オッドアイエルフと優斗の純愛

吉田亜蓮

オッドアイエルフと優斗の純愛

 1人の右目が赤い瞳、左目が青い瞳のオッドアイ、長い美しい耳には赤い宝石のついたピアスをつけているエルフが歌を唄いながら巨大な大木を登っていた。


「今日は優斗ゆうとと会える日〜、お昼ご飯は豚骨ラーメン〜、豚骨ラーメンはやっぱり拳骨亭〜、こってりな豚骨スープとっても美味しい‥‥」


 彼女の名前はクロスティーヌ、エルフの国で神樹ユグドラシルの元で暮らしている。

 今日は異世界に行き、好きな男の子と豚骨ラーメンを食べる予定らしい。


 彼女は神樹ユグドラシルを登りきり神樹ユグドラシルの頂上に着いた。そこには、枝が円を描くように捩れ曲がり円の中が不思議な光を放っていた。

 

「ついたぁ! 帽子装着! 身だしなみオッケー!」


 彼女は美しい長い耳を隠すように帽子を深く被り、不思議な光を放つ円の中へ入っていった。円から出ると、そこには異世界が現れた。


 奇妙な箱が騒音を出しながら白線で区切られた道を走り、周りの建物は全て天高く聳え立っている。

 彼女は道に迷ったそぶりをせず、箱が通っていない道を歩き始めた。


「今日、優斗のバイトはどこだっけ? えーと、そうそう、ピィザァイアで配達してるんだった」


 彼女はポケットから手帳を取り出し歩きながら読んでいた。

彼女をすれ違う人達はそんな彼女には目もくれず、彼女をかわしていた。


 40分ほど彼女は歩き、ピィザァイアと書かれている看板のお店の前に立っていた。


「優斗はいるかな」


 彼女はガラス越しに店の中を確認していた。


「あっ! いた! 優斗! 優斗!」


 彼女に優斗と呼ばれる目の下のクマが濃い青年は彼女を見つけるなり、すぐに店から出てきた。


「おい! クロスティーヌ! バイト先には来るなって何度言ったら気が済むんだ!」


「だって、優斗に早く会いたかったし、お腹も減ったから早く豚骨ラーメン食べたかったの」


「あと、30分でバイトあがれるからそれまで外で待っててくれ」


「おやおや、東條君、また彼女連れてきちゃったの」


 優斗の後ろにスキンヘッドの怖い顔をしたおじさんが立っていた。


「店長。すみません、こいつに言い聞かせるんで」


「確か、東條君はあと少しであがりだよね。仕方ない、彼女を休憩室で待たせていいから、さっさと最後の配達行ってきて」


「え、休憩室上がらせていいんですか?」


「いいから、さぁ、ほら、配達行ってくる」


 店長はヘルメットを優斗に渡し配達に行かせた。


「クロスさんはこっちきて」


「あ、はい」


 彼女は店長について行き、彼女は初めて休憩室に入った。

2人は向かい合うように椅子に座った。


「あの、店長さん、私ここで待ってていいんですか?」


「いいよー、机の上に置いてあるお菓子、食べていいからね。おせんべ食べる? これ美味しいんだ。それにしても、東條君はこんなに可愛い彼女を外で待たせるなんて少しお説教かな」


「優斗のこと怒らないでください。私が予定より早くついちゃったのが悪いので」


「いや、東條君の事情はある程度聞いてるし、今日のデートなんて彼のバイト先に食べに行くんでしょ。デートがバイト先って、もう少し高校生らしいデートの仕方もあるじゃないかな。東條君、まだ二年生なのに、バイト掛け持ちしてるじゃない、彼は少し休んだほうがいいよね」


「店長さんは優しい人なんですね」


「優しい人か、そうだね、東條君がよく頑張ってくれているから少しでも手助けしたいって思ったんだよね。そうそう、東條君のお母さんまた病気再発したんだって」


「はい、だから優斗、もっとバイト増やさなきゃってこの頃、学校に行かずに仕事ばっかりで」


「ちょっとスケジュール帳見せてくれる?」


「はい」


 クロスティーヌは店長に手帳を渡した。


「うわっ、バイト何個掛け持ちしてるんだよ。まぁ、いくつか掛け持ちしてるのは知ってたけどさ、こうやってみると、東條君はお母さんの為に頑張っているってわかる。だけどこれじゃ、休みの日なんてないじゃないか、若いからこれだけ働けるのは分かる。俺だって若ければこのぐらい‥‥。いや、この量は俺には無理だな」


