第17話 囲まれる
はあ……
思わずため息をつく。間違いなく元いた世界ではなさそうだった。並行世界で年数が進んでるようだ。所々で違和感があるのは年代のせいなのか、そもそものルールと言うか文化が違うのか、この時点では未だよく分からない。
(ミサゴさんとヤタちゃんの動きがやたらと性的に積極的だけど、あれ個体差なのか? あの二人だけ特別なのか?)
色々確認したい事は有るのだが、現状では調べる母数が少なすぎるので、実地で調べるのはまだ保留だ。
『男子の出生率下がる』
男女の比率は長く1/100程度を維持していたが、これからはさらに下がる模様。精子の供給量自体は減るが、出生率自体は顕微で大事に使うので言う程減らないとか、新聞記事にはそんな文字が浮かんでいた。
男女比率崩壊系かぁ、そうなると貞操も逆転してる系だったら嬉しいなあ、何とも都合の良い話だった。
『混浴温泉で男を探せ、実際に国内全国回ってみたレポート』『1/100の世界での恋愛術』『それでも直接交渉したい女の本音』『絶滅しましたが、三助特集』『男から訴えられないための自己防衛術』『混浴温泉特集』『選べなくても誰の精子がほしい? 色男特集』『袋とじセクシーグラビア』
袋とじセクシーグラビアが水着とかTシャツなおっさんだった、誰得なんだこれ。イケメソ系でもないんだな。もしかしてポリコレ問題こっちにもあるからイケメソ採用できないとかだろうか? と言うか腹出てるし、毛深いし、筋肉熊系でもないただのおっさんだし……
コレに一定数の需要があるというのなら、自分が脱いだ方が遥かにマシではないだろうか? 謎の自尊心がむくむく湧いてくる。それなりに鍛えてはいたので腹は出ていない。ホルモン的に若干薄いのか、毛はあんまり生えていない。身長低い以外は特に問題無いはずなのだ。
……彼女いないけど!
童貞だけど!
魔法使いですが!
最終的に向こうの結果を自分で叩き付けて、膨らむ自尊心を叩き折ると言うか叩き潰す、こんなもん膨らませても邪魔なだけなのだ。
誰でも良いと言いながら選り好みしつつ、ロクに惚れる事もなく、結局誰も口説けなかった前科が炙り出される。
自分の名前も出て来ないくせにこう言うのは出てくるのな?
恐らく元いた世界の事は普通に出てくるのだろう。自分自身は無価値だったりするから思い出せない落ちだろうか?
いやしかし? 所で割と遠巻きに見られてるなあ。 顔を上げてグルっと見渡す。他の宿泊客や従業員の方々の視線がチラチラとこちらに向いている。 牽制して居るのか何なのか、話しかけて来ないが。
「あの!」
不意に話しかけられた。どうやら意識が周囲に向くのを待っていたらしい。待ちができるのは優秀な狩人だ。
「ん?」
何の気なしに自分を指さす。ホッとしたように大きく頷かれた。
「お写真を一枚良いですか?」
その女性は不安そうな笑顔でカメラだかスマホだかを掲げていた。
見る限りカメラ周りが結構ゴツイ、良いレンズとセンサーが入っているのだろう。この時代は画素数いくつなのだろう?
「良いですよ?」
撮れと言う流れかな?
ほら、ソレを渡すんだと手を伸ばそうとしたら、カメラを構えて一歩下がられた。
被写体こっちか? コミケの撮影広場のマナーを思い出す。
「ポーズは?」
今はこの旅館内では何の変哲も無い浴衣姿である。映えるかどうか怪しい。
「こんな感じで」
カメラの後ろで何人かがポーズを取る。役割分担してる辺り、プロかなにかなのだろう。 何か意思統一されていないのかポーズばらばらだけど。 指示通りの中から取りやすい物を幾つか選びポーズを取る。いつの間にやら囲み撮影となり、結構な枚数が撮られた。一枚とは一体……
と言うか、あのおっさんグラビアのポーズも同じ奴か。ポーズ自体は需要あるんだな? アレに需要があるとは思えないが、あの見出しを見る限り、男なら許されると言う類だろうか?
『ありがとうございました!』
気が済んだのか、カメラを構えていた面々が一斉に感謝の言葉と共に頭を下げる。何人いたんだろ?数えてないけど。 割とこの期に及んで人に対する興味が薄いのを自覚する。
「申し遅れました、こういうものです」
遅れて名刺が出てきた、雑誌の記者だかライターらしい。
「ソレの系列です」
テーブルの上に開かれていた割と下世話な雑誌を指さす。
「なるほど、全国大公開?」
一応確認する。
「はい、ご許可をもらえれば……」
「許可しなかった場合は?」
「泣きながら消します」
先程までほくほくだった笑顔から、この世が終わった位の表情を浮かべている、百面相の落差が凄い。
「泣くんだ?」
「彼方みたいな素敵なモデル居ないんですよ! 全国回った私が言うんです! 間違いないです!」
凄い勢いで肯定される、その評価自体は嬉しいが、コレの扱いどうなのだろう? 自分自身が世間知らずすぎて扱いに困る。
「まあ、個人使用で眺めるだけなら良いんですけど、商業利用は~と、ちょっと色々確認だけさせてください」
それ自体はしょうがないと記者の人達も頷く。
服着てたから猥褻物とかそう言うものは無いと思うが、念のためだ。 遠巻きに居た従業員さんを手招きする、なんでこっちにと青い顔で寄って来た。
「信用できるラインでしょうか? こういうの詳しくなくて」
居る所を大拡散されると炎上して営業妨害とかになったら困る。
「ヤタちゃんかミサゴさんにでも確認取った方が良さげですかね?」
従業員さんがこくこくと頷く。色々知らん人に主導権を持たせてはいけないのだ。 ネットリテラシー的なのは高い世代なのだが、自分自身を信用するモノではない。
ちなみに、自分自身は割とどうでも良いので、おてんとうさまの下を歩けない様にされても恐らく気にしない。元から評判はどうでも良いキャラなのである。
そもそも写真をエロい目で見られるとかも割とどうでも良い。
「ちょっと呼んできますね?」
納得した様子で、小走りに駆けて行った。
「そんな訳で判定待ちです」
苦笑を浮かべて見る、結局お風呂に直行だったので館内の地図は全く分からない、こういったものは本職の人に任せて安心である。
追伸
良かったら感想とか応援とか評価の★3とかレビューとか、ご協力お願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます