第3話 運命的? な出会い
それを見つけた瞬間、思わずギョッと硬直した。
人なんかまずいない場所で入らしきものと遭遇したのだ、山の中で唐突に人が転がっていたら、まず行き倒れで死体かなんかだと思うだろう、そんな感じだ。
「ええ?嘘だあ?」
内心でビビリまくる私は、逃げ出したいのをこらえて逆に明るくつぶやく、この状態で暗くなったらドツボである。
「水死体(どざえもん)とか、ご勘弁・・・」
ぱっと見で人間らしいそれは、こちらからは顔とか見えない位置関係で浜辺の陸地に倒れていると言うか無造作にうつ伏せで転がっていた。
「マネキンじゃないよねえ?」
希望的観測で事件性がないことを祈り、ぎりぎりびっくりするだけの落ちを呟く。
綺麗に服を着てるんだからそんなはずないと内心で突っ込みを入れる。 打ちあがりマネキン何かはたいてい全裸だ。
隣国からの密入国とか流行った頃は、うちあがったソレに割とちょくちょく遭遇したらしいというのは親と祖母の代のお話だ、最近はそこまで物騒ではないはず。
水死体だったら三面記事である、やだなあ、第一発見者とか。そんな役にも立たないことを考えつつ、おっかなびっくりそれに近づいた。
「もしもーし、生きてますかー?」
極力距離を取りたくて、できる限り仰け反りつつ、つま先でソレの足の辺りにちょんちょんと触れる。 ぶよぶよしてたり、ぬちゃっとしてたり、べちゃっとしてたりと、そんないやな感触は感じない、この距離で変な臭いもない。
何故か直感的には良いもののような気さえしてくる。
どうやら腐ってはいないと言うことで少し恐怖心が薄れた。
今度は膝立ちになり、二の腕あたりに手で触れる、周りの石より暖かいのには気が付いた、冷たくないなら大丈夫、きっと生きてる、もう怖くない。
「もしもし? もしもーし?」
反応が鈍い、体温はあるので生きているはずなのだが、まさか寝ているだけという落ちだろうか? 脈は?
思わず首元に手を触れると、とくん、とくん、と言う規則正しい音は聞こえた、一人で心臓マッサージに人工呼吸という地獄のコンボをする必要はなさそうで何よりだ、何度か実習したことがあるが、正直あれは滅茶苦茶疲れるのだ。
「う········?」
それは、寝返りを打って転がる、背中を向けた横寝の姿勢から、仰向けの姿勢になる。そこで初めてその体格と顔を見た、あれ? 女の人じゃない? 男の人? 不思議な違和感を感じて内心で首をかしげる。
この辺で男の人なんていたっけ? むしろこの県全域でいるかすら怪しい位だ、ロクに出会たことが無いどころか、見たことすらほぼ無い。1対100位の歪な男女比率を描くこの世界で、男というのは徹底的に監理されていて、一部の金持ちとかで独占され、都市部に集中して、こういった寂れた地方の観光地何かには残っていないのだ、見かけても護衛がいっぱい周りに居て、まず近づけ無い。
男の人だったら、ぐへへへって感じに脱がして触れて心臓マッサージで人工呼吸も役得だったのにと内心で悔やむと言うか、妄想が浮かぶ、創作世界なら自由だって事で、どっかで見た、だがまだ意識がないならまだ触れても? いや待てもう意識が戻りかけてる、もう手は出せない、内心で天使と悪魔が葛藤する、だが下手に触れてセクハラ行為と認定されてしまうと私の社会的地位がと言う感じにブレーキがかかる。男女比率が歪なこの世界では何かあったときに女の人権は紙屑同然の為、本当に何かあったら怖い。
でも、こんな機会この後も絶対に無い、だが万一良い感じの印象を与えられれば、あわよくばなんてこともあるかもしれない。
というか、こんな至近距離で男の人なんて初めて見た、何がどう違うのかなんてよく判らないが、なんか違うんだろうなあとよく分からない関心の仕方をする。肌のキメは細かいし、日に焼けてもいないし、睫毛も長い、割とベースは良さそうな気がする。口周りにうっすら生えて見えるのは髭だろうか? 女よりちょっと硬いから感触が楽しいとか何とか聞いている、もっと触れて色々違いを確かめたいし、あわよくば子種とかもらいたい位だが、必死の理性で押しとどめる。 今なら誰もいないなんてことも考えるが、そもそも男性が護衛も無しにこんな所に居るはずがないだろう、いい加減にしろ!
そうだ護衛は? 取り巻きは?
子育て中の子熊母熊見たいなセットで居るものがお約束のハズなのだ。万が一なんてあったら同じように飛び掛かってくると聞いている。
ギョッとしてキョロキョロと周囲を見回す。
ざざーん
ざざーん
がらがらがらがら
波と石が転がる音しか聞こえない、誰も居ない、現場はほぼ断崖絶壁で実質絶海の孤島、もうすぐ満潮でもう一回水没する……
起きるの待ってる場合じゃねえ!?
咄嗟に腕に付けた潮汐計が付いた耐衝撃時計を確認する、今が一番引いてる時間、コレ逃すと次の引き潮まで動け無い、しかも大潮の日だ、この浜の形状から見て、満潮に成ったら高波で流されるのは確定だ、気温は兎も角、水温は冷たいのでかなり辛い、時間的にも元から駆け抜ければどうにか間に合う位の余裕しかなかったので、目を覚ますのを待っている余裕は無い。
「本当に何でこんな所にいるんだよぅ……起きてよう……」
気合を入れてガクガク揺らすが、起きてくれない。
中間地点にある階段付きの離脱ポイントまで結構あるけど、やるしかないか。
仰向けの人のお腹を枕にするようにして、直角に寝転ぶ。
何だかすごい安定感を感じる、肩と首の辺りに感じる体温と心音が心地よい、できる事なら一生これでも……
そんな寝言は置いておいて……
「よっこい……しょっ……と……」
腿の辺りに手を通して、全身の筋肉を使って寝返りを打つ感じにして。肩に担いで持ち上げた。
ファイヤーマンスタイルとかいうやつだ。
「教習所で習っておいてよかった……」
これはおまけだと教えられたのだが、何でも覚えておくものだ、我ながら感心する。
「じゃあ、行こうか」
気合を入れて歩き出した。
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