「優斗、とても疲れた顔していて、私、不安なんです」


「だから、東條君のバイト時間分かってても不安だから会いにきちゃったんだね」


「はい」


「クロスさんの不安な気持ち、俺にもわかるよ、東條君この頃深刻そうな顔して近寄りづらいオーラ纏っててさ、それなのに、自分は大丈夫ですって笑うんだ。ちょっと俺、あの笑顔見た時、怖って思ったんだよね。何度も休みなって話してるのに全く聞いてくれないからバイト時間減らしたんだけどさ、まさか空いた時間使って違うバイト入れるなんて考えていなかったよ」


「すみません」


「クロスさんが謝ることじゃないよ、東條君はもう少し休んでお母さんに会う回数増やしたほうがいいんじゃないかって俺が勝手に考えてるだけ。でもね、できる限りお母さんには会って欲しいよ。会える時に会わないと、急に会えなくなった時、とても寂しくなるから」


 店長はとても悲しそうな顔をした。


「店長さんはその経験をしたことあるんですか?」


「えぇ、父をね、喧嘩別れしてしまって久しぶりに会ったのが棺桶に入った父‥‥。あの時の後悔が未だに残っていてね。東條君には俺みたいな後悔してほしくないんだ。だから、クロスさん、東條君の側にできるだけいてやってください」


「はい、優斗が嫌がるほど側にいたいと思います!」


「ほんと東條君はいい彼女さんを持てて良かったね。俺も彼女がいたらなぁ」


「店長さんとっても良い人なんですぐに彼女さんみつかりますよ!」


「そう言って、俺さ、婚活パーティーとか色々出会いの場行っているのに全く連絡先ゲットできてないんだよ。なんでかな?やっぱり女性はスキンヘッド嫌い? 」


「私は髪型気にしたことないのでわからないです」


「だよね、人間の女性の感性はエルフにはわからないか」


「お力になれず、すみません」


「いいって、美人エルフと会話できるだけで、俺とっても嬉しいからさ、まさかエルフに会えるなんて夢にも思わなかったよ。なのに、東條君たら、外で待たせようとするなんて危ないでしょ! 変な人にエルフだってバレたらどうなるか分かってないんじゃないかな! この世の中、物騒だからね。クロスさん、変な人には付いていっちゃいけないからね」


「心配してくれてありがとうございます。でも、変な人にあったら魔法でチョイとすれば勝てるので大丈夫です」


「えっ? こっちの世界でも魔法って使えるの?」


「はい、使えますよ。そぉーれ」


 クロスティーヌは店長の体を風魔法で包み込み椅子から店長の体を浮かせた。


「おお!!! これぞ魔法! クロスさんこれって浮遊魔法? それとも風魔法?」


「風魔法です。あの、店長さんはなんで魔法使えるって知らなかったのに浮遊魔法を知っているのですか? 私の世界で浮遊魔法を知っているのは賢者様ぐらいしかいませんよ。はっ! もしかして、店長さんこの世界の賢者様ですか!?」


