第8話 ミサゴ回想 保健体育の真面目な話 男女の偏り

「今から数百年前、一種の疫病が流行りました、大航海時代の船に乗って蔓延した、この疫病自体は今となってはありふれたインフルやその類となっていますが、全人口の9割が感染発症、当時は医療が今ほど発達していなかった事と、免疫を持つものが少なかった為、かなりの人口が減っています」

 教師が黒板に色々書きながら授業をしている、私達は真面目に授業を聞いていた。

 保健体育は下ネタ芸人気質な、思春期の私達には大好物の授業なのだが、この歴史が絡む部分は大まじめだ、なにしろ私達がモテない理由なのだから……

 ちなみに言ってしまうと、この辺りは生物と社会、公民、近代史、保管体育が入り混じる為、かなり難解なのだが、それぞれの授業で何度もやる関係上、割と皆覚えている。

「そして、コレ以降、何故か男児の出生率が明らかに下がり、女児の出生率が上がりました、このウイルスが原因ともされますが、ウイルスからは男児を減らす性質は発見されませんでした」

「対して、男児を減らす性質を持つウイルス、ではなく細菌が発見されています、ウイルスと細菌の違いは、最小単位がDNAで有るか、細胞であるか、単体で増殖能力を持つかどうか等在りますが、次のテストではそこまで突っ込まないので安心してください」

 必死にノートを取っていた面々が、一瞬気が抜けた様子でため息をついた。

「所で、私たちの体細胞の中には必ず存在する身近な寄生生物として、ミトコンドリアと言うものが存在します、恐らく生物の授業で習っているはずですが、これと同じ様に細胞の一つ一つに寄生する寄生生物、大きさとしては細菌類ですが、ヒトボルバキアと呼ばれるものが寄生しています」

 ここが大事と教師がボルバキアに〇を付ける。

「このボルバキア、基本的には虫に寄生する細菌と言われていたのですが、爬虫類や、人に感染するタイプが発見されました、主な性質として、母子感染する為にオスを殺すか、オスをメスに作り変える、宿主の免疫を強化する事等があげられます」

 母子感染に今度は〇を付ける。

「生き物の生殖にはオスとメス、精子と卵子が必要な訳ですが、精子は小さく無駄の無いフォルムの為、ボルバキアを運搬する事が出来ません」

 オスとメスと書き、オスから延びる矢印に×を付ける。

「対して、卵子の細胞は大きいため、ボルバキアが感染する事が出来ます、コレは母子感染と呼ばれ、同じ理由でミトコンドリアも母子感染します」

「ミトコンドリアは酸素をATP変換する人体に必須の共生生物の為、感染と言うのは人聞きが悪いですが、移動経路は同じです」

「ミトコンドリアは独自のDNAを持ち、母子感染するという性質から、追いかけていくとアフリカの一人の女性、ミトコンドリアイブと呼ばれる一人に収束しますが、同じようにボルバキアイブも追いかける事が出来る筈ですが、どうやらミトコンドリアより後から感染した事は分かっています」

「まあこの辺はやっぱりテストに出ませんが」

 黒板をまた消す、あああ……と言う感じのため息が漏れた。

「ボルバキア感染の性質に免疫の強化が有る為、件の疫病が蔓延した際、ボルバキアを体内で飼っていたものが生き残ったため、結果としてオス殺しの性質が表面化したものと思われます」

「同時に強化された免疫が男性の精子を殺すため、妊娠率が下がったともいわれますが、あくまで俗説です」

「免疫の関係上、女性の分泌物の酸度、PHが低いため男が生まれにくくなっている事も一因であるかもしれませんが」

「根本的にボルバキアが受精卵から発生が始まり、胚が作製される際に、オスからメスに身体を作り替えることが知られています」

「これによって、遺伝的にはオスなのに、体はメスと言う多少特異な存在が生まれます、コレは魂と遺伝子、染色体はオスですが、身体はメスで有る為、多少のミスマッチが起こります、よくある悩み相談、自分が女なのに女の子が好きと言うのも、これによって説明されます、本来の男女比を考えると、かなりの数が潜在的にソレに該当するはずですので、特異ではありますが、普通です、気に病むことは有りません」

「そもそも論、男性があまりにも少ない事により、正しい方向に性欲が向けられないので、代替行為と思われますが」

「魂が男であるため多少の行動の差異は発生しますが、最終的に身体と内臓の出すホルモンに引きずられてメス堕ちしますので、あまり気にする事は有りません」

「脳の構造的にはギリギリオスである為、ホルモン分泌が多少違いますが、言うほど見た目は違いませんので、一般人は気にする事は有りません、一部のアスリートは有利かもしれませんが、やはり誤差の範囲ですね?」

 身も蓋も無い事を言う。

「脱線しましたが、これによって男児の出生率は致命的に低いです、女児が生まれるのが通常で、男児が生まれるのが奇跡とまで言われる理由がこれです」

「今現在の男女比、公表値としては1/100程度と言われますが、実際に社会に出てみるとそれどころではないと感じると思われます、私の体感的には1/1000でも良い位です、男性は補助金等が有る関係上、社会に出てくる率が低いためです、その為、社会人になってから職場での出会いと言うものは期待できませんので注意してください。一部の特権階級が囲い込みをしている等の噂が流れますが、私達女があまりにも強く求婚するため逃げ回っている説もあります、男性は追いかけすぎると逃げます、法律的にも保護されて居る為、強く出過ぎると訴えられます、くれぐれも注意をして下さい」

 無茶な事を言う。

「そう考えると学生時代の方が出合いやすいわけですが、共学でも一学年に一人居るか居ないか位で、女だらけの中に男一人では疎外感を感じてしまう事が有り、不登校もよく起こります、世の中上手くいきません」

「ただし、それだけでは人口減少に歯止めがかからないため、国民の義務と権利として、女性は一人一人以上の出産、これは相手が居ない場合、国の精液ストックからの人工授精も選べます、この辺、出産育児は公金で補助も出ますし、育児が辛いときは赤ちゃんポストに預けてしまえば以降の手間はかかりません、あくまで産むことが義務な為の抜け道です、ストレス解消等で子供を虐待すると罰せられますので注意する様に。対して男性は病院で毎週一回の精液の提出が義務化されています」

 下ネタの気配に教室の面々がギラっとした。


 キーンコーンカーンコーン

「はい、今日はここまで、次回はもっと実践的なネタを話しましょう、お楽しみに」

 教師がニヤリと笑みを浮かべた。

 お預けかあと言う感じに教室の面々の力が抜けた。




 追伸

 男女比コレになると、どうしてもデストピア化しないと社会回りませんね?

 まあ、オスっぽい個体がリーダー化するしか生存ルート有りませんがね。

 ホルモン分泌的に、テストステロンが多いとオス扱いで女子の部に出れないと言うのは、オリンピックの伝統芸だったりしますが、この世界では割といっぱい居そうです。

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