第6話 そんなこんなで、混浴温泉

 そんなこんなの出会いがあって、今現在……

「ふう……ふう……ふう……」

 背後から物凄く荒い鼻息が響いていて、同時にわしゃわしゃと素手で背中を洗われていた。

 つまり。

 裸で混浴で、背中を流して貰っている、いや、なんでこうなった……?


 少し前。

 海野翡翠(うみのひすい)と言う呼び名が決まった後。

「ちょっと実家の方に連絡しますね」

 そう言ってミサゴが携帯電話を取り出し、少し離れて後ろを向いて通話を始めた。

「………一番良い部屋を確保しておいてください!」

 最後の一言が、こちらまで大きく響いた。

 大げさである、我々氷河期世代の独身おっさんは市場価値ほぼ無しなので、自分もほぼ価値無しだと思う。

 どうやって借りを返すか今から頭が痛い。

「まあ、歯車するのは慣れてるから、そのうち返せるだろう」

 働くの事態は慣れていたので、楽観的に構えることにした。


 そんな訳で、何というかエグイ勾配のつづら折りの坂道を登り、道路をそこそこ歩いたところで、止めてある白い軽トラが見えてきた。

 途中、コレ履いて下さいとミサゴが靴を脱いで差し出して来たり、やっぱり背中乗りますか?、等の謎の問答が有ったりしたが、裸足で歩く程度そんな苦痛でもないと断った。

 断る度にひどいショックを受けた顔をするのはやめてほしい、最終的に世話になるからその分で十分なのに。

 例の軽トラに乗る際にもやっぱりこんなのじゃダメですよねとか始まったが、良いから乗せろとそのまま助手席に乗り込んだりした。


 そして、思ったより寂れ気味の街道と温泉街を通り、一番奥の大きく立派だが温泉宿に案内され。

「お嬢、男の子なんて何処から攫ってきたんですか?!」

 従業員の方々と、そんな人聞きの悪い問答をしたりしていたので。

「これでも成人ですよ?」

 これでも30代であると言う後半は端折り、断りを入れた所。

「合法ショタ?!」

 等と言う謎のリアクションを取られた、確かに童顔でチビの自覚はあるが、そんなに小さかっただろうか?

 確かに時々、酒買うときに身分証明書は求められた記憶はあるが、そこまでじゃないはずなのに……

「すいません、お世話に成ります」

 ぺこりと頭を下げておいた所、静まり返ったので、気まずかったりもした。


 部屋の前に先にお風呂だと案内され、一番奥の温泉だとミサゴに案内され、混浴注意の札がついていたので、ついつい、「どうせだから一緒に入りますか?」と言う、おっさんとしては一発アウトなセクハラをついしてしまったところ、「良いんですか?!」と言う、予想外の返しをされ、あれよあれよと言う間に今に至るわけだ。

 うん、妙に扱いが良いね? 渡る世間に鬼はないと言う奴なんだろうか?



 なお、タオルは無い、お湯につけるのはマナー違反ですし、あかすりタオルは肌に悪いと素手である、しつこいようだが、全裸である。

 変な話だが、自分の身体が微妙に小さい気がする、鏡で見る限り、確かに自分で、見た顔であるのだが。

 正直、鏡を見て自分の容姿に違和感を抱くとかそれよりも、その後ろに映るミサゴの柔肌の方に視線が持っていかれてそれどころじゃない、成人したばかり位の若い肌、健康的な小麦色に日焼けした手足と、服の下の白い肌、ちゃんと運動しているのが一目でわかる、引き締まった身体。

 平たく言うと、自分のストライクど真ん中のエッチな身体だった。

 ちょっと髭が生え始めていたので、宿泊客無料な剃刀を一本貰い、必死に精神を落ち着かせて剃って居る所である。

 後ろでミサゴが何故か息を荒げて、たっぷり時間をかけて背中を洗い終わり、手がじわじわと横にずれてきている、くすぐったいと危ないのでと釘を刺していたので手が止まっているが、終わったのでと言う感じに手が離れていかないのが気になるところだ、さらに言うと、背中に柔らかくて硬い二つの突起も当たっていた気もする、いやもうこっちもリアクションと妄想でバッキバキなわけだが、どうやって誤魔化すか、いや、そのまま流れで?

 内心でそんな妄想を繰り広げる、正直こう言った経験値が足りないのだが、隠れて無かった事にしても楽しい事に成らないのは確かで、この年まで相手が居ない童貞力の高い賢者である、正直出会い方と口説き方が解りません。

 そんな悲しい事を思いだした。

 それはそうと、髭を無事剃り終えたので、改めて顔を洗い、ぐるっと顔を回してそり残しを確認、よし、大丈夫。

「ふひぃ」

 一息ついてリラックスする。

 しかし、何か若くなった?

 謎の違和感が出てくるが、先ずはこっちである。

「ありがとうございました、代わりにミサゴさんの背中も洗いましょうか?」

 冗談交じりに反撃を試みることにしてみた。男としてやられっぱなしはアレなのだ。

「……ひゃい! ……お願いします!」

 一拍おいて、何だか強めに肯定されてしまった、こっちのアレが臨戦態勢なのは位置関係と体さばきで多少誤魔化すが、見られたらそこまでと言う事で、さあて、頑張ろう。

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