「俺は賢者様じゃないよ。いや、40代で童貞なら違う意味での賢者かもしれないね」


「やっぱり、店長さんは賢者様なのですね! それなら、賢者様とお呼びしてもよろしいですか」


「まぁ、褒められたような賢者じゃないから店長さんでいいよ」


「ただいま帰りました。って! 店長が浮いてる!?」


「やぁ、おかえり東條君」


「優斗、おかえり」


「クロスティーヌ、店長を下ろすんだ」


「東條君、俺はこのままでいいよ。これ結構楽しい」


「店長仕事中じゃないんですか!」


「休憩切ってあるから大丈夫」


「そういうことじゃ、厨房の人たちに怒られますよ」


「それは、ほら、大丈夫、休憩中だもん」


「はぁー、クロスティーヌ、着替えるからちょっと待ってて」


「はぁーい」


 優斗とクロスティーヌは店から出てラーメン屋の拳骨亭に向かった。拳骨亭の店の看板には休憩中と書かれていたが、2人はそのままお店の中に入っていった。


 拳骨亭の大将は2人が店に入ると豚骨ラーメンを作り始め、

カウンターに座っている2人に豚骨ラーメンを置き、大将は2人に話しかけてきた。


「おう! 優斗! 彼女連れてデートかい? 若いっていいね。俺も若かった時は何人もの女と付き合ったもんだ」


 奥の部屋から恰幅のいい女性が現れた。


「あら、あんた私以外の女と付き合ったことないって言ってたわよね? 私に嘘ついてたってことなのかい」


「嘘じゃないって、俺はお前しか付き合ったことないって」


「じゃあさっきの話は何なんだい?」


 大将は妻に胸ぐらを掴まれた。


「さっきの話は嘘です! 許してくれ! 俺が愛してるのはお前だけなんだ! 信じてくれ」


「ほぉ、そういうんだったら許してあげよう。だけど、次はないからね」


 大将は妻に睨まれ、まるで蛇に睨まれた蛙のようだった。


「優斗ちゃん、クロスティーヌちゃん、うちの馬鹿亭主がごめんよ」


「いえ、いつも美味しいラーメンありがとうございます」


 優斗は拳骨亭の大将の妻と話をしている間、クロスティーヌは豚骨ラーメンを食べていた。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ、あっつ」


