第9話 続・保健体育 生殖方法色々

「これから先はテストには出ません、雑談として、肩の力を抜いて聞いてください」

 そんな前置きが出たので、教室内の空気が弛緩する。

「お待ちかねの下ネタ……と言いたいところですが、楽しいかどうかは謎ですね?」

 微妙な前置きだった。

「今は男性が希少になってしまったことと、売春禁止というか、男性の権利保護、フェミニストの過激派による文化破壊活動など、色々な要因がありまして、最終的に国が買い上げる形で、精液の一元管理と、人工や、顕微授精が主流になりつつあります」

「思春期のお約束として、実際に異性との交流を持って、恋愛等のプロセスを踏んで、直接注いで欲しいと言う夢と欲望はありますが、残念ながら少数派も少数派のレアケースです。相手がいないのはいかんともしがたいです」

「では、その少し前はどうだったかというと、種付けおじさんや、種付けおじいさん、温泉や銭湯での三助さん、夜這いの風習、地域での隣組や因習など、それなりに実地での種付けの機会がありましたが、男児出生率の低下、および男性保護主義者(フェミニスト)によってかなり念入りに潰されてしまっています」

 聞いている側の表情からため息が漏れた。色々と八方塞がりな状況だ。実践の機会はほぼない。

「他者からの強制があると抜けない。イケない、出来ないというのは良くある事でもありますから、しょうがない部分もあります」

 強制されても困る、それは確かなので皆複雑そうに頷く。

「一切を取り上げられてから、良くしてやったぞ感謝しろと言われるのも不思議な話ですが、数少ない実践の機会が無くなった私たちは嘆く事しかできません」

 当事者の苦労は色々あったのだろうが、全部なくなったのは実際辛いものがあるのだ。

 自由恋愛万歳と言う掛け声もあったらしいが、私たちは9割9分恋愛弱者なので、悲しい側だ。

「私たち、教育関係者や公務員、行政でも、一つの学区につき一人は男性をという努力目標がありますが、中々上手くいきません、そもそも母数が足りませんから」

「居ても、高確率で引きこもってしまうため、遭遇(エンカウント)するか微妙という実情もあります」

「まあ、男性の負担が重いため、よっぽど上手くやらないと長続きしないのですが」

 男女比的に男性一人につき100人孕ませないと少子化で、最終的に人類が絶滅する流れなので、各国必至である。

「地域おこしで始まった温泉息子のPOPすら炎上して禁止されましたからね、三助や夜這いの表現は男性搾取と言う事で」

 実家においてあったあのPOPに人権があるというのだ。ただの絵だというのに。

 裏設定で地域の神話や伝承をちゃんぽんした結果、夜這いが好きやら、三助で実家のお手伝いやら、飲むと脱いで踊るやら、手籠めにされてやらの設定が色々あるだけだが、表向きはただの絵である。

 ちなみに元ネタ的に、トイレで神様に襲われて身ごもった話や、天岩戸の際にまず脱いでそのまま踊ったアマノウズメノミコトや、洗うと神様がボロボロ出てくるスサノオノミコトやら色々だ、古事記から下ネタてんこ盛りなのだから、ネタを拾えば割と下ネタになるのも納得だと思うのだが。

「そんな訳で、表立った下ネタは最近風当たりが強く、ネタを探すのにも苦労します、世知辛いものですね?」

 その気持ちはよくわかる、授業で教師が言う事かはさておいて。

「そういえば、ミサゴさんの所、昔は三助さん居たんでしたっけ?」

 いきなりこっちに振られた。

 三助と言うのは、温泉や銭湯で身体を洗ってくれる男の人の職業だ、男の人が少ないこの世界では、かなりの人気職で、地域のアイドルみたいな扱いになって居る。居ると言うか、居たなのが悲しい所だが……

「大分前です、ひいおじいちゃんがやってたらしいです」

 腎虚(うちどめ)で引退しての大往生だった、かなりモテた色男で、地域の温泉息子POPのモデルにもされている。

 小さい頃に亡くなったのだが、お葬式は本当に大騒ぎで、全国ニュースになり、何千人単位で弔問(ちょうもん)客が来て大変だった記憶だ、私自身としては、ただの優しい御祖父ちゃんだったのだが、男の人は基本的にあんな感じの好々爺(こうこうや)で、良い人だと思っていたので、別の男性と出会ったときは色々衝撃を受けたものだ、アレだったら相手してもらわなくて良い。

「POPも飾れなくなっちゃったので、代わりに看板猫なら居るんですけどね?」

 猫や犬などのペットを臨時の接客担当にするのは割とよくやるネタだが、集客効果が三助より弱いのはいかんともしがたい。

「機会が有ったらお邪魔しようかと思いましたが、残念です」

 クラスの面々も半分は知ってたという感じに溜息をついた。そもそもこの土地に居る面々の半分ぐらいはそのひい御祖父ちゃんの落とし種で有るので、私も含めて割と身内である。

「三助ってなんです?」

 分からなかったらしい一人が質問と手を挙げた。地方の学校とは言え、新入りの余所者はそれなりに居るのだ。

「元ネタとしては、銭湯などのお風呂で火の番、掃除、客を洗う仕事をする男の人ですが、今回の場合は、温泉で客を洗う事と種付けが仕事ですね、かなりの大人物であったと聞いています」

 変な事言ったらただじゃ置かないぞと言う感じに無言の圧力がかかって居る事に気づいてか、最後はちゃんと褒めて〆たのは流石と言うべきだろうか?

 実際問題、この辺りの温泉観光の目玉だった三助さんが不在のお陰で温泉街が丸ごと寂れてきている、地域色を出せと言われても、海の幸と翡翠のお土産だけでは弱いのも確かだ、次の手はどうしたものだろうか?

 はあ……

 キーンコーンカーンコーン

 チャイムの音とため息が被った。

 まあ、日課として翡翠拾いにはいくのだが。


 追伸

 あくまでこちらの世界のです。 炎上した温泉娘のアレとかそんなのを反転するとこんな感じ?

 この世界だと男の数が少なすぎて、この爺様みたいに積極的な人だと地域丸ごとハーレム化するので、遺伝的に種は同じの畑違いの姉妹が多くなる、近親婚とか大変なので、時々国が介入したりする。

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