 なお、売春防止法とか色々有るので、表立ってはかなり厳しい。

 裏道限定の謎ルートとか必要らしいが、基本的に取り締まる側の私等はとても使いにくい。

「貯金は其れなりにあるから、平気ね?」

 先程の領収書と会計に使ったクレジットカードが挟まれたバインダーから、二枚の公務員ゴールドなクレジットカードがピッと回収される。公務員の一種の特権と言うか福利厚生として無審査、無料で作れるのだ、なお、逃げられない様に引き落としはお給料口座に紐付けされている。

「何日位泊まりましょう?」

「言われた通り三日ぐらいかしら? 本来は水入らずの蜜月期間に水入れに来たんじゃ怒られそうだけど?」

「確かに、出直した方が良かったかもしれません」

 でも、勢いとか色々欲しかったのも確かなので、先輩が今一緒に来てくれて居る状態はかなり助かるし、この機会を逃すと多分次は無い。女は20代入ったら背水の陣なのだ。

「多分、3日時間やるから、その間に口説き落とせとか、既成事実作って見せろとかその辺かしら?」

「出来ますか? あの翡翠さん、距離感はかなり近いですけど」

「分からないけど、やってみるしかないでしょう? きよら、貴方も頑張りなさいよ?」

「はい」

 返事をしつつ内心で気合を入れる。

「そういえば、二人で一室とっちゃったけど、平気?」

「正直一人であの人をどうこう出来ると思えないので、ありがたい位です」

 素直にそう伝える、多分一人だけだったら、一人で訳も分からずに落涙していただけだと思われる。

「有給休暇は結構たまってたでしょう?」

「10日以上は残ってるはずですね?」

「なら平気ね?」

「じゃあ一先ず……」

「作戦会議?」

「報告書の作成とリモート会議、昼までは仕事してた事にする」

 いきなり現実に引き戻された、琴理先輩の方は微妙に節約したいらしい。

「後からだと忘れるから今のうちにキリの良い所まで書いときなさい」

「……はい」

 私達は何だかんだで悲しい社会人であった。




 追申

 適応反応、所謂【よもつのへぐい】的なの。

 世界線と年代が違う為、ウイルスとかの世代交代がエグいので無意識に免疫反応で内臓と新陳代謝と言うか免疫系統が割と大変な事になってる。

 微妙におっさんのせいもあるけど、翡翠が虚弱っぽい動きしてる一因。




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