「お前、猫舌なんだからもう少し冷まして食べろよな」


「ねぇねぇ、優斗、ふぅふぅしてー」


「しないって」


 拳骨亭の大将とその妻は顔をニヤニヤしながら2人を観察していた。


「2人とも何ですかその顔は!」


「優斗ちゃんがまさかこんな可愛い子連れてくるなんて思わなかったからさ、おばさん嬉しくて」


「やめてくださいよ」


「兄貴にも見せてやりたかった」


「あんた! 辛気臭い顔してるんじゃないわよ」


 バンっと大将の妻は大将の背中を思いっきり叩いた。


「ぐはぁっ! 頼む、若くないからこの威力は体に応える」


「何言ってるんだい、辛気臭い顔したのが悪いんじゃないか」


 2人はラーメンを食べ終え、拳骨亭の大将と妻と少しだけ雑談をした。


「それじゃ、お会計お願いします」


「会計? なんだいそれは、可愛い甥っ子からお金取ろうなんてするわけないだろ」


「きちんと払います」


 優斗は財布を取り出し2280円を会計トレーに出した。


「これはあたしの奢りにしとくからお金をしまいな。そういえば、もうそろそろバイトの時間だろクラスティーナちゃんはもう帰るのかい?」


「今日は優斗の家に泊まる予定なんです」


「あら、そうなのかい、優斗ちゃんもやるわね」


「やめてください、恵子おばさん」


「若いっていいねぇ」


 2人が店から出ようとすると急にスマホが鳴り始めた。

優斗はスマホの着信を見た瞬間顔が青ざめていった。

着信先は藤堂病院。


「はい、もしもし、はい、俺です。はい、母さんが‥‥。はい、直ぐに向かいます」


「優斗、大丈夫?」


「すまない、妹を藤堂病院まで連れてきてくれないか、俺はバイト先に連絡して直ぐに病院に向かう。恵子おばさん! 母さんが、母さんが」


「どうしたんだい!?」


 優斗は叔父と叔母に電話の内容を伝え直ぐにバイト先に電話して叔父と叔母の3人で藤堂病院に向かった。

 クロスティーヌは魔法を使い優斗の妹愛梨ちゃんを病院まで送ってあげた。


 病院の待合室には拳骨亭の叔父と叔母、優斗、愛梨、クロスティーヌの5人が話し合っていた。


「お兄ちゃん! ママがどうしたの」


「愛梨、母さんは今晩が山場だって先生に言われた」


「そんな、ママに会える」


「あぁ、クロスティーヌも病室入って大丈夫みたいだから一緒に会おう」


「えぇ」


 優斗のお母さんの病室に入り、彼女を見た。

彼女は、とても痩せていて髪は薬のせいで抜け落ちていた。

彼女は2人に気付くと、微かな声で2人に話しかけた。


「愛梨来てくれてありがとう。あら、クロスティーヌさんも来てくれたのね。嬉しいわ」


クロスティーヌと愛梨は涙を流した。


「あら、あら、泣かないの」


 彼女は手が震えながらも近くに置いてあったティッシュを取り出し2人の顔を拭った。


「母さん、俺、もっと、母さんに」


 優斗は泣き崩れた。


「優斗、今までありがとうね」


「そんなこと言うなって! まだ、生きているじゃないか」


「私の体のことを自分でわかるわ‥‥。最後にみんなに会えてとても嬉しい」


「ママ!」


「母さん!」


 優斗と愛梨は母親の手を握った。


「とっても暖かい。ねぇ、優斗、愛梨、母さん、寝むたくなってきちゃった」


「起きてよママ!」


「母さん」


「少し疲れちゃった‥‥‥」


 優斗のお母さんは眠りについた。


「母さん!!!」


「ママ!!!」


 優斗と愛梨は泣き叫んだ。

すると、病院の先生が病室に入ってきた。


「優斗君、愛梨ちゃん、お母さんはさっき薬を使った影響で眠っているだけですよ」


「それなら、先生、母さんは助かるんですか」


「助かるのは難しいでしょう。先ほど話しましたが、今晩が山場です。心の準備をしておいてください」


「わかりました。病室にいてもいいですか」


「えぇ、できるだけ側にいてあげてください」


 夜になった。

優斗、愛梨、叔父と叔母は病室で母親を見守っていた。

そして、クロスティーヌは病院の屋上で誰かを待っていた。


 クロスティーヌの長い耳が何かの音を感じ取ってピクリと動いた。


「優斗のお母さんの魂は狩らせたりしない」


 クロスティーヌは白い仮面を被った黒衣の男に杖を向けた。

黒衣の男の右手には漆黒の剣を握り、腰には黒い皮袋をぶら下げていた。


「すまないが、狩らせてもらう、これが仕事だからね」


「貴方を倒せば私の魔法でまだ生きれる。優斗が悲しむ姿これ以上見ていられない」


「なら、逆に解放してあげればいいじゃないか、死こそ、全てから解放することができる」


 クロスティーヌは黒衣の男に向けて魔法を放った。


「ふざけないで! 私はずっと優斗のお母さんの治療をしてきた。なのに、どうして治らないの! ユグドラシルで作った薬を使ったのに効力がないなんて」


 黒衣の男は軽々と魔法を躱し、クロスティーヌに剣を振るった。彼女は防御魔法を使い自身を守ったが、彼の攻撃の威力は彼女の想像以上だった、防御壁は壊れ、クロスティーヌの左肩に剣が刺さった。


「は、な、れろ!」


 クロスティーヌは風魔法を使い黒衣の男を突き飛ばした。

彼女は回復魔法を使い左肩の傷を治した。


「それは、自分自身の細胞で殺されるんだ、ユグドラシルはお前の世界では万能だが、こっちの世界じゃ、せいぜい死を少しだけ引き延ばせる程度だろうよ。それにしても、死神の俺を視認できるのもすごいって言うのに‥‥。本当に凄い女だ」


「次は絶対に殺す」


 クロスティーヌは杖の先に魔力を貯め一気に放出した。


「おっと」


 男は剣を使い彼女の魔力攻撃を防いだ。


「流石、半神エルフ様だ。だけどな、俺もこれが仕事だ邪魔をしないでくれ。好きでこんな仕事してるわけじゃないんだ、早く終わらせたいんだよ」


「貴方の仕事なんて知らない、さっさと死んで」


 クロスティーヌは複数の魔法陣を広範囲に展開し、あらゆる属性魔法攻撃を男に放った。


「これは、骨が折れるな、仕方ない、一撃で終わらすか」


 男の剣が淡い光を放ち始めた。彼は、魔法を交わしながら彼女に少しずつ近づき一撃を放った。


「封魔一閃ふうまいっせん」


 クロスティーヌを斬ったが彼女は無傷だった。


「どういうこと、それは、貴方が使える技じゃないわ」


「これで、魔法が使えなくなったな、それじゃ、元の世界に帰りな」


 クロスティーヌの背後に転移陣が現れ、彼女は元の世界へ帰った。


「やっと、終われる」


 男の真上に巨大な漆黒の鎌を持った黒衣を纏った女性が現れた。


「戦闘長かったわね。流石半神だけあるわ」


「先輩、俺、この仕事終わったら退社するでよろしくお願いします」


「退社なんて許すわけないじゃない、こんな働き者沢山使ってあげなきゃ。貴方いなくなったら‥‥。うわぁ、仕事多すぎて私婚期逃しちゃうじゃない」


「元々、婚期逃してるじゃないですか」


「おいクソ坊主、お前はいいよな彼女がいて」


「それじゃ、回収してきます」


「退社は無理だけど、休暇はあげるわ」


「長期休暇でお願いします。できれば100年ほど」


「仕方ないわね、考えておくわ。そうね、10年あげるわ」


「100年でお願いします」


 黒衣の男は優斗の母親の病室に向かい、彼女の魂を狩った。



 元の世界に戻ったクロスティーヌは魔法が使えない状態に陥っていた。


「どうして、どうして、魔法が封印されてる、あの攻撃、あの仕草どういうことなの」


 彼女は魔法の封印を解除するのに5年かかってしまった。

すぐさま彼女はユグドラシルの頂上に登り、異世界へと行こうとした。


「やっと、優斗に会える。どうしよう、優斗のお母さん助けられなかった。私はどんな顔で会えばいいの」


 ユグドラシルの転移陣が急に動き始めた。すると、優斗が魔法陣から現れた。


「優斗! どうして、貴方の世界からこっちの世界に来ることなんてできないはずなのに」


 優斗はとてもやつれていた。


「クロスティーヌ、どうしてあの夜いなくなったんだ、君がいなくなってから、俺は1人になったんだ、叔父さん叔母さんは強盗に会い2人とも殺された。妹の愛梨は、昨日交通事故に遭って死んだ。それに俺も、自殺したのにどうして、どうして俺だけ生き残っているんだ」


 優斗は涙を流し始めた。

クロスティーヌは彼を強く抱きしめた。


「優斗、優斗、ごめんなさい。私が弱いかったせいでお母さんのこと守れなかった。本当にごめんなさい。ごめんなさい」


「母さんを守るってどういうこと」


 クロスティーヌは病院の屋上で起こったことを全て話し、魔法を封じられていたことも話した。


「貴方のそばにいるって約束したのに本当にごめんなさい」


「もっと、母さんに会ってあげればよかった。愛梨の学費のためにバイト沢山入れてお金貯めてたのに、それなのに俺は馬鹿だお金があればどうにかなるって考えて‥‥」


「優斗はもう一度皆んなに会いたい?」


「それは会えるなら会いたいに決まっているだろ」


「お母さんにあまり会ってあげられなくて後悔してる?」


「後悔、あぁ、後悔してる」


「それなら、もう一度会わせてあげる。私にはもう会えなくなっちゃうけど、優斗の後悔を少しでも和らげられるなら私は大丈夫」


「クロスティーヌ、何を言っているんだ!」


 クロスティーヌの背後には巨大な黄金時計が現れ、彼女の右目が金色に光り輝いた。

彼女は優斗から離れ、魔法陣を展開した。


「待ってくれ、これはどういうことなんだ」


「これから優斗を私と初めて会った時間に送ってあげる。大丈夫、記憶は今のままの状態で戻れるようにしておくね。それじゃあ、優斗、最後に、私を助けてくれてありがとう」


「クロスティーヌ!!!」


 優斗はクロスティーヌに初めて会った公園で立っていた。彼は、スマホ取り出しカレンダーを確認した。

2021年10月30日だった。

慌ててクロスティーヌと撮った写真を確認したが、写真が一枚もなかった。

彼はその場で崩れ、地面を思いっきり殴った。


「どうして、どうして、クロスティーヌ」



 クロスティーヌはユグドラシルの頂上で体の半身が朽ちかけていた。たとえ半分神の血を引き継いていたとしても、異世界の人間の時間を戻せば自身の体が世界の因果を曲げたことで体が崩壊する。


『あぁ、私、やっと死ねるのね。優斗‥‥。これからは、幸せになってほしいな、悔いのないよう、いっぱいお母さんに会って、学校で友達沢山作ったりして優斗が話してくれていた、普通の学校生活を送ってほしい」


 彼女は走馬灯が頭の中で流れていった。


『私が半神だからって封印されていたのを助けてくれたのが、異世界から勇者候補として連れてこられた優斗だったのよね。あの時の優斗、怒ってたわね。私には罪がないって、そのおかげで私は救われたの』


 彼女の体の朽ちている所から塵が出始めた。


『優斗は本物の勇者だった。みんなを守るために魔王を倒し、世界を救った。なのに、こんな運命、おかしいわ』


 彼女の左手が消滅した。


『優斗が元の世界に戻った時、私のこと忘れないって言ってくれてた。本当に嬉しかった』


 彼女の意識が遠のいていった。


『あぁ、優斗、もう一度会いたい』


「やぁ、クロスティーヌ」


『貴方は、あの時の死神』


 死神は優しく彼女の頭を上げ自身の膝に彼女の頭を乗せた。

彼は白い仮面を外すと、それは彼女が見覚えのある顔であった。


「やっと、会えたね」


『あぁあ、優斗』


「君のせいで俺は大変だったんだぞ、きちんと母親に親孝行して、叔父さん叔母さんを強盗に会う前に助け出して、妹を大学まで行かせてさ、愛梨あいつ良いところのお坊ちゃん捕まえて結婚したんだよ。高校に真面目に通って勉強して、友達作って楽しかったこともあったけど、やっぱり俺には君がいないとダメだったんだ」


 優斗は彼女の涙を手で拭い頭を撫で始めた。


「それでさ、俺って君の世界を救った勇者だったんだろ、その功績を寿命で死んだ時に神様に言ってやったんだよ、そしたら、死神として仕事をすればもしかしたら君に会わせてくれるって言ってくれたから死神になったんだけどさ、死神部署、ブラック部署だったんだよ。俺、何年仕事し続けたと思う? 2045年間仕事続き、休暇なし、本当きつかったんだよ。でも、神様も流石に俺のお願いを叶えてくれたよ。君に会えたから」


 優斗は彼女の唇に優しくキスをした。


「死神になってやっと君に出会えたのに、久しぶりの出会いは俺の母親の魂を狩る仕事って神様って本当に酷いよな。感動的な再会なのに、君に殺気を向けられて俺とっても辛かったよ。いやぁ、あの時の君は本当に強かった。今までも色々な奴らが死を拒絶して戦ってきたけど、君の左肩を斬った時が一番心に応えた、君が俺を巻き戻す時に全部話したのが悪いかったんだぞ、君に言われた通りにしないとこうやって会いにいけなかったわけだし」


 優斗はもう一度彼女にキスをした。


「もう、我慢できない、君の魂を狩るけどいいよね」


『えぇ、喜んで』


 死神は彼女体と魂の繋ぎ目を剣で切り裂いた。

青白い炎を手に持ち黒い皮袋に入れ、彼女の死体を丁重に火葬した。



 優斗は自身を死神にした神に会いに行った。

神の部屋は書類の山がそこらじゅうにあり、机が書類に埋もれ同じく椅子も書類に埋もれていた。


「久しぶりです。死神になり、2045年間務めを果たしました。もうそろそろ、ボーナスを貰ってもよろしいですね」


 神様と呼ばれる金髪の美少年は左側にある書類の山から顔を出した。


「お前が言いたい事はわかっている。その半神の魂をボーナスとしてあげよう。だけど、仕事は辞めさせないからね、休暇だけなら許可しよう」


「それなら、100年ほど休ませてもらいます。妻とハネムーンに行くので」


「100年はダメ、まぁ10年程度だったから許してあげる。それにしても、まだ告白してないのに妻って、すごい自信だね。振られても知らないぞ、そうだな例えば、拗らせ童貞とは結婚しませんってね」


「俺が童貞だといったいどうしてわかったんだ」


「それは、僕こそが神だからだよ! いやー、ここまで1人の人を愛し続けるなんて人間ってやっぱり恐ろしいね」


「褒め言葉として受け取っておきます」


「ハネムーンお土産よろしくね」


「何でお土産買ってくる前提なんですか」


「あそこのお菓子美味しいからよろしくね」


「それでは、失礼します」


「仕事できたら連絡するからよろしくね」



 優斗は神の世界にある自宅へと帰った。

黒い皮袋から彼女の魂を取り出し彼女を目覚めさせた。


「んん、んー? ここはどこ?」


 彼女は辺りを見渡し部屋を確認していた。

部屋は綺麗に整頓され、生活に必要な最低限のものだけしか置いていなかった。

彼女は男を見つめた。


「優斗、おはよう」


「クロスティーヌ、おはよう」


 2人は涙を流しながら強く抱きしめあった。


「クロスティーヌ、キスしてもいいかい」


「えぇ、私も優斗とキスがしたい」


 2人は熱いキスをした。


「もう、我慢できない! 今晩、君を抱いていいかい」


 彼女は恥ずかしながら彼の唇にキスをした。


「あぁ、俺はとても幸せだ」


「私もよ」


 優斗は強く彼女を抱きしめた。


「クロスティーヌ、その、お、お、俺と結婚してくれないか」


「え、うーん、どうしようかな」


 優斗は彼女の想像していなかった反応に困惑していた。


「クロスティーヌ、どうして、告白を拒むんだ」


「だって、優斗が勇者だった時、もし好きな人ができて結婚を申し込むときは、雰囲気のいいビーチでしたいって言ってたじゃない。なのに、勢い任せに結婚申し込まれてもね」


「いや、勇者時代の記憶は今の俺は持ってないし、俺そんなこと言ったの?」


「言ったから私が覚えているのよ」


「丁度いい、ハネムーンを予定してた所が神達に人気のビーチなんだよ。そこで、もう一度結婚申し込んでいいかい?」


「それって、サプライズとかでするじゃないの、どうしていっちゃうのよ」


「その、ごめん」


 死神はエルフを抱く時、緊張し過ぎて気絶してしまった。

その後、死神はビーチでエルフに結婚を申し込み、いい返事をもらい、結婚式もその日に済まし初夜を迎えることに成功した。


「俺はいける、俺は世界を救った元勇者で死神だぞ、この前みたいな無様な真似は絶対に許されない。初夜だぞ初夜! 男を見せつけなければ、離婚されたら俺、死んじゃいそう」


 死神は半裸でベッドに座り独り言をぶつぶつと言っていた。

エルフはお風呂から上がりバスローブを身につけ男のいるベッドに歩いてきた。


「優斗、顔色わるけど大丈夫?」


「いや、顔色悪いわけないじゃないか! 俺は元気! 俺の息子の方も元気だよ!」


「優斗、また緊張してるでしょ」


 彼女に顔を覗き込まれ死神はたじろいた。


「緊張なんて! してない、俺は世界を救った元勇者! 魂を狩る死神なんだぞ」


「うーん、今回もダメそうだから私がリードしてあげる」


 エルフは死神を押し倒し死神の体にいっぱいキスをした。

 

「えっ、あの、クロスティーヌ、あっ、ちょっと、待って、待って、リードってどういうこと、もしかして一回誰かとその、セッ、セッ、セックスしたの!」


「えぇ、一回だけしたことあるわ」


 死神はとてつもなく落ち込んだ。


「一体、一体誰とやったんだよ! そんな、俺、必死に女抱きたい欲望抑えてきてたのに、どうして」


 死神は半泣きしていた。


「誰って、優斗しかいないじゃない」


「え? 俺、童貞だけど」


「勇者時代の優斗としたことあるの」


「くそぉ、勇者時代の俺、何羨ましいことしてやがるんだ、くそぉ、くそぉ、くそぉ」


「あの時の優斗、お酒弱いのに間違えて飲んじゃってベロンベロンに酔っ払ってたのよね」


「それで、やったのか」


「私が、その、つい、襲っちゃった」


「え!? あの、クロスティーヌさん、俺を襲ったって性的に俺を襲ったの」


「えぇ、そうよ。だって、優斗の事、狙っている女の子凄く多かったから、早めに始めて奪っとかないと取られちゃいそうで

ついね」


「ついって、でも、よかった。初めての相手、俺なんだよね。記憶ないけど」


「えぇ、だから私にー、抱かれなさい!」


「はい! クロスティーヌ様よろしくお願いします」


 死神とエルフの初夜はそれはそれはとても熱いものだったと死神は神様の少年に自慢していた。

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